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「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」 埼玉県立近代美術館

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埼玉県立近代美術館
「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」 埼玉県立近代美術館
9/17~11/14



埼玉県立近代美術館で開催中の「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」を見てきました。

埼玉発、県内にゆかりのある現代アーティストを紹介する「NEW VISION SAITAMA」展は、今回で5回目を数えるに至りました。

出品は全7名。いずれも1980年代生まれのアーティストです。

まずは小左誠一郎。さいたま市在住の画家です。大作の絵画が展示室を取り囲みます。いずれも抽象画です。しかしせめぎ合う色面をはじめ、掠れ、また時に太く現れる線は、何やら有機物を象っているようにも見えます。円や三角などの幾何学的な模様も介在していました。モチーフ自身が呼吸、ないし伸縮しているようにも思えなくはありません。不思議な揺らぎを伴う作品でもあります。

古びた窓枠が暗室に浮かび上がります。鈴木のぞみです。窓枠は不要になったものでしょう。戸外の風景が朧げに映りこんでいます。鈴木は通常、窓ガラスを使って窓越しの風景を撮影。その写真を窓ガラスに焼き付ける手法で作品を制作しているそうです。露光は7日間にも及びます。古色を帯びた風景は懐かしい。見る者の個々の記憶と結びついているのかもしれません。

厚塗りの絵画で知られる高橋大輔が見事な展示を披露してくれました。壁の際から天井まで埋め尽くすのは一連の絵画です。何点あるのでしょうか。件の厚塗りの迫力は言うまでもありません。絵具をさながら打ち付け、またヘラで削り取り、慣らし、さらには盛っては、塗りこめる。何層にも堆積しています。奥から地の絵具が隠れ見えしていました。展示室全体を絵画に見立てているのでしょうか。一段と手法が多様になった感さえありました。

床面にまだ製作中と思しきキャンバスが散乱していました。私物と見える荷物なども置かれています。まるでアトリエの再現展示です。実際のところ、ここで高橋が作品を作ることはないそうですが、さも作家の制作、ないし思考のプロセスを垣間見るようでした。

また一枚の日本画に目が留まりました。速水御舟の「夏の丹波路」です。埼玉県立近代美術館のコレクションです。点描風の筆触が細かにせめぎ合います。紫紅の影響下にあった頃の作品でしょうか。高橋が制作の原動力となった一枚だそうです。

一部展示室の撮影が出来ました。


二藤健人 展示風景

いきなり階段が現れました。和光市在住の二藤健人です。空間をがらりと作り変えての大掛かりなインスタレーションを見せています。


二藤健人「誰かの重さを踏みしめる」 2016年

階段の作品の名は「誰かの重さを踏みしめる」。横から見ると下に人が入れるスペースがあります。上部には穴が空いていました。ここで人を支えるのでしょうか。二藤の制作のテーマは「触れる」だそうです。確かに潜り込めば人の重みに触れることも出来ます。


二藤健人「pillow talk」 2016年

「触れる」といえばさらに驚きの作品が待ち構えていました。「pillow talk」です。家屋を思わせる巨大な箱が宙に浮いています。下には砂、あるいは土が敷かれています。微かに湿り気と匂いも感じられました。


二藤健人「pillow talk」 2016年

箱へは階段が連なり、扉が閉まっていました。中に入ることが可能です。室内は畳敷き、ご丁寧に布団が敷いてありました。ここではあるものに触れられるだけでなく、添い寝まですることが出来ます。あえてあるものの名は伏せます。室内はぐらぐらと揺れて足元もおぼつきません。あるものを抱いて寝る体験はどこか恐ろしくもありました。是非とも会場で体験してください。


中園孔二 展示風景

中園孔二の絵画世界も興味深いのではないでしょうか。紐のような線がうねるかと思いきや、植物が生え、人が登場し、巨大なピエロのような顔も現れます。モチーフはまるで神出鬼没。自由です。緻密であり奔放でもあります。タッチは即興的です。何らかの物語を紡いでいたのでしょうか。賑やかな音楽が聞こえてくるかのようでした。


小畑多丘 展示風景

二人のダンサーが対峙していました。小畑多丘です。ダンスとはブレイクダンス。素材は楠。何と一木造です。赤と黒。ダウンコートを着ているのでしょうか。一人は両手を腰にやり、もう一人は腕を組んでいます。


小畑多丘 展示風景

それぞれは細長い展示室内の両端に立っていました。まるで戦隊シリーズのヒーローのように格好が良い。これから戦闘が行われるのかやもしれません。


青木真莉子 展示風景

「NEW VISION SAITAMA5」は展示室外にも拡張しています。回廊を利用したのが青木真莉子です。毛皮を用いた不思議なオブジェが点在します。さらに映像も吹抜け内に投影。まるで古代の祭祀を視覚化したようなインスタレーションを展開しています。


