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「ポスターで見る映画史Part3 SF・怪獣映画の世界」 東京国立近代美術館フィルムセンター

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東京国立近代美術館フィルムセンター
「ポスターで見る映画史Part3 SF・怪獣映画の世界」 
1/4~3/25



国内外のSF・怪獣映画ポスターが一堂に会しました。東京国立近代美術館フィルムセンターで開催中の、「ポスターで見る映画史Part3 SF・怪獣映画の世界」を見てきました。


「金星ロケット発進す」 1960年 クルト・メーツィヒ監督

前半は海外のSF・怪獣映画です。冒頭を飾るのは、1927年に公開された、古典的SF映画の「メトロポリス」のポスターでした。フリッツ・ラング監督によるドイツのサイレントの作品で、制作時から100年後のディストピア的世界を描きました。ポスターは1984年のリバイバル版でしたが、日本初公開時のパンフレットもあわせて展示されていました。幾何学モチーフを駆使したデザインは、今もなお、新鮮に映るかもしれません。


左下:「原始怪獣現わる」 1953年 ユージン・ロリー監督

「原始怪獣現わる」のポスターも迫力満点でした。1953年にアメリカで制作された作品で、映画史上、初めて核実験で誕生した怪獣が登場し、のちに日本の「ゴジラ」にも影響を与えました。牙を向いては街に襲いかかる怪獣の姿と、大混乱の中で逃げ惑う人々の光景には臨場感もありました。当時も、相当のインパクトをもって受け止められたのではないでしょうか。

スタンリー・キューブリック監督の映画ポスターも見どころの1つです。うち目立つのは、宇宙ステーションをデザインした、「2001年宇宙の旅」のポスターでした。言わずとしれたSF映画の金字塔で、私もリアルタイムでこそなかったものの、子どもの頃に何度かTVやメディアで見ては、かのラストへと至る謎めいたシーンに、何とも不思議な気持ちにさせられたことを思い出しました。

さらに続くのが、1960年代から80年代へ至るヨーロッパのSF映画で、タルコフスキーの名を世界に広めた「惑星ソラリス」などのポスターが目を引きました。

昨年12月にエピソード8が公開された、「スター・ウォーズ」シリーズのポスターもありました。1977年に公開の「新たなる希望」にはじまり、1980年の「帝国の逆襲」、さらに「ジェダイの帰還」から、のちにエピソード1として公開された「ファントム・メナス」へと続きます。第1作〜第6作目までの歴代ポスターが揃っていました。


「スター・ウォーズ 公開一周年記念ポスター」 1978年

また第1作の日本公開時に来日した、スタッフ、出演者が直筆のサインをした「スター・ウォーズ 公開一周年記念ポスター」も見逃せません。写真では分かりにくいかもしれませんが、スター・ウォーズ1周年を祝うためのケーキを模した部分に、監督のルーカスをはじめ、ハン・ソロのハリソン・フォード、さらにレイア姫のキャリー・フィッシャーらのサインが記されていました。なお一周年とあるのは、日本の公開が、アメリカより1年後であったためだそうです。まさにお宝ポスターでした。



さらに1970年代末から80年代にかけて、世界的にヒットした「エイリアン」、「グレムリン」、「ターミネーター」、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」、「ロボコップ」などのポスターも展示されています。またファンにとって嬉しいのが、1979年に公開された「スター・トレック」のポスターがあったことでした。七色の光の放つ宇宙空間の中を、カークやスポックの姿とともに、エンタープライズ号が進む姿をデザインしています。スター・トレックの原作者でもある、ジーン・ロッデンベリーが自ら製作した、記念すべき映画版の第1作でした。

後半は日本のSFと怪獣映画のポスターです。うちやはり目立つのが、一連の「ゴジラ」のシリーズで、1954年の1作目より、2004年の「ゴジラ FINAL WARS」までの13点のポスターが紹介されていました。とりわけ熱線を吹き出しながら、暴れるゴジラの立ち姿を描いた1作目のポスターは強烈で、赤く太い「ゴジラ」の題字も、先の「原始怪獣現わる」を彷彿させなくもありません。

そのゴジラのヒットにより生み出された、モスラやガメラなど、ほか怪獣映画のポスターも充実していました。中でもポスター8枚を並べ、幅3メートルにも及ぶ「モスラ」のポスターは圧巻の一言でした。これほどに巨大なポスターをどこに貼ったのでしょうか。



ラストは1970年以降の日本のSF映画のポスターでした。小松左京原作の「日本沈没」や、筒井康隆の小説に基づく「時をかける少女」も興味深いかもしれません。海外SF映画や日本の怪獣映画のポスターとはまた違ったセンスが感じられました。

全117点の展示です。ほかに映像や資料も加わります。何も映画の内容を知らずとも、ポスターを前にするだけでわくわくさせられるような展覧会でした。

【フィルムセンター】本日4日、展覧会「ポスターでみる映画史Part 3 SF・怪獣映画ポスターの世界」が開幕しました! ここでしか見られない幅約3メートル、8枚組の『モスラ』巨大ポスターにぜひご対面ください→ https://t.co/4ETvLHbD24 pic.twitter.com/f3Amv1qkJx

— 【公式】東京国立近代美術館 広報 (@MOMAT60th) 2018年1月4日
数枚のポスターのみ撮影が出来ます。(掲載写真は、撮影可能コーナーで撮影。)

3月25日まで開催されています。

「ポスターで見る映画史Part3 SF・怪獣映画の世界」 東京国立近代美術館フィルムセンター@MOMAT60th
会期:1月4日(木)~3月25日(日)
休館:月曜日。
時間:11:00~18:30
 *入館は閉館30分前まで
料金:一般250(200)円、大学生130(60)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *常設展示「日本映画の歴史」の入場料を含む。
住所:中央区京橋3-7-6
交通:東京メトロ銀座線京橋駅出口1より徒歩1分。都営浅草線宝町駅出口A4より徒歩1分。

「色絵 Japan CUTE!」 出光美術館

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出光美術館
「色絵 Japan CUTE!」 
1/12~3/25



古九谷、柿右衛門、鍋島から京焼、さらには欧州の焼き物などが揃います。出光美術館で開催中の「色絵 Japan CUTE!」を見てきました。

出展は怒涛の180点超です。大半が出光美術館のコレクションですが、ごく一部にサントリー美術館の作品が加わっていました。

色絵とは「釉薬をかけて焼いてから、色絵具で絵付けをしたやきもの」(解説より)を意味しますが、より広義に、色彩に彩られた焼き物を紹介しているのも特徴です。


「色絵花鳥文大皿」 古伊万里 江戸時代中期

はじまりは「季節を祝う、慶びを贈る」と題し、春夏秋冬のモチーフのほか、慶事に際し、贈物として人々に行き交った色絵の紹介でした。冒頭の鍋島の「色絵松竹梅文大皿」からして優品で、染付による松と梅の枝に、白い梅の花や竹の笹を色絵具で描き、まさにお正月に相応しい華やかな世界を構築していました。

伊万里の「色絵熨斗破魔弓文皿」も艶やかで、皿の中に、矢筒や弓がぐるりと一周、円を描くように表されています。破魔弓は男児の正月に送られる縁起物から、おそらくは正月用の祝いの器に用いられたと考えられていて、中には将軍の嫡子への献上品だという指摘もあるそうです。何と格式の高い作品ではないでしょうか。

色絵には季節感も重要でした。一例が「色絵梅花鷽文富士形皿」で、富士山の形をした皿に、梅や鷽が描かれています。この鳥の鷽(うそ)は、嘘に通じることから、前年の凶事を嘘とし、今年の吉事に置き換えることを祈念した、いわゆる春の正月の鷽替えの神事として表されました。

波間に牡丹を描いた「色絵波牡丹文皿」も美しいのではないでしょうか。夏を表す作品で、牡丹は日輪のごとく咲き誇り、どこか祝典的な雰囲気も感じられなくもありません。また紫陽花の花のみならず、葉脈までも細かに表した「色絵紫陽花文共蓋壺」も味わい深い作品でした。まさに四季折々の風情を色絵から楽しむことが出来ました。

続くキーワードが「ファッションと文学」でした。そもそも色絵には、流行の先端にあった小袖のデザインを取り入れた作品も少なくありません。

例えば古九谷の「色絵瓜文大皿」です。皿の全体に、瓜の葉を広がる姿を表現していますが、小袖の雛型本から取り込まれたモチーフで、細かい丸文も、染色の絞りの文様に似ていました。

文学主題では尾形乾山の「色絵定家詠十二ヶ月和歌花鳥図角皿」に心惹かれました。定家に詠まれた各月の花鳥を皿に表した作品で、一月は鶯、二月は雉、三月は雀と続いていきます。また、皿の裏面に記された和歌が、パネルで紹介されていたのも嬉しいところでした。さらに同じく乾山の「色絵龍田川文透彫反鉢」も、和歌でも登場する紅葉の名所を、鉢全体の内外で表現した作品で、朱や黄に染まる紅葉は、まるで実際の水に流れているかのようでした。乾山の表現力に改めて感心させられました。


「色絵花鳥流水文蓋物」 柿右衛門 江戸時代前期

日本の柿右衛門や古伊万里は欧州へ輸出され、ドイツのマイセン、オランダのデルフト、イギリスのウースターなどに大きな影響を与えました。

その日欧の焼き物の比較も見どころの1つです。例えば柿右衛門の「色絵梅粟鶉文皿」では、梅と鶉、それに粟の穂を描いていますが、チェルシー窯の「色絵梅粟鶉文十角皿」にも、同様のモチーフを見ることが出来ました。


「色絵梅菊文水注・ティーカップ」 ドイツ・マイセン窯 18世紀

日中欧の色絵三変奏と呼べるかもしれません。それが柿右衛門の「色絵粟鶉文八角鉢」と景徳鎮の「五彩粟鶉文皿」、そしてデルフトの「色絵粟鶉文大皿」で、いずれも鶉の番いなどをモチーフにしているものの、例えば景徳鎮ではバッタが描き加えられ、デフルトではより素朴な描写として表されるなど、微妙な変化も見られました。解説に「伝言ゲーム」とありましたが、必ずしも写しではなく、アレンジが加わるのも興味深いところでした。

それにしてさすがの優品揃いです。心惹かれた作品は1つや2つにとどまりません。うち古伊万里の「色絵縞文各徳利」も魅惑的でした。各徳利の各面に、赤、緑、茶の色の帯を、斜めのストライプにして描いています。そのデザインは今見ても古びることはありません。さぞかし酒もすすみそうです。


「色絵熨斗文茶碗」 野々村仁清 江戸時代中期

茶の湯や、紅茶やコーヒのポットにカップなど、いわゆる茶会の器にも色絵は数多く登場しました。野々村仁清の「色絵熨斗文茶碗」のデザインも斬新で、カラフルな熨斗が、茶碗の胴を棚引くように表現しています。熨斗の縁が、僅かな金彩で象られているのも風雅でした。

これまでにも度々、出光美術館の展示を追いかけてきたつもりでしたが、まさかこれほど色絵のコレクションが充実しているとは思いませんでした。日本の器だけでなく、マイセンもウースターもデルフトも、出光のコレクションでした。


「色絵紅葉文壺」 尾形乾山 江戸時代中期

開催第1週目の土曜日に出かけたからか、館内には余裕がありました。

【サライ.jp最新記事】 江戸時代に花開いたカラフルなやきもの「色絵」の魅力に迫る展覧会《色絵 Japan CUTE!》 https://t.co/gyV49BDg8G #催し物 <<クリックしてチェック! pic.twitter.com/FzYJuwivzj

— 大人の雑誌『サライ』公式 (@seraijp) 2018年1月12日
3月25日まで開催されています。

「色絵 Japan CUTE!」 出光美術館
会期:1月12日(金)~3月25日(日)
休館:月曜日。但し2月12日は開館。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜日は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。

「Moving Plants 渡邊耕一展」 資生堂ギャラリー」

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資生堂ギャラリー
「Moving Plants 渡邊耕一展」 
1/13~3/25



資生堂ギャラリーで開催中の「Moving Plants 渡邊耕一展」を見てきました。

東アジア原産で、日本でも雑草として生息し、世界各地に広まった多年生植物、「イタドリ」の姿を、10年もかけて撮り続けた一人の写真家がいました。

その人物こそが渡邊耕一です。1967年に大阪で生まれ、1990年に大阪市立大学文学部心理学専攻を卒業。のちにIMI研究所写真コース修了し、主に植物をテーマとした写真作品を作り続けています。



渡邊が初めてイタドリに出会ったのは、今から約15年前、旅先の北海道の平原でした。風景の隅々に巨大な草があることに気づいた渡邊は、植物図鑑を頼りに、植物の名を探しました。それが「オオイタドリ」という名前でした。そしてイタドリの葉を眺めているうち、かつて自宅付近の小川の土手に、たくさんの白い花を咲かせていた姿を思い出したそうです。



イタドリは古くから日本に根付いていた植物でした。例えば江戸時代の「和漢三才図会」でも、日本書紀や枕草子の逸話が引用されている上、植物の薬効や特性についての記述もあります。また薬草だけなく、食材として利用する地域もありました。もはや文化の中に入り込んでいると言って良いかもしれません。

イタドリは19世紀に入って世界へと広まりました。きっかけは、ドイツの医者で、植物学者でもあったシーボルトでした。1823年、オランダ政府の委嘱を受けたシーボルトは、オランダ商館医として長崎の出島へとやって来ました。出島内にて開業し、のちに鳴滝塾を開設しては、西洋医学を教えました。さらに日本の自然誌的研究を行い、収集した植物を大量に本国へ持ち帰りました。その中にイタドリも含まれていたようです。

今でもオランダのライデンの植物園には、シーボルトの植えた個体が生きていて、「シーボルトが導入したイタドリ」とラベルの付されたイタドリも植えられています。また1850年には、イギリスのキュー王立植物園へもイタドリが届けられました。つまりイタドリは、長崎に滞在していたシーボルトにより、園芸用のアイテムとしてヨーロッパに持ち出され、世界へと広まったわけでした。



イタドリの生命力は強く、次第に野生化し、土地の生態系を変えてしまうほど繁殖しました。特に地下茎が強靭で、コンクリートやアスファルトを突き破るほどの力を持っているそうです。現在では国際自然保護連合により、侵略的外来種ワースト100に選定され、駆除の対象と化しました。実際にイギリスでは環境保護法により、イタドリを含む土壌の運搬が禁止されているほか、イタドリの天敵とされる虫を放つ作業も行われているそうです。ただし一筋縄ではいかないのか、今の段階において虫による防除は機能していません。



会場では、渡邊が撮影した各地域のイタドリをはじめ、駆除に関する研究所、さらには花卸売場の写真のほか、シーボルトに関する資料などを展示しています。

いわゆる写真展ではありますが、フィールドワークは大変に綿密で、イタドリに関するドキュメンタリーを見ているような気持ちにさせられました。詳細な解説シートしかり、かなり読ませます。



イタドリの旺盛な生命力は、プリント作品からもひしひしと伝わりました。今後、この緑は、いかなる生態系を生み出すのでしょうか。

「渡邊展Moving Plants」がスタートしました📷こちらは内覧会の様子。和やかな雰囲気の中、展示の見どころなどについて渡邊さんにお話しいただきました。 pic.twitter.com/i8mRMJZsrJ

— 資生堂ギャラリー (@ShiseidoGallery) 2018年1月16日
奥の小展示室のみ撮影が可能です。3月25日まで開催されています。

「Moving Plants 渡邊耕一展」 資生堂ギャラリー@ShiseidoGallery
会期:1月13日(土)~3月25日(日)
休廊:月曜日。
料金:無料
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。

「南方熊楠ー100年早かった智の人」 国立科学博物館

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国立科学博物館
「南方熊楠ー100年早かった智の人」 
2017/12/19~2018/3/4



国立科学博物館で開催中の「南方熊楠ー100年早かった智の人」を見て来ました。

菌類の研究をはじめ、自然史や民俗学の資料を数多く収集したことで知られる南方熊楠は、2017年に生誕150年を迎えました。

それを期しての展覧会です。日記、書簡、筆写ノートのほか、各種の菌類図譜を参照し、熊楠の業績を検証していました。


「和漢三才図会抜書」

はじまりは熊楠の生涯でした。1867年、和歌山の商家に生まれた熊楠は、幼い頃から百科事典や本草書の筆写に取り組みました。よほど早熟だったのでしょうか。早くも8歳にして、「和漢三才図会」105巻の筆写に励みました。


「予備門時代のノート」

そして和歌山中学校に進学し、西洋の博物学を学び、17歳にして東京帝国大学予備門(現、教養学部)に進学します。しかし予備門で落第したため、中退し、和歌山へと帰郷しました。学業そっちのけで、菌類の標本採集に明け暮れていたそうです。

ここで熊楠は思い切った行動に出ました。渡米です。博物学的な学問への関心が捨てきれない熊楠は、酒造会社で成功していた父に、「商売の勉強のため」と称して、サンフランシスコへと渡りました。時に熊楠、20歳、1887年のことでした。


「書き込み該当植物標本」(ミシガン州にて)

当初はビジネススクールに入学しますが、興味が持てずに退学し、ミシガンへと移り、同地の州立農学校へと入学します。しかしここでも安定しません。豪気な性格だったのか、ほかの学生との衝突や飲酒事件により、校則に違反して、退学を余儀なくされました。

それ以降は、独学を貫きました。同じくミシガン州のアナーバーへと移り、アマチュアの菌学者のウィリアム・カルキンスと交流しながら、標本の採集に務めました。フロリダからキューバへの採集旅行に出かけたこともありました。


