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「岡山芸術交流2019」 前編:旧内山下小学校、林原美術館

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旧内山下小学校、旧福岡醤油建物、岡山県天神山文化プラザ、岡山市立オリエント美術館、岡山城、林原美術館ほか
「岡山芸術交流2019 IF THE SNAKE もし蛇が」
2019/9/27~11/24



岡山市内各所で開催中の「岡山芸術交流2019 IF THE SNAKE もし蛇が」を見てきました。



2016年にスタートし、3年ごとに行われる国際現代美術展の「岡山芸術交流」は、今年で第2回を数えるに至りました。



芸術交流の開催地は、岡山駅より東側の後楽園や岡山城を望んだ、旭川沿い一帯に集中していました。よって岡山駅前のインフォメーションセンターで場所を確認した後、駅前から路面電車に乗って、まずは旧内山下小学校へ向かうことにしました。



旧内山下小学校の最寄りは東山線の城下駅でした。駅で下車し、地下広場を経由して、「烏城みち」と呼ばれる坂道を少しのぼると、ピンク色に染まる「岡山芸術交流2019」のフラッグが見えてきました。



2001年に廃校となったという内山下小学校は、芸術交流の中で最も出展作家が多い上、会場も広く、事実上の主会場と捉えて差し支えありません。学校の入口にて事前に手配しておいた前売り券を観覧券に引き換え、校舎や体育館などで展開する作品を見てまわりました。なお内山下とは「うちやました」ではなく、「うちさんげ」と読むそうです。


パメラ・ローゼンクランツ「皮膜のプール(オロモム)」 2019年

大きく目を引くのは、プールをピンク色に染めたスイスのアーティスト、パメラ・ローゼンクランツの「皮膜のプール(オロモム)」でした。時にブクブクと泡立つプールは僅かに波打っていて、やや粘り気を帯びているようにも見え、さもプール自体が息を吐く1つの生き物であるかのようでした。


パメラ・ローゼンクランツ「皮膜のプール(オロモム)」 2019年

プールの色は、ヨーロッパ人の肌を標準化し、合成したものに基づいていて、パメラ・ローゼンクランツは「オロモム」なる造語の名を与えました。またプールの周りのフェンスには、シーン・ラスペットの手掛けた、遺伝子操作により時間で色が変化するという朝顔が、淡い紫色の花を咲かせていて、ピンク色のプールと独特のコントラスを描いていました。


ジョン・ジェラード「アフリカツメガエル(宇宙実験室)」 2017年

さらにプールの外を見やると、正面に建つRSK山陽放送を背に、ジョン・ジェラードの「アフリカツメガエル(宇宙実験室)」が一面に映されていて、カエルが足をバタつかせながら、無重力状態で浮遊する姿を見やることが出来ました。何でも18世紀の科学者の行ったカエルに関する生体電気の実験と、1992年のスペースシャトル「エンデバー」での繁殖実験を結びつけ、映像として表現したそうです。


タレク・アトウィ「ワイルドなシンセ」 2019年

体育館の広いスペースを用いた、レバノンのタレク・アトウィによる大規模なサウンドインスタレーション、「ワイルドなシンセ」も見応え十分ではないでしょうか。


タレク・アトウィ「ワイルドなシンセ」 2019年

ここでは世界の楽器のパーツを用い、アトウィが制作したオリジナルの楽器が、さも個々に自立して運動するかのように様々な音を奏でていて、体育館全体で1つのオーケストラとでも言うべき巨大な音響空間を築き上げていました。


タレク・アトウィ「ワイルドなシンセ」 2019年

いずれも機械的でありながら、楽器には石や動物の骨なども取り込まれていて、どことなくプリミティブな印象も与えられるかもしれません。また細かな音を立ててはカシャカシャと動く姿は、不思議と小動物を思わせる面もあり、可愛らしくも映りました。


ファビアン・ジロー&ラファエル・シボーニ「非ずの形式(幼年期)、無人、シーズン3」 2019年

旧内山下小学校では校舎内や中庭にも作品が多く展示されていました。ともにフランス生まれのファビアン・ジロー&ラファエル・シボーニは、複数の教室を用い、彫刻やパフォーマンスを捉えた映像をインスタレーションに展開していました。


ファビアン・ジロー&ラファエル・シボーニ「反転資本(1971年-4936年)、無人、シーズン2、エピソード2」 2019年

実のところ一連の彫刻は、校舎を舞台に演じられたパフォーマンスに使われた道具で、映像は丸1日、すなわち24時間かけて撮影されました。廃校ならではのうら寂れた空間と相まっては、何やらおどろおどろしい雰囲気を醸し出していました。


マシュー・バーニー&ピエール・ユイグ「タイトル未定」 2019年

フランス人アーティストで、「岡山芸術交流2019」のアーティスティックディレクターであるピエール・ユイグと、アメリカで活動するマシュー・バーニーによる水槽を用いた共作、「タイトル未定」と題した新作も見逃せないかもしれません。