二藤健人「反転の山」 2015年

屋外へも広がりました。地下1階、サンクンガーデンでは二藤健人が「反転の山」を設置。何せ巨大です。太古の化石、あるいは隕石の欠片を連想しました。

隣接する北浦和公園へも目を向けましょう。鈴木のぞみです。場所は公園の北側、彫刻広場にあるカプセルです。黒川紀章の設計した中銀カプセルタワービルのモデルに作品があります。


鈴木のぞみ「Capsule Obscura」 2016年

名は「Capsule Obscura」。カプセルの隣に入口が設営されています。私も中に入りました。真っ暗です。しばらくするととある像が浮かび上がってきます。

実はこの作品、ある程度の外光を必要とします。つまり雨や曇りの日では意図したイメージが現れません。実際、私も曇りの日に観覧しましたが、殆ど分かりませんでした。晴れの日に出かけられることをおすすめします。

不定期で行われる「NEW VISION SAITAMA5」。これまでにもいくつか追ってきましたが、今回は力作だけでなく、尖った展示もあって面白い。一番楽しめたような気がしました。



11月14日まで開催されています。

「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:9月17日 (土) ~11月14日 (日)
休館:月曜日。但し9月19日、10月10日、11月14日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大高生880(710)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。

「江戸切子 若手職人10人展〜硝子と切子」 伊藤忠青山アートスクエア

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伊藤忠青山アートスクエア
「江戸切子 若手職人10人展〜硝子と切子」 
10/5〜11/6



2013年より伊藤忠青山アートスクエアで開催されてきた「江戸切子 若手職人展」は、今年で4回目を迎えました。


吉川太郎「無題」

テーマは硝子と切子です。展示の造作に一工夫ありました。例えば吉川太郎の「無題」です。花器でも皿でもなく、リング状の大きなオブジェですが、台座の透明ガラス、ないし底部の鏡によって、その姿が背後の濃色の鏡にも写りこみます。ようは作品が上下と背後でも光り輝いて見えるわけです。


山田のゆり「LOVE」

花器の表面にLOVEという文字が舞っています。山田のゆりの「LOVE」です。文字は筆記体。緩やかな曲線を描いています。もちろん赤い色彩も美しい。どのような花を生ければより映えるでしょうか。


鍋谷聰「tide 波の音」

鍋谷聰は波や潮をモチーフにした切子を制作しました。「tide 波の音」です。確かに表面が波打っているように見えます。緑と青が鮮やかなコントラストを描いていました。


鍋谷淳一「モルフォ」

「モルフォ」はブラジル南部に生息する蝶だそうです。作家は鍋谷淳一。青と紫のガラスをカットしては蝶を象っています。さらに表面を手毬風に仕上げています。独特の風合いが感じられました。


堀口徹「tojikome 結合」

堀口徹は「焼成の偶発的な表現」(解説より)を切子に取り込みました。題して「tojikome 結合」です。円状に広がるのは泡。その一瞬の形を切り取っています。

ほか切子のアクセサリー類も美しい。装身具の展示は初めてだそうです。また若い作家が多いからでしょうか。大胆なデザインの作品も目につきました。



作品数は僅かです。界隈へのお出かけの際に立ち寄るのも良いかもしれません。

11月6日まで開催されています。

「江戸切子 若手職人10人展〜硝子と切子」 伊藤忠青山アートスクエア
会期:10月5日(水)~11月6日(日)
休館:月曜日。
時間:11:00~19:00
料金:無料。
住所:港区北青山2-3-1 シーアイプラザB1F
交通:東京メトロ銀座線外苑前駅4a出口より徒歩2分。東京メトロ銀座線・半蔵門線・都営大江戸線青山一丁目駅1出口より徒歩5分。

六本木に新たなアートスペース「complex665」がオープンしました

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10月21日(金)、六本木ヒルズ近くに新たなアートスペース、「complex665」がオープンしました。


「complex665」エントランス

「complex665」の場所は六本木交差点の西側、麻布警察署裏手からさらに一本南に入った小道の先です。オオタファインアーツなどのあるピラミデビルのちょうど横に当たります。ヒルズと交差点のほぼ中間地点です。

建物は3階建て。リノベーションではなく新築です。経営を森ビルが手がけています。

新たに誕生したギャラリーは3つです。2階に小山登美夫ギャラリーとシュウゴアーツ、3階にタカ・イシイギャラリーが入居しました。


「complex665」2階 小山登美夫ギャラリー

各ギャラリーの内装を全て異なった建築事務所が設計しています。小山登美夫ギャラリーはムトカ建築事務所が担当。シュウゴアーツは青木淳建築計画事務所、そしてタカ・イシイギャラリーはインテリアデザインのブロードビーンが手がけました。なおブロードビーンは1階にショールームも構えています。


「complex665」2階 シュウゴアーツ

延べ床面積で285坪。都心のギャラリーとしては相当の広さです。また天井高も3メートル超あり、ある程度の大型の作品も設置することが出来ます。


「complex665」3階 タカ・イシイギャラリー

complex665では現在、オープニング展を開催中です。小山登美夫ギャラリーは蜷川実花、シュウゴアーツは小林正人の各個展、またタカ・イシイギャラリーは「Inaugural Exhibition:MOVED」と題したグループ展を行っています。