「ロンドン抜書」/「ロンドン戯画」

さらに熊楠は海を渡りました。行き先はロンドンです。ここではアメリカ時代の採集活動とは一転、大英博物館図書室に足繁く出入りし、東洋関係の文物の整理をしながら、読書に励み、民俗学や自然科学の知識を吸収しました。一連の書籍からノートに抜き書きした、通称「ロンドン抜書」は、計52冊、1万ページにも及びました。さらに科学誌「ネイチャー」に「東洋の星座」のほか、多数の論文を投稿するなどして活動しました。

結果的に熊楠は14年間にも及ぶ渡米、渡英生活を終え、1900年に帰国しました。数年前に父が亡くなり、実家から仕送りが途絶えたことも一因だったそうです。和歌山市に戻った熊楠は、その後、那智へ赴き、再び収集活動に没頭します。先の「ロンドン抜書」を用いては論文を執筆し、充実した時間を過ごすも、のちに論文が不採択になるなど、研究活動は次第に追い込まれていきました。


「変形菌類の進献標本」

しかしここで負ける熊楠ではありません。次に拠点としたのは紀伊田辺でした。1906年には神社の宮司の四女、松枝と結婚し、家庭を築きます。この頃から再び生活が安定しはじめたようです。日本の変形菌をリストアップした目録を出版し、時の摂政宮(のちの昭和天皇)に標本を献上するなど、研究者としての一定の評価を得ました。


「キャラメル箱」 *熊楠が標本を入れた箱と同型のもの

1929年、62歳の熊楠は、南紀に行幸した昭和天皇に直接、ご進講する機会を得ました。この時、標本などを献上しましたが、高級な桐箱ではなく、なんとキャラメルの空箱に入れて献じたそうです。そして1941年、74歳で生涯を閉じました。


「菌標本」(長持ち)

フィールドワーク関係の資料が充実していました。熊楠は帰国後、変形菌10、キノコ450、地衣類100などと目標を立てて、採集活動に励んでいましたが、9ヶ月で目標を超えてしまいます。


「絵具・描画道具入り採集箱」

採種のためのピンセットやハンマー、またキノコの形を写すための絵具入りの採種箱も目を引きました。那智の生物多様性は、熊楠の想像を遥かに超えるものだったようです。一時期の日光への採種旅行のほかは、紀伊半島から出ることはありませんでした。


「熊楠が採集した大型藻類標本」ほか

熊楠が特に関心を持っていたのは、シダやコケ、それに菌類などを意味する隠花植物でした。ここで面白いのは、熊楠が採種した標本と、現代の標本資料が比較されていることです。熊楠の研究成果と、現代の科学の知見を相互に見比べることが出来ました。


「熊楠が採集した菌類標本」と「現在の菌類標本」

熊楠の標本は、自然科学で分類上の所属を決定する、いわゆる同定がなされていないものも少なくありません。特に地衣類は700点も収集しましたが、大半が未同定でした。日本の地衣類についてのデータがまとめられていなかったことなどが原因でもあるそうです。


「菌名:記載なし」ほか 1903.4.6採集

ハイライトとも言えるのが、熊楠の残した大量の「菌類図譜」でした。熊楠は那智から田辺時代に採取した菌類を水彩で描写し、実物をスライスするなどして貼り付け、さらに採取地や形態や色、匂いなどの情報を事細かに記した「菌類図譜」を制作しました。全部で4000点にも及びます。


「菌名:Fomes」 1921.8.10採集

現在、「菌類図譜」の大半は、国立科学博物館に所蔵されていますが、一部は欠けていて、全て揃っていませんでした。しかし近年になって、欠けていた部分が発見されました。それらを「菌類図譜・第二集」として、今回初めて公開しています。

これが実際に見るとかなり細かくて驚きました。また会場では、そもそも何故に熊楠が図譜を残したのかや、何を目的にしようとしていたのかについても、パネルで検証していました。理解も深まるのではないでしょうか。


「南方二書」

神社合祀反対運動も熊楠の重要な活動の1つでした。1906年に明治政府は、神社合祀に関する勅令を出します。それは町村合併により、複数の神社を1つに統合するもので、廃止された神社の土地を民間に払い下げることを目的としました。日露戦争での戦費を補う意味もあったそうです。

これに異を唱えたのが熊楠でした。彼は神社の森が消えることで、貴重な生態系が破壊されることや、日本の精神世界に悪しき影響を与えると指摘しました。かの民俗学者、柳田国男も熊楠の支援にまわり、反対意見を記した「南方二書」を印刷し、各界の有識者に配布しました。一種の自然保護運動と呼んでも差し支えないかもしれません。


「熊楠の自筆原稿」 十二支考「鼠」原稿

ラストは、熊楠が、1914年から雑誌「太陽」に連載した「十二支考」でした。各年の干支の動物について、各国語の語源、ないし生物学的特徴、史話、民俗などの分野の知識を紹介するもので、今でも熊楠の世界観を示す著作として知られています。


「虎 腹稿」

その自筆原稿とともに重要なのが、複数の腹稿と呼ばれるメモでした。しかし単にメモといえども、極めて個性的で、素人では文字の解読はもはや出来ません。


「智の構造を探る」 パネル展示

それゆえに現在も副稿を解読すべく研究が進んでいるそうです。熊楠の思考プロセスを垣間見るかのようでした。


「南方熊楠ー100年早かった智の人」会場風景

会場は、常設展内、日本館1階の企画展示室です。必ずしも広いスペースではありませんが、ともかく資料は大変に豊富で、熊楠の業績を丁寧にかつ多面的に追いかけていました。

休日の夕方前に行ってきましたが、場内は思いの外に混雑していました。行列などは皆無ですが、金曜、土曜日の夜間開館も有用となりそうです。

また係の方に申し出ると、内容に準拠した立派なリーフレットも頂戴出来ました。常設展入館料で観覧可能ですが、一特別展としても遜色がありません。想像以上に充実していました。

3月4日まで開催されています。これはおすすめします。

「南方熊楠ー100年早かった智の人」 国立科学博物館
会期:2017年12月19日(火)~2018年3月4日(日)
休館:7月18日(火)、9月4日(月)、11日(月)、19日(火)。
時間:9:00~17:00。
 *毎週金・土曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般・大学生620円、高校生以下無料。
住所:台東区上野公園7-20
交通:JR線上野駅公園口徒歩5分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成線京成上野駅徒歩10分。

「グレース・タン Materials & Methods」 ポーラミュージアムアネックス

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ポーラミュージアムアネックス
「グレース・タン Materials & Methods」 
1/19〜2/18



ポーラミュージアムアネックスで開催中の「グレース・タン Materials & Methods」を見て来ました。

1979年にマレーシアで生まれ、シンガポールに在住するグレース・タンは、ファッションの素材やフォルム、それに構造に着目し、布の作品の制作にとどまらず、いわゆるアートの領域でも幅広く活動してきました。

そのタンの初期から近作までの35点の作品がやって来ました。日本で初めての大型の個展でもあります。



意外な質感を引き出す作品が目を引きました。その1つが「生命体、成長」と題された作品で、透明のアクリルケースの中には、何やらサンゴか植物を思わせるようなオブジェが詰められています。背後からライトに照らされる姿は美しく、まるで清流の中を水草がなびくようにも見えなくはありません。

実のところ素材は、ループピンとケーブルタイ、つまり値札などをつけるタグであり、また結束バントでした。しかも色はなくモノクロームです。このようにタンは、ごくありふれたプラスチック製の日用品を、かくも有機的とも呼べる形態へと変化させました。



タンの構造への考察は、色鮮やかな糸の花のオブジェを生み出しました。それが「秩序と無秩序」で、秩序では、折り目やプリーツのサイズを固定し、何度も繰り返された同じ作品になるように作られています。一方での無秩序は、自然発生的な増殖を志向し、縫い合わせの工程などに特別のルールを用いていません。



また同じサイズのパネルを組み合わせたり、布の寸法を小さいものから大きい布へと組み合わせる作品など、「反復」も制作に当たっての1つのテーマでした。



素材に対しての繊細な感覚が伺えるのも、タンの作品の特徴と言えるかもしれません。「層、堆積」では、素材と顔料の構造方法を探るべく、さも地層を形成するかのようにして、多様な素材を積み重ねています。その1つの原料が炭酸カルシウムであり、天然ミネラルでした。また胡粉やにかわといった、伝統的な顔料を取り込んでいるのも、興味深いポイントかもしれません。



タンのインスピレーションの源は実に多様でした。「MM」は、J.Sバッハの名曲、「フーガの技法」を、超多面体のグラフィック線画に表現しました。さらに「POPPY」では、ポピーの花びらの質感を取り込み、金属ディスクに折り込みの模様を施し、さらに手でボウル型に象りました。また「SYMMETRY」は、内側に三角形、外側に五角形と六角形の二層の球面体で構成された作品で、いずれも「円」から作られました。幾何学的モチーフを取り込んでいるのも、1つの特徴と言えるかもしれません。



最も目立っていたのが、無数のプリーツで構成されたドレスでした。「ruffs」と呼ばれる、16〜17世紀のヨーロッパで男女に用いられた襞襟を寄せ集めた作品で、一般的なドレスの概念とは異なったアッサンブラージュの技法により制作されています。



さらにマテリアル・ラボでは、ループピンやケーブルタイによって構成されたユニットも展示していました。その一部には、1月20日に行われたワークショップの参加者による作品も含まれていました。



タンはシンガポールで大規模なパブリックコレクションを制作しているほか、芸術祭などでもインスタレーションを発表しているそうです。今回は比較的小さな作品が目立ちましたが、いつかは大型の作品に接する機会があればとも思いました。



「オール・ハンドメイド」(公式サイトより)だそうです。タンの素材への学究的な関心はもとより、細かな手仕事にも見入るものがありました。

グレース・タン日本初の大型個展、ファッションデザインのメソッドをアートに https://t.co/ol5lJcEHrP pic.twitter.com/54SZgfijLJ

— NeoL Magazine (@NeoL_Magazine) 2018年1月18日
2月18日まで開催されています。

「グレース・タン Materials & Methods」 ポーラミュージアムアネックス@POLA_ANNEX
会期:1月19日(金)〜2月18日(日)
休館:会期中無休
料金:無料
時間:11:00~20:00 *入場は閉館の30分前まで
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。

「ルドルフ2世の驚異の世界」 Bunkamura ザ・ミュージアム

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Bunkamura ザ・ミュージアム
「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界」
1/6〜3/11



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界」を見てきました。

アルチンボルドの庇護者でもあり、神聖ローマ帝国皇帝として君臨したルドルフ2世(1552〜1612)は、芸術作品のみならず、最先端の科学機器や世界各地の自然物を蒐集した、稀代のコレクターでもありました。

そのルドルフ2世の好奇心の在処を探る展覧会です。皇帝の集めたコレクションはもちろん、天文学や占星術なども参照し、同時代の多様な自然科学、芸術世界を紹介していました。

1552年、父のマクシミリアン2世の子としてウィーンに生まれたルドルフ2世は、10代の大半をスペインの宮廷で過ごし、カトリックの教徒となりました。のちに皇帝に即位すると、1583年、ハプスブルク家の首都をウィーンからプラハへと移しました。その一因に、自身の弾圧したプロテスタントの荒波から避けるためとも、またトルコを牽制するためであったとも言われています。

ルーカス・ファン・ファルケンボルフの「皇帝ルドルフ2世」は、最近になって発見された肖像画で、皇帝の30歳頃の姿を描いています。儀礼用の甲冑に身を包んだ様子は堂々としていて、装身具の金属の質感なども細かに表現されていました。


作者不詳 「デンマークの天文学者ティコ・ブラーエの肖像」 1596年 スコークロステル城、スウェーデン

大航海時代以降、ヨーロッパでは領土の拡大が盛んで、それに伴って新たな動植物や鉱物が次々と発見されました。ルドルフ2世の生きた16世紀末から17世紀にかけては、天体観測もはじまり、かのガリレイが地動説を唱えるなど、宇宙への関心も広がった時代でした。そしてルドルフ2世も天文学や占星術への興味が強く、デンマークの天文学者のティコ・ブラーエや、ヨハネス・ケプラーを、お抱えの天文学者として雇用しました。ケプラーの著した「コペルニクス天文学要約」や、ガリレイの「天文対話」などの書籍資料も、見どころの一つと言えるかもしれません。

ファルケンボルフの「ノイゲボイデ城の近くの散歩道に立つ皇帝」は、ルドルフ2世が城の近くのテラス中央に立つ姿を描いた作品で、大勢の人が集い、中には皇帝一向に向けてグラスを差し出す人物も見られました。さらに「バベルの塔の建設」や「峡谷の眺望」など、ファケンボルフの絵画が思いがけないほど充実していたのも特徴かもしれません。

ファルケンボルフと同様、絵画で目立っていたのは、ルドルフ2世のお抱え画家であった、ルーラント・サーフェリーでした。皇帝は標本を蒐集するだけでなく、動物園を築き、とりわけ馬を愛好していました。オランダ生まれのサーフェリーは、ルドルフ2世に呼ばれ、プラハへ移り、鳥獣画を得意としながら、風景画も多く制作しました。アルプス山脈東部のチロル地方に派遣され、山岳風景を皇帝のために描いたこともあったそうです。


ルーラント・サーフェリー「2頭の馬と馬丁たち」 1628年頃 コルトレイク市美術館、ベルギー

そのサーフェリーの「2頭の馬と馬丁たち」は、おそらく皇帝の厩舎で見た馬をモデルとした作品で、馬丁に引かれ、互いに向き合う2頭の馬を真横から描いています。皇帝はヨーロッパ中から良馬を集めては飼育させていたそうです。


ルーラント・サーフェリー 「動物に音楽を奏でるオルフェウス」 1625年 プラハ国立美術館、チェコ共和国

同じくサーフェリーの「動物に音楽を奏でるオルフェウス」も魅惑的な作品ではないでしょうか。主題こそギリシャ神話に基づきながらも、画面を多く支配するのは、数多くの動物たちで、そもそも一見しただけでは、オルフェウスがどこにいるのかもよく分かりません。


ヤン・ブリューゲル(父)「陶製の花瓶に生けられた小さな花束」 1607年頃 ウィーン美術史美術館

ヤン・ブリューゲル(父)もプラハを訪ねていました。うち「陶製の花瓶に生けられた小さな花束」は実に艶やかな作品で、大きな花瓶へ生けられた溢れんばかりの花を描いていました。なおここで秀逸なのが、解説のパネルで、画中に登場する46種の花と、約15種の昆虫を図解で紹介しています。見比べるのも面白いのではないでしょうか。


ヨーリス・フーフナーヘル「人生の短さの寓意(花と昆虫のいる二連画)」 1591年 リール美術館

自然の博物を細密画で表現したヨーリス・フーフナーヘルの「人生の短さの寓意(花と昆虫のいる二連画)」も目を引きました。毛虫やカタツムリ、それに蛾などを、淡い水彩やグアッシュで描き切っています。フーフナーヘルは皇帝の要請に応じ、こうした細密画や装飾を写本に施しました。隠れた名作と言っても良いかもしれません。フーフナーヘルの水彩が公開されたのは、日本で初めてでもあります。

ジュゼッペ・アルチンボルドは「ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像」において、皇帝の姿を植物などに置き換えながら、四季を掌握する力を持つ神として表現しました。ここでも嬉しいのが解説のパネルで、洋ナシ、リンゴ、モモからナッツの殻、さらにはバラやカーネーションに至る63種もの構成植物を、図解で紹介していました。かなりの労作と言えそうです。

なおキャプションにも一工夫がありました。パネルに黒字で「R」と記されているのは、ルドルフ2世の旧蔵品で、一方、グレーで「R」とあるのが、皇帝の旧蔵品と考えられる作品でした。鑑賞の参考になるのではないでしょうか。


ディルク・ド・クワード・ファン・ラーフェステイン「ルドルフ2世の治世の寓意」 1603年 プレモントレ修道会ストラホフ修道院、プラハ、チェコ共和国

ほかにはドイツ出身のハンス・フォン・アーヘン、イタリアに学んだバルトロメウス・スプランガー、フランドルのディルク・ド・クワード・ファン・ラーフェステインも、ルドルフ2世に仕えた宮廷画家でした。

またペーテル・ステーフェンス2世の「聖アントニウスの誘惑」も見逃せません。まさに魑魅魍魎、奇怪な魔物たちが無数に登場しますが、ボスやブリューゲルよりも素朴で、何とも可愛らしくも見えなくもありません。ジョルジョ・ギージの版画を着想にして描かれました。こうした必ずしも有名とは言い難い画家にも、見入る作品が少なくありませんでした。



ラストは「驚異の部屋」でした。ルドルフ2世がプラハ城に構えたプライベートミュージアムの一部を再現すべく、舟形杯や人魚のついた杯などの珍しい工芸品から、からくり時計、天文時計に天球儀、さらにはイッカクの牙などを展示していました。自らのミクロコスモスを築いた、ルドルフ2世の趣味の一端を伺い知ることが出来そうです。

チラシの表紙からしてアルチンボルドで、アルチンボルドを中心とした絵画展のように受け止められるかもしれませんが、実際には書物や工芸品など、かなり幅広いジャンルの文物が細々と並んでいました。また所蔵先もプラハ国立美術館、ウィーン美術史美術館のほか、フランスやスイス、それにスウェーデンなどと多岐に渡っていました。これほどのスケールでルドルフ2世関連の文物を見られる機会など、国内ではもうしばらくないかもしれません。