マシュー・バーニー&ピエール・ユイグ「タイトル未定」 2019年

一見すると青い水の入った水槽で何らかの実験が行われているようでしたが、実際には電解液が貯められていて、中にはバーニーのエッチングした銅版が沈められていました。そして会期中、電気メッキ加工がなされることで、表面へ付着物が集まることから抽象化し、最後には銅の1つの物体となっていくように作られていました。さらに終了後はバーニーの水槽より取り出され、同じ展示室にあるユイグの水槽に移されては、立体作品として設置されるとのことでした。一体、どのような姿形で現れるのでしょうか。


エティエンヌ・シャンボー「微積分/石」 2019年

この他、校庭ではピエール・ユイグの映像が映され、奥の土俵では蛇をモチーフとしたようなロボットが動くなど、小学校の内外で多様な作品が展示されていました。うち砂丘のように砂の堆積した校庭の中、ひっそりと佇むオブジェ、エティエンヌ・シャンボーの「微積分/石」は、ロダンの「考える人」から人の部分を取り除いた作品で、いわば不在を表現していました。奇妙な形ゆえに、まさかロダン作を引用しているとは思えないかもしれません。


ピエール・ユイグ「タイトル未定」 2019年

また撮影は叶いませんでしたが、突如、予告なくはじまるティノ・セーガルによるパフォーマンスも1つの見どころでした。そして一通り、旧内山下小学校の展示を見終えた後は、近くの林原美術館へと向かうことにしました。



林原美術館は旧内山下小学校から歩いて5分弱ほどで、武家屋敷から移されたという立派な長屋門が出迎えてくれました。同館は、岡山の実業家である林原一郎による蒐集品と、旧岡山藩主池田家に由来する大名調度品を中心としたコレクションで知られていて、絵画、書跡、刀剣、武具、能面他、装束などを合わせると、約9000件もの作品を有しています。



ただ「岡山芸術交流2019」会期中は、展示室も芸術交流の会場に使われるため、コレクションの公開は一切ありません。受付で観覧券を提示し、がらんとした展示室へ入ると、突如、1人の女性によるパフォーマンスがはじまりました。先の小学校と同様、ティノ・セーガルの手掛けた作品でした。


ピエール・ユイグ「2分、時を離れて」 2000年

ここではピエール・ユイグのアニメーション「2分、時を離れて」に連動していて、少女のキャラクターのアン・リーがまずCGで観客に語りかけた後、今度はティノ・セーガルによってアン・リー役の少女がリアルに観客に向かい、様々な質問を投げかけるというものでした。なおアン・リーとは1999年、ユイグらが日本の代理店より権利を購入したキャタクターで、様々な作家が映像作品にて二次創作を行いました。そして2001年には、何とキャラクターの権利がアン・リー本人に譲渡されたそうです。


イアン・チャン「BOBのいる世界(経典その1)」 2019年

林原美術館の展示は、このユイグとティノ・セーガルによる映像、及びパフォーマンスの他、アメリカのイアン・チェンによる独特のグラフィック表現を用いた「BOB」など、ほぼ映像作品で占められていました。



美術館の前には岡山城の堀が広がっていました。そして堀に沿って歩き、次の会場である岡山城へと向かいました。


ファビアン・ジロー&ラファエル・シボーニ「非ずの形式(幼年期)、無人、シーズン3」 2019年

「後編:岡山城、旧福岡醤油建物、岡山県天神山文化プラザ、岡山市立オリエント美術館」へと続きます。

「岡山芸術交流2019 IF THE SNAKE もし蛇が」 旧内山下小学校、旧福岡醤油建物、岡山県天神山文化プラザ、岡山市立オリエント美術館、岡山城、林原美術館ほか
会期:2019年9月27日(金)~11月24日(日)
休館:月曜日。但し10月14日(月・祝)、11月4日(月・振休)は開館し、翌日の火曜日が休館。
時間:9:00~17:00
 *入館は16時半まで。
料金:一般1800円、一般岡山県民1500円、専門学生・大学生1000円、65歳以上1300円。
 *8名以上の団体は1300円
 *単館観覧券(500円)あり。
住所:岡山市北区丸の内1-2-12(旧内山下小学校)、岡山市北区弓之町17-35(旧福岡醤油建物)、岡山市北区天神町8-54(岡山県天神山文化プラザ)、岡山市北区天神町9-31(岡山市立オリエント美術館)、岡山市北区丸の内2-3-1(岡山城)、岡山市北区丸の内2-7-15(林原美術館)
交通:JR線岡山駅より路面電車東山線4分「城下」下車、徒歩5分。(メイン会場の旧内山下小学校へのアクセス。)

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