[complex665 オープニング展示]

小山登美夫ギャラリー「蜷川実花 Light of」
10月21日(金)~12月3日(土)
http://tomiokoyamagallery.com

シュウゴアーツ「小林正人 Thrice Upon A Time」
10月21日(金)~12月4日(日)
http://shugoarts.com

タカ・イシイギャラリー「Inaugural Exhibition:MOVED」
10月21日(金)~11月19日(土)
http://www.takaishiigallery.com/jp/


「ピラミデビル」

それにしてもこの「complex665」の誕生で六本木にはかなり多くのギャラリーが集積しました。隣のピラミデにはオオタファインアーツやワコウ・ワークス・オブ・アート、そしてZEN FOTO GALLERYなどが入居。向かいにはギャラリー・モモもあります。また少し足を伸ばせばAXISにタカ・イシイギャラリーフォトグラフィー、乃木坂近くにはギャラリー・間も位置します。

さらに森美術館をはじめ、サントリー美術館、21_21 DESIGN SIGHT、そして国立新美術館などの美術館も点在しています。これほど六本木に美術関連施設が集まったことは初めてのことではないでしょうか。



なおギャラリーということで基本的に日・月曜日はお休みです。ただしシュウゴアーツのみ営業(12時から18時まで)します。ご注意ください。


「complex665」1階

ヒルズから至近です。森美術館への途中に立ち寄ってみては如何でしょうか。

「complex665」は10月21日にオープンしました。

「complex665」
オープン:2016年10月21日(金)
休廊:日・月曜日。(シュウゴアーツのみ日曜日も営業。12:00〜18:00)
時間:11:00〜19:00
住所:港区六本木6-5-24
交通:東京メトロ日比谷線・都営地下鉄大江戸線六本木駅3番出口より徒歩3分。
内容:森ビル株式会社は、文化都心・六本木ヒルズの近接地に、日本を代表する現代美術ギャラリーなど4店舗を集積した「complex665」を、六本木アートナイト2016の初日である10月21日(金)にオープンします。*リリースより(PDF)

「トラフ展 インサイド・アウト」 TOTOギャラリー・間

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TOTOギャラリー・間
「トラフ展 インサイド・アウト」 
10/15~12/11



TOTOギャラリー・間で開催中の「トラフ展 インサイド・アウト」を見てきました。

2004年に鈴野浩一と禿真哉によって設立されたトラフ建築設計事務所。その設計のアイデアを思いもよらない形で見ることが出来ました。



会場に入って驚きました。大きなテーブルの上には無数の「オブジェ」が並びます。カラフルで形も様々です。まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのようでした。



よく見ると建築模型らしきものもありますが、スヌーピーの人形やサッカーボール、はたまたワインボトルに鏡などの日用品も多数。さらに植物や用途の明らかではない素材も少なくありません。その合間を縫うように一本のNゲージの線路が敷かれていました。初めは何が起きているのか分かりませんでした。

実はこれらは、初期から最新のプロジェクトを完成させる過程の中で、「手がかりとなったもの、インスピレーションを受けた」(ギャラリーサイトより)ものだったのです。まさに思考のプロセスそのものが形をとって展開しています。



サッカーボールはどうでしょうか。これはシアン、マゼンタ、イエローを混ぜるとブラックになる原理でデザインしたボールです。と思えば、その奥のパネルは神宮前の「INHABITANT STORE TOKYO」で使った天井パネルの試作というから面白い。素材もアイデア自体もないまぜになっています。



天井から吊り下がるドライフラワーはシルエットを窓に映すためのインテリアです。また指にはめるおもちゃは北海道の土産屋で購入した楽器でした。それを生き物として見立てています。自由な発想は留まるところを知りません。



本棚の一部のような箱は「コロロデスク」。顔を突っ込むと部屋のように見えることから名付けられました。ちなみにぶら下がるランプのシェードは何とニンジンです。薄切りにして貼り合わせています。淡い光が滲み出していました。



照明を当てると影を落とすというガラスのドームは美しい。ちなみの写真手前のサークル状のコートは、新たなコミュニケーションを生むべく考え出されたサッカー場だそうです。実現したら一体どのような試合になるのでしょうか。想像もつきません。



各オブジェの側には一切の解説はありません。あくまでも番号のみ。それがガイドマップと対応します。率直なところオブジェを見るだけでは見当もつきません。ガイドの解説を読んでは初めて理解し得る場合が殆どです。ガイドにも宝探しとありましたが、まるでクイズのようでした。



中庭ではお馴染みの岩を魚に見立てていました。とすれば青い養生カーテンは水の青、上の防虫ネットは水面を表しているのでしょうか。

さらに1つ上のフロアではテーブルの上の線路の秘密が映像で明かされます。こちらは是非、会場でご覧下さい。

「トラフ建築設計事務所 インサイド・アウト/TOTO出版」

出品は全部で100点です。展示室だけでなく、2階のBookshopや1階や地階のセラトレーディングショールームにまで及んでいます。その一つ一つに建築へと至る意外なアイデアが詰め込まれていました。(ショールーム内の作品は営業時間外は観覧不可。)