現代美術家、フィリップ・ハースが手がけた3Dアルチンボルドのみ撮影が可能でした。



会期早々に出かけたからか、館内には余裕がありました。ただし1点とはいえ、昨年、人気を博したアルチンボルドの作品がやって来ています。ひょっとすると終盤にかけて混み合うかもしれません。

Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の『ルドルフ2世の驚異の世界展』。究極の趣味人であるルドルフ2世のプライベートミュージアムの全貌に迫る本展。絵画から、動物や植物に化石や鉱石、天文学に錬金術まで、ありとあらゆるジャンルに好奇心を抱いたルドルフ2世の世界を追体験!※内覧会で撮影 pic.twitter.com/ITDhKOaLoX

— ミュージアムカフェ【公式】 (@museumcafe) 2018年1月10日
3月11日まで開催されています。

「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界」 Bunkamura ザ・ミュージアム@Bunkamura_info
会期:1月6日(土)〜3月11日(日)
休館:1月16日(火)、2月13日(火)。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金・土は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学・高校生1000(800)円、中学・小学生700(500)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。要事前予約。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。

「北斎とジャポニスム」 国立西洋美術館

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国立西洋美術館
「北斎とジャポニスムーHOKUSAIが西洋に与えた衝撃」 
2017/10/21~2018/1/28



国立西洋美術館で開催中の「北斎とジャポニスムーHOKUSAIが西洋に与えた衝撃」を見てきました。

江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎は、19世紀後半のジャポニスムの潮流の中で、西洋の芸術家たちに大きな影響を与えました。

その一例が、「北斎漫画」の一場面である「草筆之部」でした。手前に雪の積もる斜めの木を配し、後景に水辺に浮かぶ小舟を描いていますが、そのモチーフをそっくりそのまま、フランスの装飾画家、アンリ・ランベールが、「雪中柴舟文皿」に落としこみました。

また同じく傾斜した樹木を画面中央に置き、後景を俯瞰する構図は、西洋の画家にも取り入れられ、ピサロは「モンフーコーの冬の池、雪の効果」において、樹木越しに、馬が水を飲む小川の雪景色を描きました。


葛飾北斎「北斎漫画」三編(部分) 文化12(1815)年刊 浦上蒼穹堂

マネは昆虫のスケッチ、「2匹のトカゲと大きなハエ」において、北斎漫画の生き物をほぼそのまま写し取りました。そしてオランダ商館長でもあったオーフェルメール・フィッスヘルは、日本研究の著作、「日本国の知識に対する寄与」で、同じく北斎漫画に登場した古代中国の伝承の皇帝、神農の姿を、図像として引用しました。


エドゥアール・マネ「2匹のトカゲと大きなハエ」 制作年不詳 オルセー美術館

さらに北斎の「冨嶽百景」における平面的な竹林のモチーフも、ジュール・ヴィエイヤール工房の皿に援用されたほか、その視線を遮る構図を、モネは「木の間越しの春」に用いました。実際にモネは「冨嶽百景」を所持していて、竹林のページを見た可能性が十分に考えられるそうです。このように北斎のモチーフは、西洋の芸術家に挿絵として使われ、また模写として写し取られ、時に転用され、さらには個別の図像ではなく、構図として変容しながら、多様なインスピレーションを与えていきました。


葛飾北斎「冨嶽三十六景 東海道程ヶ谷」 天保元〜4(1830-33)年頃 ミネアポリス美術館

こうした北斎が西洋にもたらした影響を追いかけるのが、「北斎とジャポニスム」展で、北斎の錦絵と版本を約90点を参照しながら、西洋の絵画や工芸、約200点を合わせ見ています。展示では基本的に、先に北斎の画(パネル含む)を引用した上で、次いで西洋美術作品を並べ、相互に比較する流れでした。ひらすらに、北斎と西洋美術を見比べる内容と言っても良いかもしれません。


クロード・モネ「陽を浴びるポプラ並木」 1891年 国立西洋美術館

どれほど西洋の美術家が北斎を参考にしたのか、全てが明快とは言えないかもしれませんが、端的に構図やモチーフとして、明らかに似ている作品があるのも興味深いところでした。


エドガー・ドガ「踊り子たち、ピンクと緑」 1894年 吉野石膏株式会社(山形美術館寄託)

それがドガの「踊り子たち、ピンクと緑」で、画家の得意とした踊り子の姿を後ろから捉えています。淡いピンクや緑の滲むパステルの色彩も美しく、右の踊り子はフレームの外に切れていて、まさしく踊り子たちの一瞬の動きを表現したかのような作品でした。こうしたバレリーナの何気ないポーズにこそ、ドガの関心が向いていたのかもしれません。


葛飾北斎「北斎漫画」十一編(部分) 刊年不詳 浦上蒼穹堂

そのドガ作に参照されたのが、「北斎漫画」から力士を描いた場面でした。同様の後ろ姿ながらも、特に両手を腰に当てて立つ姿は、確かに似ていると言わざるを得ません。

【作品紹介】#カサット ≪青い肘掛け椅子に座る少女≫×北斎北斎が知られる以前、幼い女の子はお行儀良く描かれるのが常識でした。退屈そうな自然体のこのようなポーズは、『北斎漫画』から着想を得たようです。#北斎とジャポニスム #会場で比べて見てみて pic.twitter.com/BEYETcDvPk

— 「北斎とジャポニスム」展 (@hoku_japonisme) 2017年9月5日
さらに驚かされたのが、カサットの「青い肘掛け椅子に座る少女」でした。青く大きなソファに座る少女を描いた一枚で、両足をだらんと垂らし、左手を頭の後ろにやった姿は幾分と気怠そうで、必ずしも行儀が良くありません。そしてここでも「北斎漫画」の布袋らしき姿をした人物が引用されていて、袋を背中に、だらりと仰向けで寝る姿は、似ていると言えなくもありません。直接の影響関係を検証するのは難しいかもしれませんが、少なくともカサットも、ほかの多くの印象派と同様、浮世絵展で感銘を受けたり、日本の美術品をコレクションしていた画家の1人でした。


ギュスターブ・モロー「ヘラクレスとレルネのヒュドラ」 1876年頃 キュスターヴ・モロー美術館

同じく北斎漫画を所有していたモローにも、見るべき1枚がありました。それが「ヘラクレスとレルネのヒュドラ」で、ギリシャ神話を主題とし、ヘラクレスが敢然とヒュドラに立ち向かおうとする場面を描いています。9つの鎌首を持ったヒュドラの姿は、実に奇怪で恐ろしく、手前に散乱した死体などから、ヒュドラがいかに獰猛であるかを感じることも出来ました。モローならではの、神秘的な雰囲気をたたえた作品と言えるかもしれません。


葛飾北斎「北斎漫画」十三編(部分) 嘉永2(1849)年刊 浦上蒼穹堂

では、一体、どこに北斎の要素を見ることが出来るのでしょうか。キャプションによれば、答えは背後の岩でした。「北斎漫画」において、北斎は縦へと迫り上がる奇岩を描きましたが、その参照があったのではないかと指摘しているわけです。さらにスーラの「とがった岬、グランカン」の大きく突き出た岬も、北斎の大きく盛り上がった波を置き換えたのではないかと推測していました。


ポール・ゴーガン「三匹の子犬のいる静物」 1888年 ニューヨーク近代美術館

北斎云々を離れ、西洋絵画に思いがけない優品があるのも、見どころの1つかもしれません。ドガの「競馬場にて」やゴーガンの「三匹の子犬のいる静物」といった有名な画家だけでなく、アルベルト・エーデルフェルトの「夕暮れのカウコラの尾根」、ジョルジュ・ラコンブの「青い海、波の印象」、ジャン=ルイ・フィランの「釣り人」など、ともすると地名度の低い画家にも、惹かれる作品は少なくありませんでした。またガレやドーム兄弟による工芸もかなり出揃っていました。海外からも多くの作品がやって来ています。

ラストがセザンヌの「サント=ヴィクトワール山」で、フィリップス・コレクションとデトロイト美術館、そして現在休館中のブリヂストン美術館のコレクションの3点が並んでいました。


ポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山」 1886〜87年 フィリップス・コレクション、ワシントンD.C.

ここに北斎が「冨嶽三十六景」において、様々な地点から富士山を捉えたのと同様、セザンヌもサント=ヴィクトワール山を繰り返し描いたことについて触れ、その造形的実験の源泉に、北斎の制作があったことを指摘しています。また俯瞰した視点にも、類似点が見られるとのことでした。


葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」 天保元〜4(1830〜33)年頃 ミネアポリス美術館

ほかには北斎を象徴する「神奈川沖浪裏」こと、グレート・ ウェーブの影響についても検証していました。ここに紹介した内容はごく一部に過ぎず、そもそも引用は多数で、内容からして膨大です。より踏み込むには、カタログに当たる必要があるかもしれません。

私はすっかり行きそびてしまい、気がつけば会期末が迫っていました。



1月25日の平日の午後に出向いたためか、せいぜい10分程度の待ち時間で入場出来ました。ただし館内は混雑していて、特に最初の展示室は、鑑賞のための列も遅々として進みませんでした。会場の後半こそ、多少流れが早かったものの、既にゆっくり見られる環境ではありません。さすがに大型展の終盤ということもあり、かなりの盛況でした。



次の土日で最終です。おそらく昼間の時間帯を中心に、入館待ちの長い列が出来るかと思われます。これからご観覧の方は、時間と体力に余裕を持ってお出かけ下さい。



1月28日まで開催されています。

「北斎とジャポニスムーHOKUSAIが西洋に与えた衝撃」@hoku_japonisme) 国立西洋美術館
会期:2017年10月21日(土)~2018年1月28日(日)
休館:月曜日。但し1月8日(月)は開館。年末年始(12月28日~1月1日)。1月9日(火)。
時間:9:30~17:30 
 *毎週金・土曜日は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。

「フランク・ホーヴァット写真展」 シャネル・ネクサス・ホール

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シャネル・ネクサス・ホール
「フランク・ホーヴァット写真展」 
1/17~2/18



シャネル・ネクサス・ホールで開催中の「フランク・ホーヴァット写真展」を見てきました。

1928年にオパティヤ(イタリア、現クロアチア領)に生まれ、50年代以降、ファッション写真で高い評価を得たフランク・ホーヴァットは、90歳を迎えた今もなお、精力的に写真を撮り続けています。



日本における本格的な個展です。ファッション写真はもちろん、初期のジャーナリスティックな作品、さらには近年のデジタルの写真などを交え、約70年にも及ぶホーヴァットの制作の全貌を紹介していました。



1940年代半ばにカメラを手にしたホーヴァットは、当初、ジャーナリスティックな写真を撮影しました。また元々、作家を志望していたからか、取るだけではなく、書くことにも熱心で、取材に基づくルポルタージュをイタリアの雑誌に寄稿するなどして活動しました。



1952年から約2年間は、イタリアからパキスタン、インド、イギリスを渡り歩き、現地の人々や生活をカメラにおさめました。また作品が、1955年にニューヨーク近代美術館で開催された「ザ・ファミリー・オブ・マン」の展覧会に選ばれたこともありました。



その後、パリに拠点を構えると、ファッション関連の仕事に注力しました。しかしホーヴァットは、あくまでも「真実の女性、もしくは少なくとも彼女たちの気配を暴く」べく、あくまでも「無防備でさりげない色気のある女性像」(ともに解説より)を撮ろうとしました。持ち前のジャーナリスティック、ないしルポルタージュ的感覚も、ファッション写真の撮影に反映されていったようです。



ホーヴァットはファッション写真に新風を吹き込みました。当時、一般的であったスタジオ写真ではなく、モデルを屋外へ連れ出し、自然光の下で撮影し、ルポルタージュと同様のざらついた画面のプリントに仕上げました。またモデルたちの一風変わった配置も好み、たまたま居合わせた人物も被写体として取り込むなど、今までのファッション写真では見られない表現を作り上げました。時にはモデルたちに「カメラを見るな、作り笑いをするな。」と注文をつけていたそうです。それは、当時のファッションエディターらにとって、肯定せざるものでもありました。



しかしホーヴァットの新たな取り組みは、結果的に評価を受け、時代を代表するファッション写真家として知られるようになりました。まさにモデルの内面を引き出すべく、装飾を取り払い、日常へと身を置いた素の女性を表現しようとし続けたようです。



「靴とエッフェル塔」も実に面白い作品ではないでしょうか。靴を大きくクローズアップし、両足の合間にエッフェル塔を配した構図の中に、偶然なのか、ヒールと爪先の中に映り込む男の姿を写し出していました。この一瞬を捉えなければ、もう2度と現れない光景と言えるかもしれません。



結果的にホーヴァットは、当初の報道から、代名詞のファッション、そしてポートレート、紀行、さらにアートの分野にまで踏み込んで、多様な写真作品を生み出していきました。また自らを「飽きっぽい」と語るホーヴァットは、1990年代に入ると、いち早くデジタル写真に目をつけ、撮影にも用いました。Photoshopで写真を加工することにも、新鮮さを感じていたようです。



まさしくモデルをありのままに、決定的瞬間ならぬ、一瞬の動きを捉え、また時には静かに見据え、美を切り出すホーヴァットの作風は、一様に括ることが出きません。また随所で、被写体の人物の強い視線を浴びていることに気がつきました。見ているよりも、見られている感覚に近いかもしれません。



現在、ホーヴァットは、2枚組み写真を、一年の日数に相当する365点を制作するプロジェクトに傾倒していて、美術館やギャラリーでの展示のほかに、フェイスブックへアップしていくことを考えているそうです。しかし、自身で納得する写真は、なかなか出来ないとも語っています。妥協を許さない姿勢の現れなのかもしれません。



必ずしも広いとは言えないシャネル銀座4階のスペースですが、会場の造りも効果的なのか、作品数も思いがけないほど多く、かなり見応えがありました。また会場内の撮影も可能でした。

[明日開催]シャネル「フランク ホーヴァット写真展」ファッションと女性を斬新に切り取った世界的写真家 - https://t.co/hkSJSF1rEl pic.twitter.com/bOaCC1HRK9

— Fashion Press (@fashionpressnet) 2018年1月16日
2月18日まで開催されています。これはおすすめします。

「フランク・ホーヴァット写真展」 シャネル・ネクサス・ホール
会期:1月17日(水)~2月18日(日)
休廊:会期中無休。
料金:無料。
時間:12:00~20:00。
住所:中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A13出口より徒歩1分。東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅5番出口より徒歩1分。

横山大観「無我」 東京国立博物館

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東京国立博物館・本館18室
横山大観「無我」
1/2~2/12

東京国立博物館・本館18室にて、横山大観の「無我」が公開されています。



「無我」は明治30年、まだ若き大観が29歳の時に描いた作品で、老荘思想に発し、禅における悟りの境地を、無心の童子に表して描きました。背丈の長い草の生えた川辺近くの子どもは、俄かに表情を伺えず、まさに無心そのもので、だらりと肩を落としては、ぼんやりとした様で立っています。当時、禅の世界を童子に託す発想にも注目が集まり、大観の出世作として評価を得ました。

なお「無我」は全部で3点あり、ほかの2点は、足立美術館と水野美術館のコレクションとして知られています。サイズは足立美術館、水野美術館、東京国立博物館の順に大きく、後者の2点が鮮やかな彩色を持つ一方、足立美術館の作品のみが、墨絵の淡彩で描かれました。また足立美術館の作品は、童子の表情がやや険しく、どこか大人びた風情にも見えなくはありません。

ともかく印象に深いのは、童子のあどけない表情をはじめ、自然体とも言えるような全身の姿で、一切の力みが感じられないことです。また背後の水の青色が、思いの外に鮮やかなのも特徴ではないでしょうか。

今年は大観の生誕150周年です。よって大観に関する展覧会がいくつか行われます。

横山大観《楚水の巻》(山種美術館)には、揚子江の沿岸風景が朝、昼、雨、夕の4場面にわたって描かれています。下流の朝の景観に始まり、時間の移り変わりと大気の変化の様子が、水墨を用いたのびやかな筆致で表現されています。(山崎) pic.twitter.com/ONbnJ3N55s

— 山種美術館 (@yamatanemuseum) 2018年1月14日
現在、開催中なのが、山種美術館の「生誕150年記念 横山大観ー東京画壇の精鋭」で、同館創設以来、初めて大観のコレクションが全点公開されています。

「生誕150年記念 横山大観ー東京画壇の精鋭」@山種美術館
会期:1月3日(水)~2月25日(日)

また4月からは、同じく生誕150年を期した「横山大観展」が、東京国立近代美術館にて開催されます。(以降、京都国立近代美術館へと巡回。)

「生誕150年 #横山大観 展」のお得な前売券を2018年4月12日(木)まで販売中です。詳細はこちらから→https://t.co/7i9UT5RBg6展覧会は今春4月13日(金)~5月27日(日) #東京国立近代美術館 で開催。 ご期待ください! pic.twitter.com/fDDx05bKTr

— 日経文化事業部 (@artnikkei) 2018年1月24日
「生誕150年 横山大観展」@東京国立近代美術館
会期:4月13日(金)~ 5月27日(日)
*京都国立近代美術館:6月8日(金)~7月22日(日)

2013年にも、横浜美術館で大規模な大観展(「横山大観展 良き師、良き友」)がありましたが、国立美術館としては、2008年の「没後50年 横山大観ー新たなる伝説へ」(国立新美術館)以来の開催となります。

ひょっとすると「無我」の展示も、今年の大観イヤーを意識してのことなのかもしれません。山種から近代美術館の大観展も、ともに追いかけたいと思います。

2月12日まで公開されています。

*写真は、横山大観「無我」 明治30(1897)年 東京国立博物館

横山大観「無我」 東京国立博物館・本館18室(@TNM_PR
会期:1月2日(火)~2月12日(月)
時間:9:30~17:00。
 *毎週金・土曜は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し10月9日(月・祝)は開館。
料金:一般620(520)円、大学生410(310)円、高校生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。