12月11日まで開催されています。

「トラフ展 インサイド・アウト」 TOTOギャラリー・間
会期:10月15日(土)~12月11日(日)
休館:月曜、祝日。但し11月3日(木・祝)は開館。
時間:11:00~18:00
料金:無料。
住所:港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅3番出口徒歩1分。都営大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅7番出口徒歩6分。

「さいたまトリエンナーレ2016」 さいたま市内各会場(岩槻駅~大宮駅周辺)

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さいたま市内各会場
「さいたまトリエンナーレ2016」
9/24~12/11



「さいたまトリエンナーレ2016」に行ってきました。

今年から新たに始まった「さいたまトリエンナーレ」。会場はさいたま市内の南北に点在しています。

一会場で最も展示数が多いのは岩槻の旧民俗文化センターです。よってまずは岩槻を目指すことにしました。

東武アーバンパークラインの岩槻駅に着いたのは9時50分頃。改札口のすぐ目の前にトリエンナーレの案内所がありました。パンフレットほか、アートマップも設置。ガイドの方も丁寧に接して下さいます。一通りの情報を収集することが出来ました。



目立つのはウィスット・ポンニミットの描く「さいたマムアンちゃん」です。もちろん公式のキャラクター。またポンニミットはトリエンナーレ全体の展示サインも担当しています。ちなみに各会場の目印はトリエンナーレののぼり旗です。「さいたマムアンちゃん」とともに出迎えてくれます。


「岩槻駅東口ロータリー」無料シャトルバス乗り場

旧民俗文化センターへは岩槻駅より直線距離で約1.3キロほどあります。無料のシャトルバスが駅東口のロータリーから発着していました。10時ちょうどのバスに乗車。駅から離れて郊外へと進みます。おおよそ15分程度で会場に辿り着きました。


マテイ・アンドラシュ・ヴォグリンチッチ「枕」

出品アーティストは全14組。まず目に飛び込んでくるのが、マテイ・アンドラシュ・ヴォグリンチッチの「枕」でした。無数の白い枕が中庭を埋め尽くしています。ちょうど晴天だったからか空の青とのコントラストが際立っていました。ヴォグリンチッチはトリエンナーレのテーマでもある「未来の発見」を、夢見るための枕に見出したそうです。日常のありふれた素材を効果的に利用しています。


大洲大作「Commuter/通う人」

旧文化センターの会場は1階のみ。回廊のようにぐるりと展示室が続いています。場所のさいたまを題材にした作品が目立ちました。大洲大作は市内の通勤電車の車窓をテーマにした映像を制作。一部の風景は市民から募ったものです。ひたすらに移ろう景色は時に光や影に還元されていきます。


川埜龍三「犀の角がもう少し長ければ歴史は変わっていただろう」

さいたま県内から多数出土するという埴輪に着目したのが河埜龍三です。「さいたまBハニワ大発掘展」と題した会場には一見、本物らしき埴輪が並んでいます。また埴輪の解説も充実。細かな図解を示すパネルや発掘時の様子を記録したような写真も出ていました。それによれば一般の人々による「発掘キャラバン隊」で埴輪の発掘調査を行ったそうです。


川埜龍三「犀の角がもう少し長ければ歴史は変わっていただろう」

思わず納得してしまうような凝った作りですが、実は全てが虚構。河埜が作り上げたフィクションの世界なのです。


川埜龍三「犀の角がもう少し長ければ歴史は変わっていただろう」

さいたまBとは現実をさいたまAに見立てて名付けた世界。いわばパラレルワールドです。架空のさいたまBからさも本当に発掘されたような埴輪の展示を行っています。確かによく見ればまずありえないような形の埴輪ばかり。むしろ可愛らしい。とはいえ、ここまで作り込めば説得力があるというものです。にやりとさせられました。


ソ・ミンジョン「水がありました」

見せ方として面白いのがソ・ミンジョンの「水がありました」でした。作品自体は映像。約2分半ほどです。撮影場所は大宮の氷川神社。かつてあったさいたまの海をテーマにした作品を映しています。


ソ・ミンジョン「水がありました」

スクリーンの形が変わっています。というのもご覧の通り、円筒形なのです。しかも素材は糸。束になっています。中が空洞になっていて輪を描いています。海の青、そして風に揺らぐ杜の緑が次々と映し出されていきます。端的に美しい。こうした映像の方式は初めて見ました。輪は循環しています。大地を巡る水を意識しているそうです。

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西尾美也「感覚の洗濯」

さいたまトリエンナーレの舞台は「生活都市」(公式サイトより)です。その生活を見据えたインスタレーションでしょうか。西尾美也が日常の日常、すなわち洗濯物をテーマとした作品を出展しています。