「現代版画センターの軌跡」 埼玉県立近代美術館

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埼玉県立近代美術館
「版画の景色 現代版画センターの軌跡」 
1/16~3/25



埼玉県立近代美術館で開催中の「版画の景色 現代版画センターの軌跡」を見てきました。

1974年、版画の普及、ないしコレクターの育成を目指して誕生した現代版画センターは、約10年間あまりの間に、80名の美術家と協力して、計700点余の作品を世に送り出しました。

その記念すべき第1作が、靉嘔の「I Love You」で、シルクスクリーンを限定11111万部作成し、1枚当たり1000円で販売しました。当時、5桁ものエディションは珍しく、1000円という価格も、オリジナルの版画としては安価でした。

現代版画センターの第1の意義は、版画の版元、すなわちメーカとしての活動でした。多様な版画を生み出すべく、画家、彫刻家、工芸家、さらに映像作家や建築家にも作品を依頼しました。また版画家以外の作家も扱いやすい理由から、シルクスクリーンが多く採用されました。


島州一「ゲバラ」 1974年 現代版画センターエディション42番 ときの忘れもの/有限会社ワタヌキ

島州一の「ジーンズ」と「ゲバラ」は、ともにシルクスクリーンを布に刷った作品で、特にデニムのジャケットをモチーフとした「ジーンズ」は、内容物と刷られた布の皺が浮き上がり、独特な感触を見ることが出来ました。島は、例えばカーテンにカーテンの版画を刷るなど、日常的な素材を用い、時に物質の質感表現を探るような作品を生み出しました。


関根伸夫「おちるリンゴ」 1975年 現代版画センターエディション78番 ときの忘れもの/有限会社ワタヌキ

もの派の重鎮として知られる関根伸夫も、版画を提供した作家の一人で、いわゆるもの派を思わせる作品だけでなく、例えば視覚操作的なイメージを生み出すなど、より自由に版画を作り上げました。また関根は単に作家としてだけでなく、センターの活動にアドバイスを与えるなど、ブレーンとしての役割も果たしました。

現代版画センターは単に版画を作るだけでなく、会員組織を整備し、頒布会や展示会、さらにオークションやシンポジウムなども積極的に開催しました。版画を人々へ届けるためのシステムを構築する、オーガナイザーとしても活動していました。

展示会は、巡回の形式を問わず、映画の封切りさながら、全国各地の10カ所から20カ所の会場で、ほぼ一斉、同時に開催しました。また会場も、画廊だけでなく、喫茶店や床屋を借りることもあり、担当者は、日本中を精力的に飛び回っていたそうです。その様子は、記録写真のスライドから伺い知ることが出来ました。


磯崎新「空洞としての美術館」 1977年 現代版画センターエディション165番 群馬県立近代美術館(寄託)

驚くべき巨大な版画も作られました。それが建築家の磯崎新による「空洞としての美術館」で、シルクスクリーンのみならず、立体も組み合わせ、ミクストメディア的な表現をとっています。モチーフは、磯崎の設計した群馬県立近代美術館で、建物の構造を示す立方体も取り込まれました。横幅は何と5メートル近くにも及ぶ大作で、2点作られ、うち1点はサンパウロビエンナーレへと出品されました。

もう1つ、大きいのが、大沢昌助の「机上の空論」で、幅2メートルを超えるリトグラフが対になった作品でした。そもそも当時、これほど巨大な作品を刷るための機械もなく、プレス機を制作することからはじめられました。またともに単色の作品ながらも、均一の色を出すのは困難で、何度もプレスしては、色調を表現していったそうです。計何十トンにも及ぶ圧力が必要でした。


菅井汲「スクランブルC」 1976年 現代版画センターエディション129番

菅井汲も多くの版画を提供した作家の1人でした。「スクランブル」のシリーズでは、都市空間の写真を取り込み、円や三角といった図形的なモチーフを、ビビットな色彩にて表現しました。横断歩道や信号機、ないし踏切などの線が、幾何学的な図像と組み合わさっていました。


元永定正「白い光が出ているみたい」 1977年 現代版画センターエディション198番 ときの忘れもの/有限会社ワタヌキ

現代版画センターは、一定のテーマに基づく企画展も開催しました。その1つが、1977年の「現代の声」展で、靉嘔、元永定正、磯崎新、一原有徳、オトサト・トシノブ、加山又造らといった9名の作家が参加し、作品を展示しました。このメンバーをとっても、洋画家、日本画家、そして建築家と幅広く、センターが如何にジャンルの異なる作家と協働しようとしていたのかを、知ることが出来るかもしれません。展示と同時に、レクチャーやシンポジウムも開催されました。

また「プリントシンポジウム」も同様で、美学校のシルクスクリーン工房の教師を務めていた岡部徳三が、作家を招待した上で、卒業生のプリンターと協同して作品を制作しました。関根伸夫、堀浩哉、柏原えつとむなどの、計6名の作家が、作品を提供しました。


草間彌生「南瓜」 1982年 現代版画センターエディション523番 たけだ美術

現代版画センターにとって、メーカー、オーガナイザーと同じく、もう1つ重要な活動であったのが、パブリッシャー、つまり出版事業でした。「センターニュース」などの刊行物を編集、発行した上、関係する作家の作品集やカタログも多く刊行しました。そのテキストには、作家だけでなく、小説家やタレントらの著名人が寄稿することもありました。


アンディ・ウォーホル「KIKU2」 1983年 現代版画センターエディション602番

草間彌生、安藤忠雄、そしてアンディ・ウォーホルも、現代版画センターで作品を発表しました。中でもウォーホルに関しては、オリジナルの制作を依頼しただけでなく、版画代表作による「アンディ・ウォーホル全国展」を、渋谷パルコや宇都宮の大谷石地下空間、それに秋田県の大曲などで開催し、カタログも刊行しました。オリジナルの3点の連作は、菊をモチーフとしたもので、ウォーホル自身が日本の花として選定しました。各限定300部ほど制作されたそうです。


現代版画センター企画・ウォーホル全国展「巨大地下空間とウォーホル展」 会場:大谷町屏風岩アートポイント 1983年7月24日〜8月20日

終焉は突然でした。1985年、現代版画センターは倒産し、活動を終えました。設立からおおよそ10年後のことでした。

今回はタイミング良く、展覧会を担当された、学芸員の梅津さんのギャラリートークを聞くことが出来ました。淀みない口調でおおよそ40分超、展覧会の内容について丁寧に説明して下さいました。

その中で最も印象に深かったのは、「メーカー、オーガナイザー、そしてパブリッシャーとして活動した現代版画センターは、1970年から80年代の時代の熱気を帯びた、多面的な運動体である。」いうことでした。

10年余りに過ぎない活動のゆえか、現在、センターの功績が良く知られているとは言えません。チラシには、「活動に対して懐疑的な、批判的な、否定的な見解を持つ人々にも、耳を傾けなければならない。」との一文もありました。



まさに現代版画センターの再評価、ないし再考の切っ掛けとなり得る展覧会ではないでしょうか。出展数も全280点と膨大で、不足はありません。(一部に展示替えあり。)また実際に閲覧可能な出版物の資料や、記録写真も充実していました。

「版画の景色 現代版画センターの軌跡」堂々オープンしました!そうそうたる作家陣45名による約280点の作品・資料の展示。大展示室、順路はありません。現代版画センターが提唱した作品との自由な出逢いをお楽しみください。【前期展示】1/16-2/18【後期展示】2/20-3/25https://t.co/1nE0wNBFk3 pic.twitter.com/HQH8EJ8E5J

— 埼玉県立近代美術館 (@momas_kouhou) 2018年1月16日
ギャラリートークは会期中にあと1回、3月10日(土)にも行われます。そちらに参加して観覧するのも良いかもしれません。

【担当学芸員によるギャラリー・トーク】
内容:本展覧会の担当学芸員が展覧会の見どころをご紹介します。
日時:1月27日 (土)、3月10日 (土) 各日とも15:00~15:30
場所:2階展示室
費用:企画展観覧料が必要です。

常設の「MOMASコレクション」では、川越市立美術館で回顧展のはじまった小村雪岱の小特集も行われていました。あわせてお見逃しなきようにおすすめします。



3月25日まで開催されています。

「版画の景色 現代版画センターの軌跡」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:1月16日 (火) ~ 3月25日 (日)
休館:月曜日。但し2月12日は開館。
時間:10:00~17:30 
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大高生800(640)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。

2018年2月に見たい展覧会

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寒い日が続いています。風邪が流行っていて、私も正月休み明けから少し体調を崩し、しばらく咳が取れない日が続きました。かなり回復しましたが、ひょっとすると喉が冷気にやられてしまったのかもしれません。皆さんは変わりなくお過ごしでしょうか。

1月に見た展覧会では、現代版画センターの活動を丹念に追った「版画の景色」(埼玉県立近代美術館)、チラシ表紙のアルチンボルドだけでなく、ルドルフ2世の好奇心を詳らかにするような「ルドルフ2世の驚異の世界」(Bunkamuraザ・ミュージアム)、さらにともに常設展示内の企画とは思えないほど充実していた「南方熊楠」(国立科学博物館)と「シュルレアリスムの美術と写真」(横浜美術館)が、特に印象に残りました。

まだ感想をまとめられていませんが、貴重な仏像の揃った「仁和寺と御室派のみほとけ」(東京国立博物館)も、壮観ではなかったでしょうか。また「小沢剛展」(千葉市美術館)も、思い切ったレイアウトで、美術家の創作なり世界観をうまく伝えていたのではないかと思います。

2月中に見たい展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・「絵画の現在」 府中市美術館(~2/25)
・「金川晋吾 長い間」 横浜市民ギャラリーあざみ野(~2/25)
・「第10回恵比寿映像祭 インヴィジブル」 東京都写真美術館(2/9~2/25)
・「運慶ー鎌倉幕府と霊験伝説」 神奈川県立金沢文庫(~3/11)
・「生誕130年 小村雪岱『雪岱調』のできるまで」 川越市立美術館(~3/11)
・「ヘレンド展ー皇妃エリザベートが愛したハンガリーの名窯」 パナソニック汐留ミュージアム(~3/21) 
・「谷川俊太郎展」 東京オペラシティ アートギャラリー(~3/25)
・「現代刀職展ー今に伝わる『いにしえの技』 刀剣博物館(~3/25)
・「歌川国貞展」 静嘉堂文庫美術館(~3/25)
・「FACE展2018 損保ジャパン日本興亜美術賞展」 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館(2/24~3/30)
・「香合百花繚乱」 根津美術館(2/22~3/31)
・「ボストン美術館 パリジェンヌ展 時代を映す女性たち」 世田谷美術館(~4/1)
・「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」 東京都美術館(1/23~4/1)
・「三井家のおひなさま」 三井記念美術館(2/10~4/8)
・「寛永の雅 江戸の宮廷文化と遠州・仁清・探幽」 サントリー美術館(2/14~4/8)
・「第21回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)」 川崎市岡本太郎美術館(2/16~4/15)
・「サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法」 練馬区立美術館(2/22~4/15)
・「東京⇆沖縄 池袋モンパルナスとニシムイ美術村」 板橋区立美術館(2/24〜4/15)
・「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」 国立新美術館(2/14~5/7)
・「ルドンー秘密の花園」 三菱一号館美術館(2/8~5/20)
・「プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」 国立西洋美術館(2/24〜5/27)
・「写真都市展ーウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち」 21_21 DESIGN SIGHT(2/23〜6/10)

ギャラリー

・「鏡と穴ー彫刻と写真の界面 vol.7 野村在」 ギャラリーαM(~2/17〜3/24)
・「グラフィズム断章:もうひとつのデザイン史」 クリエイションギャラリーG8(~2/22)
・「ヴァジコ・チャッキアーニ展」 SCAI THE BATHHOUSE(~2/24)
・「会田誠 GROUND NO PLAN」 青山クリスタルビル(2/10~2/24)
・「レアンドロ・エルリッヒ個展」 アートフロントギャラリー(~2/25)
・「アニマル・ワールド」 加島美術(2/3〜2/25)
・「マリメッコ・スプリットーマリメッコの暮らしぶり」 ギャラリーA4(~2/28)
・「グリーンランド 中谷芙二子+宇吉郎展」 メゾンエルメス(~3/4)
・「ヤン・フードン The Coloured Sky: New Women 2」 エスパス・ルイ・ヴィトン東京(~3/11)
・「平野甲賀と晶文社展」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(~3/17)
・「クサナギシンペイ どこへでもこの世の外なら」 タカ・イシイギャラリー東京(2/17〜3/17)
・「en[縁]:アート・オブ・ネクサス 第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本館帰国展」 TOTOギャラリー・間(~3/18)
・「ポーラ ミュージアム アネックス展2018」 ポーラ・ミュージアム・アネックス(2/23〜3/18)

この2月は今年、何かと注目の西洋美術展のスタートラッシュと言っても良いかもしれません。まずは三菱一号館美術館にて、「ルドンー秘密の花園」展が開催されます。



「ルドンー秘密の花園」@三菱一号館美術館(2/8~5/20)

一号館のルドンとして思い起こすのは、コレクションとして人気の高い「グラン・ブーケ」です。ルドンが、ドムシー男爵の城館の食堂を飾るために描いた作品で、縦2メートル50センチにも及ぶ大画面に、青い花瓶に生けられた花束を、淡いパステルの色彩にて表現しました。

ただしルドンは、食堂の装飾画の制作に際し、「グラン・ブーケ」だけを描いたわけではありませんでした。彼は1年以上の歳月をかけ、16点の装飾画を制作し、城館へと運びました。そしていつしか壁画は城館に秘蔵され、一度、日本でも公開される機会があったものの、のちにフランス政府が取得し、オルセー美術館の所蔵品と化しました。そして「グラン・ブーケ」のみが、城館の食堂に取り残されました。取り外されたのは2010年のことでした。

【ルドン−秘密の花園】2月8日から開幕するルドン展の作品リストが完成しました!当館サイトよりダウンロード頂けますので、出品作品が気になる方はどうぞご利用ください。―――――――◆作品リスト:https://t.co/YcVZWVlf36◆展覧会情報:https://t.co/0TS01Qw6Nv pic.twitter.com/P7T1sHIGSn

— 三菱一号館美術館 (@ichigokan_PR) 2018年1月26日
そのオルセー美術館の15点の装飾壁画が、全て一括して三菱一号館美術館へとやって来ます。さらに、花や植物をモチーフとした70点超の作品を交え、ルドンの画業を紹介していきます。なお植物に焦点を当てたルドン展は、史上初めてのことだそうです。さぞかし華やかな展覧会になるのではないでしょうか。

ドイツに生まれ、スイスに移住した実業家、エミール=ゲオルグ・ビュールレの絵画コレクションが、国立新美術館にて公開されます。



「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」@国立新美術館(2/14~5/7)

実業家として身を立てたビュールレは、1937年、一家とともに移り住んだチューリッヒの邸宅を飾るために、美術品の蒐集をはじめました。中でも良く知られるのは、ルノワールの「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢」や、セザンヌの「赤いチョッキの少年」で、印象派、ないしポスト印象派の充実したコレクションとして評価を得ました。

来年2月14日に国立新美術館で開幕する『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』。生涯を通じて絵画収集に情熱を注いだスイスの大実業家ビュールレ。そのコレクションの質の高さは世界中のファンを魅了しています。本展では日本初公開作品を含む約60点を展示。絵画史上、最強の美少女も来日! pic.twitter.com/LFpoEDwIL8

— ミュージアムカフェ【公式】 (@museumcafe) 2017年10月25日
2008年、セザンヌの「赤いチョッキの少年」を含む4点の絵画が、盗難の被害にあってしまいました。その影響もあるのか、現在は一般の公開が規制され、2020年にはチューリッヒ美術館へコレクションが移設されることが決まりました。つまりプライベートとしてのビュールレのコレクションが、日本で公開される最後の機会と言えるかもしれません。なお日本でビュールレのコレクション展が行われるのは、おおよそ27年ぶりのことでもあるそうです。

春の上野の行列の展覧会になるかもしれません。国立西洋美術館で「プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」がはじまります。



「プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」@国立西洋美術館(2/24〜5/27)

国内でプラド美術館のコレクションを見る機会は必ずしも少なくなく、過去、「プラド美術館展ースペイン宮廷 美への情熱」(三菱一号館美術館、2015年)、「プラド美術館所蔵 ゴヤー光と影展」(国立西洋美術館、2011年)、さらには「プラド美術館展ースペインの誇り 巨匠たちの殿堂」(東京都美術館、2006年)などが開催されてきました。とりわけあえて「小さなサイズの作品に焦点を当てた」(美術館サイトより)、三菱一号館美術館のプラド展などはまだ記憶に新しいかもしれません。

夕暮れの余も素敵であろう? #国立西洋美術館 #プラド美術館展 pic.twitter.com/br4yCo81GN

— カルロスくん@プラド美術館展【公式】 (@prado_2018) 2018年1月30日
実に5回目のプラド展です。今回はベラスケス7点を中核に、主にスペイン、イタリア、フランドル絵画を展観します。ベラスケスの作品がまとめて7点出展されるのは、過去最多でもあるそうです。その意味では貴重な展覧会となりそうです。



また同じく上野では1月末より、東京都美術館で「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」もはじまりました。

「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」@東京都美術館(1/23~4/1)

私はまだ見られていませんが、公式Twitterアカウントなどによれば、現時点ではさほど混雑していないそうです。なお会期当初、2月18日までは、一部の作品の撮影も可能です。ひょっとすると中盤以降は混み合うかもしれません。なるべく早く行きたいと思います。

#ブリューゲル展 開催中/繊細な描写の小なサイズの作品も多数展示してます。単眼鏡お持ちでしたら、是非ご持参を。2階展示室は2/18まで撮影可能です。オフィシャルサポーターの渡辺裕太さんも📷✨ナビゲーターを #石田彰 さんが担当する音声ガイドもお薦め‼️ 待ち時間情報@bru_konzatsu pic.twitter.com/p9ZLq9K1b3

— ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜 (@brueghel2018) 2018年1月26日
ルドン、ビュールレ、プラド、ブリューゲルと、この4展を追うのだけでも大変かもしれませんが、2月も無理のないスペースで、色々な展覧会を見て回りたいと思います。

それではどうぞ宜しくお願いします。

「あなたが選ぶ展覧会2017」 エントリー集計結果

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皆さんの1年の展覧会を振り返ろうと進行中の「あなたが選ぶ展覧会2017」。今年は開催が年明けになってしまったのにも関わらず、多くの方がご参加下さり、過去最高のエントリーを頂戴することが出来ました。本当にどうもありがとうございました。



「あなたが選ぶ展覧会2017」
http://arttalk.tokyo/

エントリーの受付は1月28日で終了しました。それではエントリー数の多かった上位43展を発表致します。

「あなたが選ぶ展覧会2017」 エントリー集計結果

「アルチンボルド展」(国立西洋美術館)
「国立新美術館開館10周年 安藤忠雄展-挑戦」(国立新美術館)
「池田学展 The Pen -凝縮の宇宙」(日本橋タカシマヤ)
「池田学展 The Pen -凝縮の宇宙」(金沢21世紀美術館)
「ヴォルス- 路上から宇宙へ」(DIC川村記念美術館)
「興福寺中金堂再建記念特別展 運慶」(東京国立博物館)
「N・S・ハルシャ展-チャーミングな旅」(森美術館)
「六本木開館10周年記念展 絵巻マニア列伝」(サントリー美術館)
「遠藤利克展-聖性の考古学」(埼玉県立近代美術館)
「オットー・ネーベル展-シャガール、カンディンスキー、クレーの時代」(Bunkamuraザ・ミュージアム)
「特別展 快慶 日本人を魅了した仏のかたち」(奈良国立博物館)
「開館120周年記念特別展覧会 海北友松」(京都国立博物館)
「六本木開館10周年記念展 天下を治めた絵師 狩野元信」(サントリー美術館)
「没後50年記念 川端龍子-超ド級の日本画」(山種美術館)
「国立新美術館開館10周年 草間彌生 わが永遠の魂」(国立新美術館)
「開館120周年記念 特別展覧会 国宝」(京都国立博物館)
「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」(東京都美術館)
「ゴールドマン コレクション これぞ暁斎! 世界が認めたその画力」(Bunkamuraザ・ミュージアム)
「怖い絵展」(上野の森美術館)
「シャガール 三次元の世界」(東京ステーションギャラリー)
「国立新美術館開館10周年 ジャコメッティ展」(国立新美術館)
「シャセリオー展―20世紀フランス・ロマン主義の異才」(国立西洋美術館)
「ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信」(千葉市美術館)
「特別展 雪村-奇想の誕生」(東京藝術大学大学美術館)
「ニューヨークが生んだ伝説 写真家ソール・ライター展」(Bunkamuraザ・ミュージアム)
「シルクロード特別企画展 素心伝心 クローン文化財 失われた刻の再生」(東京藝術大学大学美術館)
「大エルミタージュ美術館展 オールドマスター 西洋絵画の巨匠たち」(森アーツセンターギャラリー)
「特別展 茶の湯」(東京国立博物館)
「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」(東京国立近代美術館)
「驚異の超絶技巧! -明治工芸から現代アートへ」(三井記念美術館)
「デヴィッド・ボウイの大回顧展 DAVID BOWIE is」(寺田倉庫G1 ビル)
「長沢芦雪展 京のエンターテイナー」(愛知県美術館)
「オルセ-のナビ派展 美の預言者たち -ささやきとざわめき」(三菱一号館美術館)
「奈良美智 for better or worse」(豊田市美術館)
「ボイマンス美術館所蔵 ブリュ-ゲル バベルの塔展 16世紀ネ-デルラントの至宝-ボスを超えて」(東京都美術館)
「没後40年 幻の画家 不染鉄展」(東京ステーションギャラリー)
「北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」(国立西洋美術館)
「北斎 富士を超えて」(あべのハルカス美術館)
「ボストン美術館の至宝展-東西の名品、珠玉のコレクション」(東京都美術館)
「国立新美術館開館10周年 チェコ文化年事業 ミュシャ展」(国立新美術館)
「endless 山田正亮の絵画」(東京国立近代美術館)
「生誕140年 吉田博展」(東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館)
「レオナルド×ミケランジェロ展」(三菱一号館美術館)

順はあいうえお順です。最大で50の展覧会を挙げる予定でしたが、エントリー同数の展覧会も多く、結果的には43の展覧会がノミネートされました。また池田学展については、2つ会場がランクインしましたが、基本的に異なる会場は別の展覧会としてカウントしました。あらかじめご了承下さい。

この43の展覧会の中から、最終投票という形で、皆さんにベスト10を選んでいただきます。投票期間は、2月1日(木)から12日(月)までです。今回はお一人様一票のみです。もちろんエントリーに参加されていない方の投票も大歓迎です。さらに結果発表のWEBイベントの参加如何も問いません。どなたでもハンドルネームで、お気軽に投票することが出来ます。

最終投票フォーム:https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/yourchoice2017/vote2017/



「あなたが選ぶ展覧会2017 イベントスケジュール」

1.エントリー受付
2017年に観た展覧会で良かったと思うものを3つあげていただきます。
*1月28日(日)で受付を終了しました。

2.ベスト50展発表
エントリーしていただいた多くの展覧会の中から、最大で上位50の展覧会を2月1日(木)にwebサイト上で発表します。
エントリー集計結果:http://arttalk.tokyo/vote/result.html

3.ベスト展覧会投票
エントリーのあった展覧会の中から、さらにベストの展覧会を選んでいただきます。あなたが選ぶ2017年のベスト展覧会を1つ選んで投票して下さい。
*投票期間:2月1日(木)~2月12日(月)まで

4.ベスト展覧会決定
最終的な投票結果は、2月18日(日)の10時30分から、webのライブイベントで発表致します。
発表ライブイベントの申し込みは→http://arttalk.tokyo/award.html

最終投票フォーム:https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/yourchoice2017/vote2017/

ベスト展覧会を含む、最終の結果は、2月18日(日)の10時30分からのwebのライブイベントで発表する予定です。その際には、皆さんから頂戴した各展覧会へのコメントや、エントリー時の順位や票数もあわせてご紹介したいと思います。なおイベントについては事前の登録が必要です。お手数ですが、下記のサイトよりお申し込み下さい。

発表ライブイベント申し込み専用サイト→http://arttalk.tokyo/award.html



ベスト展覧会の投票期限は2月12日(月)までです。まずは多くの方の投票をお待ちしております。

[あなたが選ぶ展覧会2017 イベント概要]
開催期間:2018年1月15日(月)~2月18日(日)
エントリー受付期限:1月28日(日) *終了しました。
上位50展発表:2月1日(木)
エントリー集計結果:http://arttalk.tokyo/vote/result.html
ベスト展覧会投票期間:2月1日(木)~2月12日(月)
最終投票フォーム:https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/yourchoice2017/vote2017/
「あなたが選ぶ展覧会2017」発表ライブイベント:2018年2月18日(日)午前10時半より。
*青い日記帳のTak(@taktwi)さんと、ジャーナリストのチバヒデトシ(@chibahide)さんとともに、WEB上のライブで発表します。

「小沢剛 不完全-パラレルな美術史」 千葉市美術館

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千葉市美術館
「小沢剛 不完全-パラレルな美術史」 
1/6~2/25



千葉市美術館で開催中の「小沢剛 不完全-パラレルな美術史」を見てきました。

1965年に生まれた現代アーティストの小沢剛は、日常や歴史を踏まえつつ、時に「ユーモアと分析的視点」(解説より)交え、ジャンルに囚われない多様な作品を作り続けてきました。最近では、ヨコハマトリエンナーレや、さいたまトリエンナーレにも参加し、豊田市美術館では子ども向けのプロジェクトも展開しました。

それにしても、何やら謎めいた「不完全」なるタイトルは、一体、何を意味しているのでしょうか。


「不完全」 2018年 石膏像、羊毛、綿ほか

冒頭から、大掛かりなインスタレーションが待ち構えていました。その名も「不完全」と題した作品で、壁一面のデッサンを背に、無数の白い綿に包まれた石膏像が立ち上がっています。その姿はまるで小高い丘のようで、一部は天井付近にまで達していました。また白い綿は、雲のようでもあり、棚引く雲海の上の神々の姿にも見えなくはありません。


「不完全」 2018年 石膏像、羊毛、綿ほか

実際のところ、石膏のモデルは、古代ギリシャ・ローマの彫刻を模したもので、自身の教鞭をとる、東京藝術大学の大石膏室に着想を得て、制作されました。小沢は、明治以降、西洋の写実を習得するために教材として導入された石膏像が、今もなお美大の入試科目としての役割を果たしていることを指摘し、日本の近代美術の出発点に再考を促す作品として提示しました。


「不完全」 2018年 石膏像、羊毛、綿ほか

また「不完全」とは、明治時代の美術史家で、藝大の初代学長である岡倉天心が著した、「茶の本」の一節でした。それは「不」が持ち得るようなネガティブな意味ではなく、完璧を目指すべく、より可能性の開かれた豊かな状態を表した言葉でした。


「金沢七不思議」 2008年 和紙、木、電球、蝋、墨、FRP、羊毛、綿、セラミック 金沢21世紀美術館

一転して、見世物小屋風のテントが現れました。赤や黄色の垂れ幕には「金沢七不思議」とあり、緑の屋根の下を抜けると、テントの向こう側へと進むことが出来ました。


「金沢七不思議」 2008年 和紙、木、電球、蝋、墨、FRP、羊毛、綿、セラミック 金沢21世紀美術館

すると目に飛び込んできたのが、何も勇ましく、カラフルで艶やかな「ねぶた」でした。ここに小沢は、金沢を訪ねて見つけた「不思議」を、造形として表現しました。それらは民話や伝説、はたまたB級グルメなどで、いわゆる美術の範疇に留まるものではありませんでした。


「金沢七不思議」 2008年 和紙、木、電球、蝋、墨、FRP、羊毛、綿、セラミック 金沢21世紀美術館

「ねぶた」の周囲の小さな人形にも要注目です。これは金沢市の西福寺に伝わる民話、「弥七の豆殻太鼓」の弥七を象ったもので、ねぶたと同様、博多人形の名人たちが作り上げました。ちなみに小沢自身は、日本で最も迫力のある「美術ではないもの」を、「ねぶた」であると考えているそうです。


「金沢七不思議」 2008年 和紙、木、電球、蝋、墨、FRP、羊毛、綿、セラミック 金沢21世紀美術館

また、金沢に伝わる天狗伝説もモチーフで、既成品のお面やFRPなどを用い、手を振り上げては、さも威嚇するような天狗の人形を作りました。


「金沢七不思議」 2008年 和紙、木、電球、蝋、墨、FRP、羊毛、綿、セラミック 金沢21世紀美術館

さらに死んだ母親が子を思って、飴を買って育てるという「飴買い幽霊」の話も引用し、同じく金沢で伝承された「布屋たみ」と呼ばれる女性の残した赤ん坊の伝説を取り上げました。幽霊の姿はいずれも人形ではなく掛け軸で、実際に金沢には、伝応挙作の「幽霊母像」も残されているそうです。ちなみに掛け軸画は、通称、「醤油画」でした。ようは醤油で描いた作品であるわけです。


「帰って来たペインターF」 2015年 森美術館

小沢が「もう一つの歴史」を築こうと制作した、「帰って来た」シリーズの主人公は、かの藤田嗣治でした。言うまでもなく、フジタはエコール・ド・パリの時代、フランスで賞賛を受けていた画家で、第二次世界大戦を契機に帰国し、いわゆる従軍画家として戦争画を描きました。そして戦後、戦争責任を問われ、フランスへと移住し、帰化しては、二度と日本へ戻ることはありませんでした。


「帰って来たペインターF」 2015年 油彩、カンヴァス

その藤田が、「帰って来た」シリーズでは、フランスのパリではなく、インドネシアのバリへと渡りました。小沢は、かつての日本の植民地下のインドネシアにおける「啓民文化指導所」にて、日本とインドネシアの芸術家らが交流していたとする歴史に基づき、この作品を制作しました。12分の映像と8点の絵画が向き合う形のインスタレーションで、フィクションと事実が入り混じり、まさに展覧会のタイトルにもある「パラレルな美術史」が紡がれていました。


「油絵茶屋再現」 2011年 油彩、カンヴァスほか 小沢剛+油絵茶屋再現実行委員会

明治時代、洋画家の五姓田芳柳と義松親子が、油絵を見せるために行った「油絵茶屋」が、現代に蘇りました。その名も「油絵茶屋再現」で、当時、浅草や両国で開かれたという見世物小屋を、美術館の中に作り上げています。五姓田らはいわゆる新技術であった油絵を見せるべく、こうした小屋で展示し、時に口上で人を引きつけ、時にコーヒーなどを振舞ったと伝えられているそうです。


「油絵茶屋再現」 2011年 油彩、カンヴァスほか 小沢剛+油絵茶屋再現実行委員会

コーヒの振る舞いこそありませんが、のぼり旗も立つ小屋の雰囲気には臨場感があり、それこそ明治時代にタイムスリップかのような錯覚に陥るかもしれません。


「油絵茶屋再現」 2011年 油彩、カンヴァスほか 小沢剛+油絵茶屋再現実行委員会

実際のところ、当時の油絵はすべて焼失し、引札と呼ばれるチラシしか残っていないそうですが、それを元に作品を再現していました。また作品は、東京藝大の卒業生を含む11名の「油絵茶屋実行委員」によるもので、明治時代の五姓田親子の技法を研究し、議論を重ねては、油絵を描いていったそうです。


「油絵茶屋再現」 2011年 油彩、カンヴァスほか 小沢剛+油絵茶屋再現実行委員会

歌舞伎や浄瑠璃のワンシーンを捉えた油絵が目立つのではないでしょうか。また再現のプロセスを解説したパネルも細かく、当時の引札と見比べることが出来るのも、興味深いものがありました。


「醤油画資料館」 1999年 ミクストメディア 福岡アジア美術館

「金沢七不思議」でも登場した醤油画を、資料館の形にして見せたのが、「醤油画資料館」でした。ここで小沢は、醤油で描く醤油画の歴史を、いわば捏造して提示します。つまりさも実際の日本の美術の中に、醤油画というジャンルがあるかのようにして見せているわけです。


「醤油画資料館」 1999年 ミクストメディア 福岡アジア美術館

これが実に徹底していました。まず「平安時代に中国から伝来した醤油を、大和絵の絵師が画材として優れていることを発見し、醤油画を確立した。」としています。さらに「桃山時代に花開いたものの、江戸時代の浮世絵の台頭とともに衰退し、明治時代はかの天神とフェノロサが醤油画を改革して、新たな展開がもたらされた。」と定義しました。そして「戦後に醤油画は忘れ去られた。」と言いました。


「醤油画資料館」 1999年 ミクストメディア 福岡アジア美術館

もちろん全ては小沢の創作に過ぎませんが、冒頭の挨拶文を読み、作品を追っていくと、あたかも実際に日本に醤油画史が存在したと思い込んでしまうかもしれません。小沢は、醤油で日本美術を辿ることが重要だと考えているそうです。ここでも「パラレルな美術史」を創作していました。日本人にとって身近な醤油を、美術に落とし込むというアイデア自体からして新奇と言えるのではないでしょうか。


「なすび画廊ー宇治野宗輝」 1993年(2004年再制作) 牛乳箱、ミニボトル、ミニチュアグラス、ELライトなど 作家蔵

ラストは「なすび画廊」のシリーズでした。これは1993年、アーティストの中村政人のディレクションによるゲリラ展、「ザ・ギンブラート」に際して制作されたもので、数多くの画廊の立ち並ぶ銀座にて、「内側が白ければ画廊」とのコンセプトの元、既製の牛乳箱の内側などを白く塗り、中へに作品と言えぬような物を入れ、路上へと置きました。いわゆる貸画廊のシステムへの批判の意味もあったようです。


「新なすび画廊ーアイ・ウェイウェイ」 2006年 牛乳箱、粉砕した新石器時代の壺、ガラス瓶

そのポータブルな性格もあるのか、「なすび画廊」は次々と制作され、中には駆け出しのアーティストらが参加することもありました。1995年に一度、休止するも、97年に再開し、今度は「新なすび画廊」として世界へ展開し、各国のアーティストとのコラボレーションも行われました。


「新なすび画廊ー有馬純寿」 2011年 牛乳箱、デジタル・フォトフレーム 作家蔵

「なすび画廊」に加わったアーティストらは、何も画家らに留まりません。例えば現代音楽の分野でも活動する有馬純寿は、「新なすび画廊」の中へフォトフレームを設置し、イメージを見せていました。