西尾美也「感覚の洗濯」

万国旗のようにはためく洗濯物。祝典的な光景を表現しています。さらに洗濯物を花見や写生の対象にしようと試みます。確かに洗濯物は色とりどりです。絵になる面もあるかもしれません。また映像はたらいなどの洗濯用品を積んだ車に乗って見るという仕掛けでした。クラクションボタンを押すと映像が切り替わります。


小沢剛「帰って来たJ.L.」

小沢剛は歴史上の人物に、「事実とフィクションを重ねあわせた物語」(キャプションより)を提示する「帰って来た」シリーズの新作を展示。ホールでしょうか。映画館さながらに椅子の並ぶ暗室で映像が投影されています。舞台はフィリピンです。起点は4人組のバンドJ.Lです。過去や現在を行き来しながらさいたまとつなぎ合わせています。


藤城光「ボイジャー 2011」

福島の原子力事故に向き合った藤城光の「ボイジャー2011」や、モノクロームの映像が幻想的なアピチャッポン・ウィーラセタクンの「Invisibility」も興味深いのではないでしょうか。それぞれもつながりはさいたまです。藤城は事故でさいたまに避難してきた人々などのインタビューを実行。アピチャッポンはさいたま市内で録音した音をテーマとした映像を制作しています。

最後は目です。アーティストの荒神明香らを中心に活動するグループ。資生堂ギャラリーの空間を大きく作り変えた「たよりない現実、この世界の在りか」展でも話題となりました。

このトリエンナーレでも驚くべき光景を現出させています。しかしそれ以上は書けません。なにせ作家の意向により撮影不可、ないしネタバレも不可だからです。ただ一つだけ言えるのは間違いなく晴れている方が作品映えしますることです。なるべく晴天時に出かけられることをおすすめします。


「旧民俗文化センター」会場入口

旧民俗文化センターに滞在していたのは結局1時間ほどでした。再び無料バスに乗って岩槻駅へと戻ります。同エリアのK邸はオープン時間外だったので、鑑賞を断念。そのまま東武アーバンパークラインで次の目的地である大宮へと向かいました。

大宮の会場は全部で6つ。とはいえ、会期が限定されていたり、イベントのみの展示もあります。この日、観覧出来たのは大宮高島屋と大宮区役所、それに市民会館おおみやの3つでした。全て駅の東口に位置します。


長島確+やじるしのチーム「←」

大宮高島屋の展示は6階から7階にかけてのローズギャラリー。階段の踊り場です。作品は「←」。上の写真でお分かりいただけるでしょうか。例えば民家の壁に←、文字通り矢印を描いています。これは長島確と「やじるしのチーム」と名付けられたメンバーが、街中に「←」を掲げるプロジェクトで出来たものです。一般の市民の参加者が、自由な素材で思い思いの場所に「←」を作っています。


長島確+やじるしのチーム「←」

ただまだ参加者が少ないのか、「←」パネルの枚数が僅かです。余白も目立ちました。もう少しボリュームがあると面白いのかもしれません。


秋山さやか「雫」

市民会館おおみやでは秋山さやかが「雫」と題したインスタレーションを展示しています。素材は刺繍や手紙です。秋山は6月から110日間、大宮に滞在し、日々の出来事を紡いでは針縫いに留め、自らに宛てて投函しました。紙は様々です。中には広告の切り抜きなどもあります。


秋山さやか「雫」

会場は元々、市民会館内で営業していた喫茶店でした。今はクローズしていますが、場との相性も良い。一室での展開ですが、思いの外に見応えがありました。


「大宮区役所」入口

大宮の最終目的地は大宮区役所です。作家は2組。チェルフィッチュの岡田利規とダンカン・スピークマン&サラ・アンダーソンです。

岡田の作品は区役所地下の古びた厨房にありました。2つの映像です。戯曲が進行します。シルエット越しの人物はさも実在の演者のようでした。演劇と映像の融合でしょうか。実際、岡田自身も「映像演劇」と名付けているようです。

ダンカン・スピークマン&サラ・アンダーソンは体験型のインスタレーションです。スタートは13時から。午前中は体験出来ません。


ダンカン・スピークマン&サラ・アンダーソン「1000のデュオのための曲」受付

受付は区役所1階のカウンターです。ヘッドホンを持ち出すため、身分証明書の確認などの簡単な手続きが必要となります。持ち出す先は街中です。ようはヘッドホンをかぶり、音声プレーヤーから流れる音楽とガイドを聞きながら街中を歩くという作品なのです。


ダンカン・スピークマン&サラ・アンダーソン「1000のデュオのための曲」音声ガイド

体験は2人1組。ヘッドホンをすると街の音がかなり遮断されます。全てはガイドの指示が頼りです。面白いのは2人にそれぞれ別々の指示が与えられることでした。互いを時に見やり、またジェスチャーを与えて、意思疎通を図っていきます。離れて歩く場面もあります。うまくいかない時も少なくありません。



とはいえ、リアルとフィクションの狭間を行き交うような体験はなかなか面白い。ありふれた光景に見えない心象がクロスします。結果的に駅周辺を彷徨うこと約40分超。最後は再び大宮区役所へと戻りました。