「新なすび画廊ーディン・Q・レ」 2006年 牛乳箱、ミクストメディア オオタファインアーツ/作家蔵

またアイ・ウェイウェイや、ディン・Q・レによる「新なすび画廊」も目を引きました。これからもまた新たな「なすび画廊」が生み出されていくのかもしれません。

大掛かりなインスタレーションも多く、空間を大胆にレイアウトした構成も目を引きました。通常の所蔵作品展のスペースもありません。そもそも関東では、森美術館での「小沢剛:同時に答えろYESとNO!」(2004年)に続く、約14年ぶりの大規模な個展です。いずれの作品も日本美術史をテーマとしていますが、表現の幅が大きく、ともすると同じ作家の個展とは思えないかもしれません。確かに「ユニーク」(チラシより)でした。

「小沢剛 不完全―パラレルな美術史」では、最新作に久々の絵画作品も。鶴田吾郎の戦争記録画をモチーフに、ロールシャッハテストのように中央で線対称になっています。敵兵が描かれていない戦争画でも、鏡面にすると銃口の先には…?これまでの、これからの戦争について考えさせられます。 pic.twitter.com/8HFAmI6Dml

— 千葉市美術館 (@ccma_jp) 2018年1月30日
近年の小沢剛の集大成と言っても差し支えないのではないでしょうか。会場内の撮影も可能でした。(動画、フラッシュなどは不可。)

2月25日まで開催されています。

「小沢剛 不完全-パラレルな美術史」 千葉市美術館@ccma_jp
会期:1月6日(土)~2月25日(日)
休館:2月5日(月)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。

「グラフィズム断章:もうひとつのデザイン史」 クリエイションギャラリーG8

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クリエイションギャラリーG8
「グラフィズム断章:もうひとつのデザイン史」 
1/23~2/22



クリエイションギャラリーG8で開催中の「グラフィズム断章:もうひとつのデザイン史」を見てきました。

1953年に創刊された世界のデザイン誌「アイデア」は、現在も季刊で刊行され続け、昨年の12月に第380号を数えるに至りました。

その「アイデア」を手掛かりに、日本のグラフィックデザイン史を振り返るのが、「グラフィズム断章:もうひとつのデザイン史」展です。現在も第一線で活動するデザイナーのリサーチ活動をはじめ、「アイデア」誌のアーカイブ、さらには「来るべきグラフィックデザインの図書室」と題し、今後の展開を見定めるための書籍などが紹介されていました。



展示は、RoomC、A、Bの順の三部構成でした。冒頭が「RoomC」、つまり「来るべきグラフィックデザインの図書室」で、47組のデザイナーが、「グラフィックデザインは、どのようにアップデートされうるのか。」をテーマに、手がかりと考える書物を提示していました。



各デザイナーは5冊選出し、うち1冊を閲覧用として公開しました。つまり展示書物数は、全部で47冊でした。



また展示室内の柱には歴代の「アイデア」も並び、壁にはデザイン史の年譜も事細かに記載されていました。かつての「アイデア」のロゴデザインは、かの亀倉雄策が担当していました。なお書物はいずれも閲覧可能で、奥のベンチに座って読むことも出来ました。



続くのが「RoomA」、「これまでのグラフィックデザインから考える13の断章」と題したコーナーでした。ここでは20世紀のデザイン史のコンテクストを検証すべく、13名の気鋭のグラフィックデザイナーが様々なリサーチを行っています。



これがいずれも労作でした。例えば、デザイナーで、ブランドイメージの設計や運用も行う大西隆介は、デザインの領域には、「土着的、根源的イメージが地霊のように現れる。」(解説より)と考え、その諸相をピックアップしました。うち野球ファンとして目を引いたのが、「近鉄バッファローズ球団マーク」でした。1959年、当時の監督の千葉茂の親友だった岡本太郎がデザインし、球団が解散されるまで使われ続けました。猛牛をモチーフとしたロゴで、私も目をしたことは一度や二度ではありません。



雑誌や書籍の装丁を手がける川名潤は、ブックデザインを、年表の形をとりながら、分類していました。さらに言葉や文字の知覚を探るプロジェクトで知られる大原大次郎は、デザインの線、特に曲線を取り上げ、線を引く行為から、「線の機微」(解説より)に目を向けようと試みていました。いずれのデザイナーの視点もユニークでかつ専門的で、レポートのテキストも細かく、かなり読ませました。



ラストRoomB、「アイデアの全アーカイブズ」でした。まさに一目瞭然、展示室内の書棚には、「アイデア」の全バックナンバーがずらりと並んでいました。



元々、「アイデア」は、戦前に刊行された広告の唯一の全国誌、「廣告界」を継承して創刊されました。いずれも手に取ることも可能でしたが、大変なボリュームで、とても1日で閲覧出来るものではありません。60年以上も続いて来た、歴史の重みも感じられるのではないでしょうか。

#グラフィズム断章『アイデア』アーカイブズの部屋には、写真家Gttinghamさんによるインスタレーション「あるアイデア」が。『アイデア』を素材に構成した、美しい写真作品です。橋詰宗さんとのコラボレーション。https://t.co/IND4hYT5XB pic.twitter.com/J54Rrre3BB

— クリエイションギャラリーG8 (@g8gallery) 2018年1月31日
2月22日まで開催されています。

「グラフィズム断章:もうひとつのデザイン史」 クリエイションギャラリーG8@g8gallery
会期:1月23日(火)~2月22日(土)
休館:日・祝日。
時間:11:00~19:00。
料金:無料。
住所:中央区銀座8-4-17 リクルートGINZA8ビル1F
交通:JR線新橋駅銀座口、東京メトロ銀座線新橋駅5番出口より徒歩3分。

「運慶ー鎌倉幕府と霊験伝説」 神奈川県立金沢文庫

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神奈川県立金沢文庫
「運慶ー鎌倉幕府と霊験伝説」 
1/13~3/11



神奈川県立金沢文庫で開催中の「運慶ー鎌倉幕府と霊験伝説」を見てきました。

平安末期から鎌倉時代にかけて活動した仏師、運慶は、奈良で興福寺再建事業に参加するも、鎌倉幕府へと接近し、東国でも造仏を行いました。

主に鎌倉、ないし東国に所縁のある運慶仏、または運慶派の仏像を集めた展覧会です。出展は約42点で、うち直接的に運慶、もしくは運慶の手が加わったとされる仏像は3点でした。


重要文化財 「十二神将立像(巳神)」 鎌倉時代 曹源寺

まず目立つのは、神奈川県の曹源寺の「十二神将立像」で、子、丑、寅から、戌、亥へと至る干支をつけた十二神の姿が象られていました。手を振り上げ、足を曲げては、見得を切るかのようなポーズには躍動感もあり、写実性の強い造形も見事でした。また顔面の表現も迫真的で、例えば未では、ちょうど木目を活かして、肉付きが浮かび上がるように表現していました。さらに口を大きく開き、鋭い歯を剥き出しにした戌も、迫力十分ではないでしょうか。運慶派による作品ですが、運慶の十二神将の模作という考えもあるそうです。


重要文化財 「地蔵菩薩坐像」 康慶作 治承元(1177)年 瑞林寺

運慶の父、康慶の「地蔵菩薩坐像」も目を引きました。静岡県の瑞林寺の仏像で、泰然とした姿であり、表情は穏やかで、物静かな雰囲気を漂わせていました。深めの衣文も際立っていたかもしれません。

チラシ表紙を飾るのが、愛知県の瀧山寺に伝わる「梵天立像」で、源頼朝の供養のために、従兄弟の僧、寛伝が発願し、運慶と子の湛慶が協力して作った仏像だとされています。ちょうど瀧山寺の運慶、湛慶の合作は、先だっての東京国立博物館の「運慶展」にも「聖観音菩薩立像」が出展されていました。鮮やかな色は、のちの補彩ではありますが、ふくよかな顔立ちなどに、共通する作風が見られるかもしれません。


重要文化財 「大日如来坐像」 鎌倉時代 光得寺

栃木県の光得寺の「厨子入大日如来坐像」も、運慶の手による可能性が高く、丸みを帯びた顔と、高く結った髪が印象的な仏像でした。また装身具が殊更に繊細で、円成寺の運慶による国宝作を彷彿させる面があるかもしれません。


重要文化財 「阿弥陀如来坐像及び両脇侍立像」 宗慶作 建久7(1196)年 保寧寺

運慶が東国へ引き連れた、運慶周辺の仏師にも力作が揃っていました。一例が運慶の兄弟弟子である宗慶の「阿弥陀如来坐像及び両脇侍立像」で、やや口をすぼめながらも、恰幅の良い姿からは、威厳も感じられるのではないでしょうか。また「両脇侍立像」のステップを踏むかのように軽やかな姿も、興味深いものがありました。それに静岡県の修善寺の「大日如来坐像」も見どころの1つで、源頼家の供養のために、夫人が造立したと言われています。運慶の弟子の実慶が制作しました。


重要文化財 「阿弥陀如来立像及び両脇侍立像」 鎌倉時代 光触寺

運慶仏の霊験について言及しているのも、展覧会の大きな特徴でした。その最たる例が「阿弥陀如来立像及び両脇侍立像」で、神奈川県の光触寺の秘仏として信仰を集めて来ました。


重要文化財 「頬焼阿弥陀縁起絵巻」(部分) 鎌倉時代 光触寺

そこで重要なのが、同寺に伝わる絵巻の「頬焼阿弥陀縁起」で、中には仏師運慶の名とともに、阿弥陀如来が法師の身代わりになったという、「阿弥陀如来立像」の造立にまつわる霊験が記されています。さらに同じく光触寺には、阿弥陀の姿を絹本に写した「阿弥陀三尊像」があり、これはおそらく礼拝者に、仏像の霊験を伝えるために作られたのではないかと考えられているそうです。仏像、絵巻、そして絵画の3点をあわせ見ることで、運慶仏の信仰の在り方が浮かび上がって来るかもしれません。


重要文化財 「陵王面」 運慶作 鎌倉時代 瀬戸神社

最近の研究で運慶作とされた「陵王面」にも迫力がありました。いつもながらの手狭なスペースのため、スケールの面では、昨年に大きな話題を集めた東京国立博物館の「運慶展」に遠く及びません。ただし、運慶と運慶派を東国に引きつけ、仏像の霊験について触れるなど、一歩踏み込んで検証していたのが印象に残りました。また凝った照明こそありませんが、展示ケースが近く、総じて至近距離で仏像を鑑賞出来るのも嬉しいところでした。



ここ数年来、「運慶ー中世密教と鎌倉幕府」(2011年、金沢文庫)、そして「興福寺中金堂再建記念特別展 運慶」(2017年、東京国立博物館)、そして「運慶ー鎌倉幕府と霊験伝説」(2018年、金沢文庫)と、運慶に関する展覧会が続きました。

先日tvk「カナフルTV」にて放送された運慶展特集が、tvkのyoutube公式ページからご覧いただけます。見逃してしまった方、是非ご覧ください!#金沢文庫 #運慶展https://t.co/iwV3Hh1Unc

— 神奈川県立金沢文庫 (@Kanagawa_bunko) 2018年2月4日
幸いにも私は全て追いかけることが出来ました。これほど運慶、ないし運慶派の仏像をまとめて拝める機会など、もうしばらくないかもしれません。



休日の午後に出かけて来ましたが、館内は思いの外に盛況でした。実際に会期3週目の段階で、入館者は延べ1万名に達したそうです。



まだ寒い日も続きますが、隣接の称名寺へのお参り、もしくは散策を兼ねて出かけるのも良さそうです。



ひょっと会期末に向けて混み合うかもしれません。3月11日まで開催されています。

「特別展 運慶ー鎌倉幕府と霊験伝説」 神奈川県立金沢文庫@Kanagawa_bunko
会期:1月13日(土)~3月11日(日)
休館:月曜日。但し2月12日は除く。2月13日(火)は休館。
時間:10:00~16:30 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般800(700)円、20歳未満・学生600(500)円、65歳以上200(100)円、高校生100円。
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:横浜市金沢区金沢町142
交通:京急線金沢文庫駅東口より徒歩12分。シーサイドライン海の公園南口駅より徒歩12分。

「仁和寺と御室派のみほとけ」 東京国立博物館

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東京国立博物館・平成館
「仁和寺と御室派のみほとけー天平と真言密教の名宝」
1/16~3/11



東京国立博物館・平成館で開催中の「仁和寺と御室派のみほとけー天平と真言密教の名宝」を見てきました。

平安時代、光孝天皇の発願により造営がはじまり、宇多天皇によって創建された真言密教の寺院である仁和寺は、長らく皇室の私寺こと御願寺として崇敬を集めて来ました。

その仁和寺から、選りすぐりの寺宝がやって来ました。あわせて仁和寺にゆかりの寺院の仏像も参照し、御室派に花開いた仏教美術も紹介しています。


「宇多法皇像」 室町時代・15世紀 京都・仁和寺
*展示期間:2月14日(水)~3月11日(日)

冒頭が宇多法皇の肖像画でした。宇多天皇は譲位後に出家し、904年、仁和寺に僧坊を造営し、隠棲しました。その僧坊こそが御室と称され、以降の歴代門主は、宇多法皇の法流を汲む親王や法親王が継承して来ました。その歴代の御室を記録したのが「御室相承記」で、略伝や法会の概要などが記されました。


国宝「高倉天皇宸翰消息」 高倉天皇筆 平安時代・治承2(1178)年 京都・仁和寺
*展示期間:1月16日(火)~2月12日(月・休)

御室としての仁和寺を物語るのが、天皇直筆の書、すなわち宸翰でした。うち代表的なのが「高倉天皇宸翰消息」で、中宮平徳子の皇子の誕生の悦びを、仁和寺第六世の守覚法親王に宛てて送った、高倉天皇の現存唯一の遺墨とも言われています。守覚法親王は後白河天皇の第二皇子で、1169年に御室に就任し、先述の高倉天皇の皇子の誕生の際、御産のために孔雀経法を行いました。宸翰に対する守覚法親王の返書も、附として伝わっているそうです。

宸翰では「後陽成天皇宸翰一行書」も印象に深い作品でした。思いに邪はないことを意味する「思無邪」を記した書で、動きのあるような筆跡に力強さを見ることが出来ました。空海の書風にも影響を与えたとされています。


国宝「三十帖冊子」 空海ほか筆 平安時代・9世紀 京都・仁和寺
*展示期間:通期展示(帖替あり)、1月16日(火)~28日(日)限定全帖公開。

その空海の記した「三十帖冊子」も見どころの1つでした。弘法大師、空海が、唐で書写して持ち帰った経典類で、真言密教の秘書として大切に伝えられて来ました。経典は唐の写経生による書写と、空海の自筆部分に分かれ、中には空海と同じく三筆の一人として讃えられた、橘逸勢の書も含まれると言われています。

展示は全期間に及びますが、会期当初、1月28日までは三十帖の全てが公開されていました。(現在は帖替で展示。)冊子はそれこそメモ帳サイズで、文字も実に細かく、中には肉眼では確認し得ないほど小さなものもありました。とはいえ、空海の、どこか柔らかく、また流れるような筆跡も見られないわけではありません。なお全帖公開は、2014年の修復後、初めてのことでもあります。

密教で最も重要なのは、仏の力によって現実世界に影響を与える修法と呼ばれる儀式でした。天変地異などの災いを除き、幸福をもたらすため、修法は大いに期待され、特に平安時代以降は国家的行事として行われました。よって真言密教の寺院である仁和寺にも、修法に関する数多くの文物が残されてきました。


国宝「孔雀明王像」 中国 北宋時代・10~11世紀 京都・仁和寺
*展示期間:1月16日(火)~2月12日(月・休)

中でも無双の大秘法とも呼ばれる、孔雀経法に関する作品が充実していました。「孔雀明王像」は、孔雀経法のための本尊画像で、大きな羽を広げた孔雀の上に、明王が座る姿を描いています。線は極めて緻密でかつ、彩色もかなり残っていて、孔雀の羽の緑なども殊更に美しく見えました。明王は、三つの顔と六つの腕をした三面六臂と呼ばれる姿で、経典には見慣れない特異な図像でもあるそうです。左右の対照的な正面性の高い作品で、いわば写実的な明王の表情なども印象に残りました。

また「金銅火焰宝珠形舎利塔」も、見応えがあるのではないでしょうか。おおよそ50センチほどはあろうかという大きな舎利塔で、繊細な作りの蓮華台座の上に、丸みを帯びた大きな宝珠が安置されていました。ほか、修法に際して用いられた仏画や法具もかなり揃っていました。

931年、宇多天皇が御室で崩御すると、膨大な数の御物が仁和寺へと移され、宝蔵が成立しました。以降、皇室の私寺の宝蔵として厳重に管理され、途中に戦火などに見舞われながらも、貴重な宝物類が現代まで守られて来ました。


重要文化財「僧形八幡神影向図」 鎌倉時代・13世紀 京都・仁和寺
*展示期間:1月16日(火)~2月12日(月・休)

日本最古の医学書として伝えられる「医心方」をはじめ、鴨長明の著した現存最古の写本である「方丈記」、さらには「延喜式」の年紀の入った最古の写本などが重要ではないでしょうか。また「僧形八幡神影向図」も見逃せません。扉の内側に二人の男臣が跪き、僧の姿をした八幡の神が現れる様子を表現していて、僧の右上には人影があり、神の影とも、神そのものの姿とも言われています。開け放たれた扉の外から覗き込むような構図も面白く、静けさに包まれながら、何とも言い難い緊張感も漂っていました。

応仁の乱で荒廃した仁和寺が、現在のような伽藍に再建されたのは、江戸時代初期、覚深法親王の時代でした。覚深法親王は、時の将軍、家光に働きかけ、仁和寺再建の援助を取り付けることに成功しました。さらに御所の紫宸殿や清涼殿なども移され、堂舎として改築されました。うち観音堂も同じ頃に再建されました。堂内には本尊の「千手観音菩薩立像」をはじめ、「二十八部衆立像」、さらには「風神・雷神立像」などの33体の仏像が安置されました。現在は、僧侶の修行道場のために、一般には非公開とされています。よって仁和寺へ赴いたとしても、拝観は叶いません。



その観音堂の33体の仏像が、まとめて東京国立博物館へとやって来ました。さらに単に展示するだけでなく、内陣の板壁の壁画も高精細画像で再現し、まさに実際の観音堂へ迷い込んだかのような空間を作り上げていました。しかも観音堂の再現展示は、全て撮影が可能でした。率直なところ、驚きました。



中央に鎮座するのが「千手観音菩薩」で、両脇を「降三世明王立像」と「不動明王立像」が構え、その周囲に「二十八部衆立像」が配置されています。左右の一番手前で、少し高い位置から威容を見せるのが、「風神・雷神立像」でした。



いずれの仏像も観音堂が再建された当時に安置された考えられているものの、作者自体は明らかにされていません。「二十八部衆立像」は、鎌倉時代に作られた京都の妙法院三十三間堂の像を模していて、まさに力強く、堂々とした姿を見せていました。



重厚な甲冑に身を包んだ像の多い中、ともすると異彩を放つのが「婆藪仙人」で、やせ細った上半身を露わにしながら、右手で杖をつき、口を大きく開いては前を見据えて立っていました。殺生の罪で地獄に落ちるものの、仏門に入ったことで救われ、経巻を捧げては、多くの罪人を連れて帰ろうとした姿を表現しました。まさに写実的で、鎌倉期の作を巧みに模していると言えるかもしれません。



内部の壁画の再現も実にリアルであるのにも驚きました。いずれも江戸時代の京都で活動した木村徳広によるもので、観音菩薩の救いの有り様などを、極彩色にて描きました。壁画はあくまでもレプリカではありますが、本物と見間違うかもしれません。



これほどまでに力の入った展示も、そう滅多にありません。まさに濃密極まりない仏教的空間が、東博に出現しました。

まさにハイライトではありますが、ここで終わりでないのが、「仁和寺と御室派のみほとけ展」の凄いところかもしれません。さらに続くのは仏像の饗宴でした。全国各地に点在する御室派の寺院から、普段は非公開の秘仏を含む、貴重な仏像が、数多くやって来ました。

まず目立つのが「阿弥陀如来坐像」でした。目を伏し、やや笑みをたたえたような表情をした阿弥陀如来で、仁和寺を創建した宇多天皇が、父の光孝天皇の菩提をともらうために供養した仏像とされています。つまり仁和寺創建時の本尊で、腹の前で両手を重ね合わせる形式をした阿弥陀如来像としては、最も古い作例だとも考えられているそうです。

一際背の高い仏像が目に飛び込んで来ました。それが福井県の明通寺の「降三世明王立像」で、像高は約250センチにも及ぶ、国内でも類例のない降三世明王の立像でした。顔は4面あり、8本の手が4方へと伸びていました。正面の顔は、何か見る者をあざ笑うかのようで、炎のごとくに逆立つ髪や、大口を開けた表情などは、異形と言っても良いかもしれません。大変な迫力でした。



同じく凄まじい形相をしているのが、同じく福井県の中山寺よりやって来た「馬頭観音菩薩坐像」でした。同寺では秘仏本尊として伝えられ、鎌倉時代の作品にも関わらず、まだ鮮やかな色彩を残していました。くわっと正面を睨むような表情は、野趣味に富んでいるとも言えそうです。

古墳時代の土師氏の氏寺として創建された、大阪府の道明寺に伝わる「十一面観音菩薩立像」の端正な姿も忘れられません。平安時代の仏像で、体は肉付きも良く、やや泰然としたような様で立っています。頭上の仏面から手足はおろか、台座に至るまで一木で造られていて、衣文も極めて流麗で、洗練されていました。

さらに同じく秘仏本尊である兵庫県の神呪寺の「如意輪観音菩薩坐像」も目を引くのではないでしょうか。平安後期の作で、如意輪観音像の古い例としても知られる、一木の仏像でした。ちょうど肩を右に落とし、左手で体を支えるように座る姿も独特で、何やら怒ったような表情をしているようにも見えなくはありません。

これらの仏像が、一部を除き、露出で展示されていたのにも驚きました。かの運慶展を彷彿されるような照明で、仏像の彫刻としての魅力を余すことなく伝えていました。秘仏も多く、仏像ファンにとっても見逃せない展覧会だと言えるのではないでしょうか。



感想をまとめるのが遅くなってしまいましたが、会期早々、第1週目の金曜日の夜間開館に行ってきました。それゆえか、場内にも余裕があり、「三十帖冊子」のコーナーこそ一部に僅かに列が出来ていたものの、どの作品も最前列でスムーズに観覧することが出来ました。既に会期も半月ほど経過しましたが、今のところ、特に混み合っていないようです。



「三十帖冊子」の全帖公開は既に終了しましたが、それ以外も、2月の第3週を境に、かなり多くの作品が入れ替わります。

「仁和寺と御室派のみほとけー天平と真言密教の名宝」出品リスト

2月14日からは、チラシ表紙にも掲げられ、天平の秘仏とも呼ばれる葛井寺の国宝、「千手観音菩薩坐像」が出陳されます。そのタイミングを狙い、私も再度、見に行くつもりです。

本日、特別展「仁和寺と御室派のみほとけ ―天平と真言密教の名宝―」の報道内覧会および開会式・内覧会を開催し、多くの方々にお越しいただきました。仁和寺の寺宝のほか、仁和寺を総本山とする御室派寺院が所蔵する名宝を紹介する仁和寺展は明日、開幕いたします。 #仁和寺展 https://t.co/MQQX3rtqNi pic.twitter.com/VzgPM6H3zL

— トーハク広報室 (@TNM_PR) 2018年1月15日
3月11日まで開催されています。これはおすすめします。

「仁和寺と御室派のみほとけー天平と真言密教の名宝」@ninnaji2018) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:1月16日(火)~3月11日(日)
時間:9:30~17:00。
 *毎週金・土曜は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し2月12日(月・祝)は開館。2月13日(火)は休館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生900(600)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。

注)写真は第4章「仁和寺の江戸再興と観音堂」の観音堂再現展示。撮影可コーナー。

「墨と金 狩野派の絵画」 根津美術館

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根津美術館
「墨と金 狩野派の絵画」 
1/10~2/12



根津美術館で開催中の「墨と金 狩野派の絵画」を見てきました。

室町時代の京都で興った狩野派は、足利将軍の御用をつとめ、歴代の権力者の庇護を受けながら、江戸時代を通して、画壇の頂点に君臨しました。

狩野派の基本にあったのは、水墨でした。特に初代の正信の子、元信は、先行した中国の水墨の様式を整理し、いわゆる真体、行体、草体の三種の画体を作り出しました。


「養蚕機織図屏風」(右隻) 伝狩野元信 室町時代・16世紀 根津美術館

そのうち、緻密な構図と描線を特徴としたのが真体で、伝元信の「養蚕機織図屏風」に例を見ることが出来ました。ちょうど屏風の中央に水辺が広がり、左右に山々、ないし楼閣が並ぶ山水の景観を表していて、その中に、中国の「耕織図」に由来する、養蚕と機織りの13の作業場面を描きました。

水墨の筆は的確で、繭を選別するプロセスの人々の姿も細かく、機織りの場面で、織物がぴんと張る様子も忠実に再現していました。しかし全てが緻密というわけではなく、例えば水面の揺らぎを柔らかな曲線で表し、時に等伯の松林図を彷彿させるような松林を描き加えるなど、硬軟を交ぜた筆さばきも、見事と言えるのではないでしょうか。また「耕織図」の主題には、施政者が農民の労苦を労る意味も持ち得ていて、まさに権力者に接近した、狩野派ならではの作品なのかもしれません。

こうした真体と、崩した描写の草体の中間にあるのが、行体と呼ばれる画体でした。一例が元信印の「四季花鳥図屏風」で、山水の自然へ、鳥が集う様子を描いていました。丸く、柔らかみのある筆は伸びやかで、鳥の羽の一枚一枚を丁寧に描きつつ、柳の木の葉が風に揺れる様子なども巧みに表現していました。また鳥たちの表情も生き生きとして、細部へと寄ってみれば、それこそ鳥の囀りが聞こえてくるような臨場感があるかもしれません。制作に際しては、元信の弟である之信、ないし三男の松栄の関与も指摘されているそうです。


「犬追物図屏風」(右隻) 江戸時代・17世紀 根津美術館

「犬追物図屏風」も見逃せませんでした。武家が騎射、つまり馬上から矢を射る訓練のために行われた競技を描いた作品で、大勢の人たちが見守る中、馬に乗った武人らが、円を描くように馬を進めたり、犬を追いかけたりしていました。特に目を引いたのが、見物人の姿で、指を差しては武人を楽しそうに眺めたり、何やら宴会をしているような者もいました。大変な賑わいで、ちょっとしたお祭りであったのかもしれません。

大作の屏風だけでなく、比較的小さな掛軸画にも、思いがけない優品がありました。狩野探幽の妹の国と、弟子の久隅守景の間に生まれた、清原雪信による「西王母図」も、魅惑的な作品と言えないでしょうか。2つの花と実をつけた桃を持つのが、中国で古くから信仰された西王母で、すくっと立つ姿からして美しく、実に典雅な雰囲気を漂わせていました。


「梟鶏図」(部分) 狩野山雪 江戸時代・17世紀 根津美術館

狩野山雪の「梟鶏図」も面白い作品でした。2幅の画面に、左に朝の鶏、そして右に夜の梟を対比させるように描いていました。ともかく鶏と梟の表情が滑稽で、何やら鶏は不機嫌なのか、しかめっ面であり、一方の梟も上目遣いですっとぼけたような仕草を見せていました。擬人化ならぬ、人の心理を投影させて表現したのかもしれません。



思いがけないくらい感銘を受けた作品がありました。それが久隅守景の「舞楽図屏風」で、6曲1双の大画面に、左へ「納曾利(なそり)」と「蘭陵王」、さらに右には武将の舞である「太平楽」の舞楽が描かれていました。一目で思い浮かぶのは、俵屋宗達の「舞楽図屏風」で、実際に舞人の姿が酷似することから、宗達、ないし共通するモチーフに基づいて描かれたのではないかと推測出来ます。

舞人の衣装や装身具などは極めて精緻で、胡粉を盛り上げては顔面を表現するなど、随所に拘りの描写も見られますが、何よりも素晴らしいのは、余白、ないし間の使い方でした。屏風の折り目まで意識して描いたのか、屏風の左右、少し斜めから目をやりながら進むと、それこそパラパラ絵本のごとくに舞人が現れ、まるで実際に動いているようにも見えなくはありません。

1/10から開催の「墨と金-狩野派の絵画-」(根津美術館)は、「墨と金」という言葉に象徴される狩野派の系譜を豪華な優品とともに巡ります。また、展示室5では江戸時代のフラワーアレンジメントともいえる《百椿図》を、展示室6では「戊戌」にちなんだものを紹介。新年にふさわしい華やかな内容です。 pic.twitter.com/qCrFeUae2X

— 芸術新聞社 (@geishin) 2018年1月9日
出展作は全24点です。(展示替えあり。)作品数こそ物足りないかもしれませんが、ともかく作品が粒揃いで感心しました。見応えは十分でした。


「百椿図」(部分) 伝狩野山楽 江戸時代・17世紀 根津美術館

また階上の「展示室5」では、新春恒例、伝狩野山楽による「百椿図」も公開されていました。100種類以上もの椿が、様々な器物と組み合わされて描かれた巻物で、実に艶やかな色彩美が魅惑的な作品でもありました。こちらもお見逃しなきようおすすめします。



2月12日まで開催されています。

「墨と金 狩野派の絵画」 根津美術館@nezumuseum
会期:1月10日(水)~2月12日(月・祝)
休館:月曜日。2月12日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100円、学生800円、中学生以下無料。
 *20名以上の団体は200円引。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。

「あなたが選ぶ展覧会2017」発表ライブイベントを開催します

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2017年の展覧会を振り返ろうとして行ってきた「あなたが選ぶ展覧会2017」。まずは皆さんに良かったと思う展覧会をエントリーしていただき、一度集計の上、発表しました。結果的に43の展覧会がノミネートされました。



「あなたが選ぶ展覧会2017」
http://arttalk.tokyo/

「あなたが選ぶ展覧会2017」エントリー結果
http://arttalk.tokyo/vote/result.html

さらに現在、「ベスト10」を投票という形で選んでいただいております。投票期限は2月12日(月)までです。既に多くの方が投票して下さいました。本当にありがとうございました。(最終投票フォーム:https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/yourchoice2017/vote2017/

その結果を発表するライブイベントをWEBで開催します。

【「あなたが選ぶ展覧会2017」投票結果発表!ライブイベント】
・日時:2018年2月18日(日) 10:30〜11:30
 V-CUBE(ブイキューブ)の配信システムを利用します。
 開始時間の10分前から指定したwebサイトにログインしてください。
 webサイトのアドレスは、お申し込み頂いた後、折り返しメールにてご案内致します。
・出演
 青い日記帳Takさん http://bluediary2.jugem.jp/
 チバヒデトシさん(ジャーナリスト) https://www.facebook.com/chibahide
 はろるど
・内容
 「あなたが選ぶ展覧会2017」の最終投票結果を発表します。
・ライブイベント申込フォーム:https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/event2017/event2017/
・参加費:無料

開催日時は、2月18日(日)の午前10時30分からです。ライブは例年同様、Vキューブの配信システムを利用します。あくまでもWEB上のイベントです。ネット回線を通じ、自宅のパソコンや、出先のスマートフォン(専用のアプリをダウンロードする必要があります。)でご参加いただけます。会場にお越しいただく必要はありません。

発表ライブイベント申込フォーム:https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/event2017/event2017/

イベント時はチャットを通じ、参加者の皆さんも出演者とのやり取りが可能です。途中、アンケートなども実施しながら、皆さんのご意見やコメントをご紹介した上で、和気藹々と進めていければと考えています。

今年もジャーナリストのチバヒデトシさんをお迎えしました。またお馴染みの「青い日記帳」のTakさんも出演されます。既に年も明けていますので、2017年の振り返りだけでなく、今年の展覧会の展望についてもお話し頂く予定です。



「あなたが選ぶ展覧会2017 イベントスケジュール」

1.エントリー受付
2017年に観た展覧会で良かったと思うものを3つあげていただきます。
*1月28日(日)で受付を終了しました。

2.ベスト50展発表
エントリーしていただいた多くの展覧会の中から、最大で上位50の展覧会を2月1日(木)にwebサイト上で発表します。
エントリー集計結果:http://arttalk.tokyo/vote/result.html

3.ベスト展覧会投票
エントリーのあった展覧会の中から、さらにベストの展覧会を選んでいただきます。あなたが選ぶ2017年のベスト展覧会を1つ選んで投票して下さい。
投票フォーム::https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/yourchoice2017/vote2017/
*投票期間:2月1日(木)~2月12日(月)まで

4.ベスト展覧会決定
最終的な投票結果は、2月18日(日)の10時30分から、webのライブイベントで発表致します。
発表ライブイベントの申し込みは→https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/event2017/event2017/

イベントに際しては、システムの都合上、事前のお申し込みが必要ですが、お名前はハンドルネームでも構いません。もちろん費用も一切かかりません。



「あなたが選ぶ展覧会」は、毎年、皆さんのエントリー、投票より選ばれます。2017年はどのような結果となるのでしょうか。多くの方のご視聴、ご参加を心よりお待ちしております。

発表ライブイベント申込フォーム:https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/event2017/event2017/

[あなたが選ぶ展覧会2017 イベント概要]
開催期間:2018年1月15日(月)~2月18日(日)
エントリー受付期限:1月28日(日) *終了しました。
上位50展発表:2月1日(木)
エントリー集計結果:http://arttalk.tokyo/vote/result.html
ベスト展覧会投票期間:2月1日(木)~2月12日(月)
最終投票フォーム:https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/yourchoice2017/vote2017/
「あなたが選ぶ展覧会2017」発表ライブイベント:2018年2月18日(日)午前10時半より。
発表ライブイベント申込フォーム:https://form.qooker.jp/Q/auto/ja/event2017/event2017/

「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」 東京都美術館

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東京都美術館
「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」
1/23~4/1



東京都美術館で開催中の「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」を見てきました。

16世紀から17世紀のヨーロッパの画家で影響力を及ぼしたブリューゲル一族は、多様な芸術的視点を持ち合わせ、同じく多くの主題を扱いながら、おおよそ150年間に渡って絵画を制作し続けました。

ブリューゲル一族の作品がやって来ました。出展数は約100点で、油彩、ペン画、版画と多岐に渡っています。また海外の個人蔵、すなわちプライベートコレクションが多く、殆どが日本初公開の作品でした。

一族の祖であるピーテル・ブリューゲル1世は、ヒエロニムス・ボスの様式を取り入れた絵画で人気を博し、「第二のボス」と称されました。またボスよりも中庸な目で現実を見据え、農民たちの生活を多く描いたことから、「農民画家」とも呼ばれました。その持ち前の観察眼は、2人の息子、つまりピーテル・ブリューゲル2世と、ヤン・ブリューゲル1世に受け継がれました。