なお1人の場合はほかの希望者とペアを組むか、場合によってはスタッフの方が対応するそうです。道程はほぼ全て屋外です。傘を持ってジェスチャーしながら歩くには少々難があります。やはり晴れの日の参加をおすすめします。

「さいたまトリエンナーレ2016」 さいたま市内各会場(与野本町駅、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺)

与野本町駅、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺会場へと続きます。

「さいたまトリエンナーレ2016」@SaitamaTriennal) さいたま市内各会場(与野本町駅~大宮駅周辺、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺、岩槻駅周辺)
会期:9月24日(土)~12月11日(日)
休館:水曜日。
 *但し11月23日(水・祝)は開場、翌11月24日(木)は閉場。
時間:10:00~18:00
 *入場は閉場の30分前まで。
料金:無料。(但し、一部の公演、上映を除く。)
住所:さいたま市岩槻区加倉5-12-1(旧民俗文化センター)、さいたま市大宮区大門町3-1(大宮区役所)
交通:東武アーバンパークライン岩槻駅東口より無料シャトルバスで約15分(旧民俗文化センター)、JR線・東武アーバンパークライン・埼玉新都市交通大宮駅東口より徒歩5分(大宮区役所)。

「さいたまトリエンナーレ2016」 さいたま市内各会場(与野本町駅、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺)

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さいたま市内各会場
「さいたまトリエンナーレ2016」
9/24~12/11



岩槻駅、大宮駅周辺会場に続きます。「さいたまトリエンナーレ2016」に行ってきました。

「さいたまトリエンナーレ2016」 さいたま市内各会場(岩槻駅~大宮駅周辺)

大宮の展示を一通り見終えた後は、埼京線に乗車し、次の目的地へと向かいました。行き先は与野本町です。


「彩の国さいたま芸術劇場」

与野本町の会場は1つ。彩の国さいたま芸術劇場です。駅西口より南下。約7~8分ほど歩いた住宅地の中にあります。


チェ・ジョンファ「息をする花」

作家は韓国のチェ・ジョンファ。2点のインスタレーションを出品しています。花を象ったのが「息をする花」でした。素材は布。息をするとあるように、風の力を借りては伸縮します。まるで花が生きているかのようです。


チェ・ジョンファ「ハッピーハッピー」

もう1つが「ハッピーハッピー」でした。天井からぶら下がるのは無数の日用品です。洗濯かごやゴミ箱、それにカラーコーンなどが連なっています。全100本。この夏に市内のワークショップで制作されたそうです。ちなみに彩の国会場はこの2つのみでした。いささか物足りない印象は否めないかもしれません。



ラストは中浦和から武蔵浦和の一帯です。両駅の間に複数の会場が分散しています。与野本町側に近い中浦和で下車。歩きながら武蔵浦和を目指すことにしました。


日比野克彦「種は船プロジェクトinさいたま」

まずは別所沼公園の日比野克彦です。ヒヤシンスハウスの中では日比野が昨年に手がけた「種は船プロジェクト」の映像が上映されています。


日比野克彦「種は船プロジェクトinさいたま」

そのプロジェクトの成果が沼に浮かぶ「種は船」です。2隻とも朝顔の種の形をしています。名は「Saitori 丸」と「別所沼丸」でした。種が土地の記憶を紡いで芽を出すのと同様、船もまた行く先々の記憶を呼び込んでは新しい土地へ伝える役割を担っています。そのように日比野は考えているそうです。

それにしても別所沼、大変に居心地の良い公園でした。トリエンナーレとは関係なく、沼に釣り糸を垂らしたり、園内を散歩して過ごす方などを多く見かけます。地元の方の憩いの場なのでしょう。のんびりとした時間が流れていました。

別所沼公園から武蔵浦和へのアプローチそのものもトリエンナーレの会場です。


ダニエル・グェティン「STATION TO STATION」

ダニエル・グェティンは公園からの歩道橋、さらにその先の「花と緑の散歩道」を、テーマカラーであるオレンジと青色で彩りました。


ダニエル・グェティン「STATION TO STATION」

「STATION TO STATION」です。桜並木の小道には色鮮やかなゲートを設置。腰掛けることも可能なベンチもあります。


ウィスット・ポンニミット「時間の道」

またポンニミットの「マムアンちゃん」のキャラクターのサインも随所に点在しています。通常の看板にもう一枚、マムアンちゃんの一言が加わります。さりげない言葉に空想を膨らませるのも楽しいかもしれません。


アイガルス・ビクシェ「さいたまビジネスマン」

おそらくSNS関連で最も写真があがっている作品ではないでしょうか。アイガルス・ビクシェの「さいたまビジネスマン」です。ちょうど埼京線の線路の際、高架下の公園で寝そべる巨大な人物像。スーツを着ては頭に手を当てています。


アイガルス・ビクシェ「さいたまビジネスマン」

全長は9.5メートルです。さすがに目立ちます。スーツの表面に無数の蜘蛛や蠅のオブジェがたかっていました。ネクタイは黒です。喪服のようにも見えなくはありません。涅槃像から着想を得た作品だそうです。


「旧部長公舎」会場入口

武蔵浦和界隈で最も展示が多いのは旧部長公舎です。かつてはさいたま市の官舎として整備された施設。4つの住居からなっています。


高田安規子・政子「土地の記憶を辿って」

ユニットで活動する高田安規子・政子は、さいたまの地歴に因んだインスタレーションを展開しました。「土地の記憶を辿って」です。太古の昔、さいたまには海が広がっていました。その証でもある貝や貝塚、さらには海岸線の地図をモチーフとして取り込んでいます。


高田安規子・政子「土地の記憶を辿って」

また見沼田んぼの絶滅危惧種や、周囲の林に生息する樹木の種にも注目。いずれも障子や壁紙、さらにはガラス窓などの建具に描きました。


鈴木桃子「アンタイトルド・ドローイング・プロジェクト」

住居そのものをドローイングで埋め尽くそうとしているのでしょうか。鈴木桃子の「アンタイトルド・ドローイング・プロジェクト」です。内装は床から壁に至るまで全てが真っ白。そこに作家本人が鉛筆によってドローイングを描いています。


鈴木桃子「アンタイトルド・ドローイング・プロジェクト」

会期中も作家が手を加え続けているそうです。つまり形は刻々と変化します。しかも最後は「何もない空間」に戻すという試みです。確かに無数の消しゴムが用意されていました。これを使って11月頃から観客とともに消す作業に入るそうです。まさに生々流転、最後は全てが無に帰します。


松田正隆+遠藤幹大+三上亮「家と出来事 1971-2006年の会話」

演劇、映画、美術の協働によるインスタレーションです。劇作家の松田正隆、映画監督の遠藤幹大、アーティストの三上亮は、部長公舎の場の記憶を紡ぐ戯曲を制作しました。


松田正隆+遠藤幹大+三上亮「家と出来事 1971-2006年の会話」

戯曲といえども演者は声。つまり公舎で行われた生活なりを音声を用いて上演しているわけです。使い古しのワープロにはスイッチが入り、キッチンにも明かりが灯っています。調度品は古い。中にはレコードもありました。不在の空間に人の気配が感じられます。まるでつい今まで生活していたかのようです。


松田正隆+遠藤幹大+三上亮「家と出来事 1971-2006年の会話」(ベランダより新幹線の高架方向を望む)

場所を変えると声は変化。日常のささやかな物語が進展します。ベランダでもイヤホンを使った作品がありました。旧部長公舎は高台です。ふと新幹線について語る声が聞こえてきました。すると彼方の高架上を実際に新幹線が走ります。もちろん偶然に過ぎませんが、なんとも不思議な感覚を覚えました。


「旧部長公舎」会場入口

部長公舎では写真家の野口里佳も出展。映像と写真を交えての展開です。野口自身、さいたま市の生まれだそうです。同地に因んだ初期作も展示されていました。(野口里佳の展示は撮影不可。)


ダニエル・グェティン「STATION TO STATION」

この後は再び「花と緑の散歩道」へと戻り、ダニエル・グェティンのゲートを潜っては武蔵浦和駅へと歩き、トリエンナーレの観覧を一通り終えました。

結局、朝10時に岩槻に入り、大宮から与野本町、武蔵浦和へと廻って、最後に見終えたのは16時頃でした。岩槻の旧民俗文化センターが事実上のメイン会場です。次いで武蔵浦和の部長公舎が充実しています。反面、ほかの会場は作品数が多くはありません。今回は浦和、西浦和の会場には行きませんでした。

「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」@埼玉県立近代美術館 9月17日 (土) ~11月14日 (日)

観覧のスピードには個人差がありますが、展示のみであれば1日で十分に廻れると思います。またややタイトなスケジュールになるやもしれませんが、埼玉県立近代美術館の「NEW VISION SAITAMA5」がなかなか見応えがあります。トリエンナーレとは直接関係ありませんが、現代美術の展覧会です。北浦和を挟んで廻るのも面白いかもしれません。


ウィスット・ポンニミット「さいたマムアン」

どの会場も大変に空いていました。次回開催に向けては議論もありそうですが、待ち時間などは一切ありません。スムーズに観覧出来ました。

「さいたまトリエンナーレ2016公式ガイドブック/メディアパルムック」

一部の公演を除き、無料です。12月11日まで開催されています。

「さいたまトリエンナーレ2016」@SaitamaTriennal) さいたま市内各会場(与野本町駅~大宮駅周辺、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺、岩槻駅周辺)
会期:9月24日(土)~12月11日(日)
休館:水曜日。
 *但し11月23日(水・祝)は開場、翌11月24日(木)は閉場。
時間:10:00~18:00
 *入場は閉場の30分前まで。
料金:無料。(但し、一部の公演、上映を除く。)
住所:さいたま市中央区上峰3-15-1(彩の国さいたま芸術劇場)、さいたま市南区別所4-12-10(別所沼公園)、さいたま市南区鹿手袋3-14(西南さくら公園)、さいたま市南区別所2-39-1(旧部長公舎)
交通:JR線与野本町駅西口より徒歩7分(彩の国さいたま芸術劇場)、JR線中浦和駅より徒歩5分(別所沼公園)、JR線武蔵浦和駅より徒歩8分(西南さくら公園)、JR線武蔵浦和駅より徒歩11分(旧部長公舎)。