ピーテル・ブリューゲル1世と工房「キリストの復活」
1563年頃 Private Collection, Belgium

ピーテル1世で目立つのは、工房作ともされる「キリストの復活」でした。墓の入口が開き、ちょうどキリストが現れる場面を描いていて、手前には驚いて墓に目を向ける兵士たちの姿を見ることが出来ました。パトロンであった枢機卿のために制作されたもので、絵画の絵具層には、下絵素描も残されているそうです。


ピーテル・ブリューゲル1世(下絵)、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン(彫版)「最後の審判」
1558年 Private Collection

いかにもボス風の作品と言えるかもしれません。それが同じくピーテル1世による「最後の審判」で、中央上空にキリストがいて、左に救われる者、右にぱっくりと口を開けた地獄へ落ちる者を表していました。手前には典型的なボス風の魔物もいて、人を飲み込んだりもしています。こうした主題は、15世紀から16世紀のネーデルラントの絵画や素描で人気を集めました。


マールテン・ファン・ファルケンボルフ、ヘンドリク・ファン・クレーフェ「バベルの塔」
1580年頃 Private Collection, France

ほぼ同時代の、マールテン・ファン・ファルケンボルフとヘンドリク・ファン・クレーフェによる「バベルの塔」も、興味深いのではないでしょうか。ちょうど昨年春、東京都美術館で公開された、ピーテル・ブリューゲル1世の同名作に影響を受けたとされ、実際に2人の画家も、ピーテル1世の存命中に、作品を目にしたと言われてています。後景の広いパノラマ的な視点と、手前の生き生きとした人物表現、それに抜けるように青い空の色彩にも目を引かれました。


ヤン・ブリューゲル1世「水浴をする人たちのいる川の風景」
1595〜1600年頃 Private Collection, Switzerland

ピーテル1世による自然、ないし山岳風景の関心を受け継いだのは、次男のヤン・ブリューゲル1世でした。一例が「水浴をする人たちのいる川の風景」で、森の木立の中、川に入っては、水を浴びる人々の様子を表していました。石造りの家々に樹木の葉、それに空を舞う鳥の表現などは実に緻密で、それこそ細密画ならぬ、水面には人の映る影まで描きこんでいました。また、木立から奥へと広がる構図にも、安定感があるのではないでしょうか。見応えのある一枚でした。


ヤン・ブリューゲル1世(?)、ルカス・ファン・ファルケンボルフ「アーチ状の橋のある海沿いの町」
1590〜1595年頃 Private Collection, Belgium

一方で、ヤン・ブリューゲル1世とルカス・ファン・ファルケンボルフによる「アーチ状の橋のある海沿いの町」は、独特な幻想性を帯びた作品で、前景の写実的な人や家畜の描写とは裏腹に、彼方へと広がり、霞のかかった後景の海や空には、どこか非現実的な雰囲気も漂っていました。ヤン1世が人物や牛、またファルケンボルフが橋と港、それに海などを描いたとされているそうです。

ヤン・ブリューゲル1世の兄であるピーテル・ブリューゲル2世は、父のピーテル1世の模倣作を描き、その様式を世へ広めました。また雪景などの冬の風景画でも成功を収めました。


ピーテル・ブリューゲル2世「鳥罠」
1601年 Private Collection, Luxembourg

その父の模倣作、つまりコピーであるが「鳥罠」で、おそらく父の考案した題材を、ピーテル2世や一族が類型化した作品だと言われています。雪に覆われた集落はいかにも寒そうで、当然ながら樹木には葉もなく、川も凍りついていて、その上を人々が滑っていました。


ヤン・ブリューゲル2世「冬の市場への道」
1625年頃 Private Collection

ヤン2世も「冬の市場への道」など、冬の風景画を描きました。同じく雪に覆われた大地でありながら、手前の馬車のそばで休む農民をクローズアップするなど、より牧歌的で、画家による人の生活に対する関心も伺えるかもしれません。


ヤン・ブリューゲル1世「馬と馬車(準備素描)」
1610年頃 Private Collection

インクやチョーク画にも魅惑的な作品がありました。その1つがヤン1世の「馬と馬車」で、油彩画の準備素描として、荷馬車や農民たちを、チョークの細い線で描きこんでいます。タッチは繊細で、画家の筆遣いをダイレクトに感じられる作品かもしれません。

ヤン1世の子、ヤン・ブリューゲル2世は、寓意画や神話画を得意とする画家でした。それは「平和の寓意」、「戦争の寓意」、「嗅覚の寓意」、「聴覚の寓意」、「愛の寓意」など、一連の寓意画にも見ることが出来ました。


ヤン・ブリューゲル1世「ノアの箱舟への乗船」
1615年頃 Anhaltische Gemaldegalerie Dessau

ヤン1世の「ノアの箱舟への乗船」も、聖書の神話をモチーフとする作品で、箱舟に乗るべく、たくさんの動物たちが集まって来ていました。かつてはヤン1世の作品を、子のヤン2世がコピーしたとされてきましたが、修復の結果、ヤン1世作、ないし工房作として考えるようになったそうです。じゃれ合うライオンなど、動物の動きも面白いのではないでしょうか。

2階展示室の全ての作品の撮影が出来ました。(2月18日までの期間限定)

ブリューゲル一族は、静物画の隆盛に大きな役割を果たしました。17世紀頃のオランダの花の静物画は、異国由来の新種の関心や、チューリップへの投機などに支えられました。またフランドルの静物画は、コレクターであった貴族のコレクションとして発展しました。それゆえか、希少であることや異国性が重視されました。


ヤン・ブリューゲル1世、ヤン・ブリューゲル2世「机上の花瓶に入ったチューリップと薔薇」
1615〜1620年頃 個人蔵

花の静物画を特に得意としたのは、「花のブリューゲル」呼ばれたヤン1世でした。「机上の花瓶に入ったチューリップと薔薇」は、ヤン1世と、その工房で修行していたヤン2世による共作で、透明なガラスの花瓶に入れられた花束を正面から描いていました。バラには蜂もとまり、机上には昆虫の姿も見えました。なおチューリップに縞模様がありますが、これはウイルス性の病気に罹っているからだそうです。しかし当時は、原因が分かっておらず、むしろ希少品として珍重されました。


アブラハム・ブリューゲル「果物と東洋風の鳥」
1670年 個人蔵

ピーテル1世のひ孫にあたるアブラハム・ブリューゲルも、静物と花を得意とした画家でした。「果物と東洋風の鳥」は、イタリアへ渡った際にローマで描かれた作品で、フランドルの緻密な描写をもって、イタリア風の静物画に仕上げていました。こうした静物は人気を集め、有力貴族らのパトロンを得ることが出来たそうです。


ヤン・ブリューゲル2世、フランス・フランケン2世「彫刻と鍍金の施された花瓶に入った花束」
1625〜1630年頃 個人蔵

また、ヤン2世とフランス・フランケン2世による「彫刻と鍍金の施された花瓶に入った花束」も、目立っていたのではないでしょうか。縦に1メートルを超える、比較的大きな作品で、花をヤン2世、瓶をフランケン2世が担当しました。花の鮮やかな色彩感と、彫刻の施された瓶の重い質感も見どころかもしれません。


ヤン・ファン・ケッセル1世「蝶、コウモリ、カマキリの習作」
1659年 個人蔵

ヤン1世の娘、パスハシアと、画家、ヒエロニムス・ファン・ケッセルの息子である、ヤン・ファン・ケッセル1世に面白い作品がありました。それが「蝶、カブトムシ、コウモリの習作」で、コウモリを中心に、トンボや蝶などの昆虫を、白い大理石へ描きこんでいます。素材は油彩ですが、筆は大変に細かく、写実的で、まるで標本箱を覗き込んでいるかのようでした。実際に画家は、屋外での観察だけでなく、書物も参照して描いたそうです。


ピーテル・ブリューゲル2世「七つの慈悲の行い」
1616年 個人蔵
 
ラストは農民の日常風景、中でも婚礼の踊りを描いた作品でした。元々、農民の作品は、風刺的な意味を持っていましたが、ブリューゲル一族は、むしろ親しみのある眼差しで農民を見据え、その勤勉さなどを称ようとしました。ピーテル1世は農民に交じり、祭りを楽しみ、またピーテル2世も、父と同じく、時に農村へ出向いては、農民たちの生活を観察しました。


ピーテル・ブリューゲル2世「野外での婚礼の踊り」
1610年頃 個人蔵

ここでは最後の1点、ピーテル2世の「野外での婚礼の踊り」が魅惑的でした。手前には複数のカップルがダンスを楽しみ、右奥のテーブルには、婚礼とあるように、花嫁が座っていました。酒を飲んでいるのか、大きな壺を抱えている者や、楽器を演奏している人物もいて、賑やかな宴の様子も伝わってきました。こうした主題の作品はピーテル1世が初めて描き、ピーテル2世以下、一族にも受け継がれました。相当に人気のあるテーマでもあったそうです。


ピーテル・ブリューゲル1世(下絵)、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン(彫版)「春」
1570年 個人蔵

全体を通すと、思っていたより小粒な印象も否めませんでしたが、そもそも4世代のブリューゲル一族の作品を通して見られること自体が、貴重な機会であるのかもしれません。また今回の展覧会は、2012年にイタリアのコモで開催され、そののち、作品を入れ替えながら、フランス、ドイツ、イスラエル、そして日本へやって来た、国際巡回展でもあります。


ヤン・ブリューゲル2世「ガラスの花瓶に入った花束」
1637〜1640年頃 個人蔵

混雑を見込んで、会期1周目の日曜日の午後に出かけて来ましたが、館内には余裕がありました。


「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」2階展示室 *2月18日まで撮影可

今のところ、土日を含め、特に行列は発生していません。なお混雑情報については、公式の専用Twitterアカウント(@bru_konzatsu)が、待ち時間の情報をこまめに発信しています。そちらも有用となりそうです。



キャプションに一工夫がありました。というのも、作品名に制作年や解説のほかに、「父ー子ー孫ーひ孫」として、画家がどの世代に属するか、一目で分かるように明記されていたからです。鑑賞の参考になりました。

☆期間限定☆

2/18まで「静物画の隆盛」「農民たちの踊り」をテーマとした2階展示室の全作品が撮影可能です📷
ヤン1世の孫にあたるヤン・ファン・ケッセル1世の大理石に描かれた作品を撮影できるまたとない機会ですよ‼️#ブリューゲル展 をつけて投稿して下さいね✨ #インスタ映え@brueghel2018 pic.twitter.com/G7toEIIUul

— ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜 (@brueghel2018) 2018年2月4日
繰り返しになりますが、2月18日までは、2階展示室内の作品の撮影も可能です。但しフラッシュ、三脚の使用は出来ません。また混雑時には中止する場合もあるそうです。ご注意下さい。



4月1日まで開催されています。

「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」@brueghel2018) 東京都美術館@tobikan_jp
会期:1月23日(火)~4月1日(日)
時間:9:30~17:30
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *11月1日(水)、2日(木)、4日(土)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し2月12日(月)は開館。2月13日(火)は休館。
料金:一般1600(1400)円、大学生・専門学校生1300(1100)円、高校生800(600)円、65歳以上1000(800)円。高校生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。

「アニマル・ワールド」 加島美術

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加島美術
「アニマル・ワールド 日本画の動物ってこんなにかわいい!!」 
2/3〜2/25



「アニマル・ワールド 日本画の動物ってこんなにかわいい!!」を見てきました。 

東京・京橋の画廊、加島美術に、江戸から近現代の日本の動物画、約50点が、ずらりと勢揃いしました。しかも嬉しいことに、ガラスケースもなく、露出展示で、いずれも目と鼻の先で作品を愛でることが出来ました。


岸駒「孔雀図」 江戸中期〜後期

まずは江戸絵画でした。岸駒は「孔雀図」において、これ見よがしに羽を広げては、樹上に止まった孔雀を表現しました。首を少しひねった仕草にも動きがあり、どこか眼光鋭く、見るものを威嚇しているようにも思えなくはありません。素早い筆による木の枝の描写も、とても趣きがありました。


長沢芦雪「月下鹿図」 江戸中期

愛知県美術館の回顧展で話題を集めた長沢芦雪にも、同じく目に力のある動物画がありました。それが「月下鹿図」で、表題が示すように、上空の半月の下、おそらくは雪原の上を鹿が歩く様子を正面から捉えていました。毛羽立った筆で鹿の毛を表す一方、蹄にはやや濃い墨を重ねていて、丸い模様の浮き出た角は、思いの外に細かく描いていました。


円山応挙「雪柳狗子図」 江戸中期

干支に因む戌の作品も少なくありません。その筆頭に挙げられるのが、犬を得意とした円山応挙の「雪柳狗子図」で、雪の降り積もった柳の木の下で、子犬たちが戯れ合っていました。


円山応挙「雪柳狗子図」 江戸中期

ころころと丸みを帯びた子犬は見るも可愛らしく、中には雪で滑ったのか、ひっくり返った子犬もいました。これぞ応挙犬の真骨頂ではないでしょうか。出展中、最も愛くるしい作品かもしれません。


中村芳中「雙鶏図」 江戸中期〜後期

なごみの琳派こと中村芳中の「雙鶏図」にも心惹かれました。番いの鶏を描いた掛け軸で、向きがちょうど互い違いになっていました。抑揚のある線で鶏の身体を描いていて、尾っぽは大胆にも太い墨をはね上げて表現していました。席画ならぬ、即興的に描いたのかもしれません。


渡辺省亭 「紅楓鳩温牡丹」 明治時代

昨年、加島美術の「蘇る!孤高の神絵師 渡辺省亭」展を発端に、一部の日本画ファンの中で人気を博した渡辺省亭にも、見逃せない優品がありました。それが二幅の「紅楓鳩温牡丹」で、右に黄色い楓と鳩のつがい、そして左に雀と薄いピンク色に染まる大輪の牡丹を表していました。


渡辺省亭 「紅楓鳩温牡丹」 明治時代

楓はラフな筆で素早く表現する一方、鳩や雀の羽は絵具を細かく重ねて描き、牡丹の花弁も一枚一枚が繊細で、色には透明感もありました。硬軟の筆を巧みに使い分けた、省亭ならではの作品と言えるかもしれません。


森狙仙「白薔薇猿蜂之図」 江戸中期〜後期

猿の絵師、森祖仙の「白薔薇猿蜂之図」も魅惑的でした。白い薔薇の枝を背景に、親子の猿を描いた作品で、ちょうど小猿は地面の上を這う昆虫に手を伸ばそうとしていました。ここで何よりも優れているのは、猿の毛並みで、細い毛を丁寧に描きながら、全体のふんわりとした質感も同時に表現していました。


柴田是真「牧童図窓猿」 江戸後期〜明治時代

柴田是真の「牧童図窓猿」も面白いのではないでしょうか。ちょうど窓の格子の向こうで、猿が手をやりながら、何かを伺うような仕草を見せていました。上下と左右を切り取ったような構図にも妙味があり、まるで格子に閉じ込められたかのようで、ひょっとすると猿は外へ出たがっているのかもしれません。その視線の行方も気になりました。


河鍋暁斎「蛙図」 江戸後期〜明治時代

人気の河鍋暁斎の「蛙図」も楽しい作品でした。蛙を擬人化し、子をおんぶしたり、何やら隊列を組むべく、胸を張っては、堂々と立つ蛙を描いていました。


前田青邨「闘犬」 大正〜昭和時代

何も江戸絵画だけでなく、近現代の動物画のあわせて紹介しているのも特徴です。例えば前田青邨は、「闘犬」で、闘う犬と見物人の様子を表現しました。


猪熊弦一郎「猫図」 昭和〜平成時代

また猪熊弦一郎の「猫図」も一際、異彩を放つ作品ではないでしょうか。3月末よりBunkamraザ・ミュージアムで始まる、「猪熊弦一郎展 猫たち」を控えての出展かもしれません。


上村松園「ねずみ」 大正〜昭和時代

思いがけないほどに惹かれた作品と出会いました。それが美人画の名匠、上村松園の「ねずみ」で、タイトルからすれば、竹の上のねずみを表現しているのかもしれませんが、その可愛らしい姿は、どう見ても和菓子などの雪うさぎにしか思えません。


「アニマル・ワールド」会場風景

ほかにも葛飾北斎、伊藤若冲、曾我蕭白、菱田春草、竹内栖鳳、小林古径、熊谷守一と盛りだくさんでした。まさに日本画の動物園と言って良いかもしれません。お気に入りの1点を見つけるにも、さほど時間がかかりませんでした。


「アニマル・ワールド」会場風景

撮影不可マークのついた作品以外は、自由に撮影も出来ました。またギャラリーの展示だけに購入も可能でした。

ちらしを開くと、中に「アニマルワールド 動物めぐりMAP」と題し、現在、都内で開催中の動物画に因む展覧会がリストアップされていました。公式サイトからも閲覧可能(WEBページ)です。このMAPを頼りに、各地の展覧会を練り歩くのも楽しそうです。

入場は無料です。会期中のお休みもありません。

アニマルワールド展、スタート!動物たちに会いに来てくださいね!Our exhibition "Animal World" started! Come and meet the animals! https://t.co/9bORLDRz3a pic.twitter.com/5T8BiXGtOs

— 加島美術 / Kashima Arts (@Kashima_Arts) 2018年2月5日
2月25日まで開催されています。

「アニマル・ワールド 日本画の動物ってこんなにかわいい!!」 加島美術@Kashima_Arts
会期:2月3日(土)〜2月25日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~18:00
料金:無料。
住所:中央区京橋3-3-2
交通:東京メトロ銀座線京橋駅出口3より徒歩1分。地下鉄有楽町線銀座一丁目駅出口7より徒歩2分。JR線東京駅八重洲南口より徒歩6分。
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