11月の展覧会・ギャラリー

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11月に見たい展覧会を挙げてみました。

展覧会

・「特別展 禅ー心をかたちに」 東京国立博物館(~11/27)
・「藤田嗣治展 東と西を結ぶ絵画」 府中市美術館(~12/11)
・「漆芸名品展~うるしで伝える美の世界」 静嘉堂文庫美術館(~12/11)
・「BODY/PLAY/POLITICS」 横浜美術館(~12/14)
・「円山応挙 『写生』を超えて」 根津美術館(11/3~12/18)
・「文人として生きるー浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術」 千葉市美術館(11/10~12/18)
・「時代を映す仮名のかたちー国宝手鑑『見努世友』と古筆の名品」 出光美術館(11/19~12/18)
・「拝啓 ルノワール先生ー梅原龍三郎に息づく師の教え」 三菱一号館美術館(~2017/1/9)
・「世界に挑んだ7年 小田野直武と秋田蘭画」 サントリー美術館(11/16~2017/1/9)
・「レオナール・フジタとモデルたち」 DIC川村記念美術館(~2017/1/15)
・「デトロイト美術館展~大西洋を渡ったヨーロッパの名画たち」 上野の森美術館(~2017/1/21)
・「デザインの解剖展:身近なものから世界を見る方法」 21_21 DESIGN SIGHT(~2017/1/22)
・「国立劇場開場50周年記念 日本の伝統芸能展」 三井記念美術館(11/26~2017/1/28)
・「東京・TOKYO 日本の新進作家 vol.13」 東京都写真美術館(11/22~2017/1/29)
・「日本におけるキュビスムーピカソ・インパクト」 埼玉県立近代美術館(11/23~2017/1/29)
・「戦国時代展ーA Century of Dreams」 江戸東京博物館(11/23~2017/1/29)
・「粟津則雄コレクション展 思考する眼の向こうに」 練馬区立美術館(11/19~2017/2/12)
・「世界遺産 ラスコー展~クロマニョン人が残した洞窟壁画」 国立科学博物館(11/1~2017/2/19)
・「マリー・アントワネット展 美術品が語るフランス王妃の真実」 森アーツセンターギャラリー(~2017/2/26)

ギャラリー

・「樫木知子展」 オオタファインアーツ(~11/19)
・「SENSE OF MOTION」 スパイラルガーデン(11/9~11/20)
・「荒木愛展 I SPY II」 画廊くにまつ青山(11/17~11/27)
・「ホセ・パルラ Small Golden Suns」 ユカ・ツルノ・ギャラリー(~12/3)
・「トランス/リアルー非実体的美術の可能性 vol.5 伊東篤宏・角田俊也」 ギャラリーαM(~12/3)
・「西尾康之 「REM (Rapid Eye Movement)」 山本現代(~12/3)
・「何翔宇 Save the Date」 SCAI THE BATHHOUSE(~12/3)
・「山口晃 室町バイブレーション」 ミヅマアートギャラリー(11/2~12/17)
・「伊藤隆介 天王洲洋画劇場」 児玉画廊|天王洲(~12/24)
・「榎本了壱コーカイ記」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(11/11~12/24)
・「ホンマタカシ」 TARO NASU(11/18~12/24)
・「鈴木理策 Mirror Portrait」 タカ・イシイギャラリー東京(11/26~12/24)
・「Les Parfums Japonaisー香りの意匠、100年の歩み」 資生堂ギャラリー(11/2~12/25)

まず11月の展覧会で最も楽しみなのが根津美術館です。「円山応挙 『写生』を超えて」が始まります。



「円山応挙 『写生』を超えて」@根津美術館(11/3~12/18)

同館所蔵の「藤花図屏風」をはじめ、「雪松図屏風」(三井記念美術館)や「七難七福図巻」(相国寺)などの代表作を交えての応挙展です。会期は2期制。11月末に展示替えもあります。出来れば前後期を追いかけたいところです。

歴史資料により戦国時代100年を振り返ります。江戸東京博物館で「戦国時代展ーA Century of Dreams」が開催されます。



「戦国時代展ーA Century of Dreams」@江戸東京博物館(11/23~2017/1/29)

太刀や甲冑はもとより、合戦などを描いた屏風などの美術品も出品。狩野永徳の「洛中洛外図屏風」や土佐光信の「北野天神縁起」などの有名作も少なくありません。これまでにも関ヶ原展など、戦国の一場面に着目した展覧会はありましたが、通史を網羅的に見る企画は意外と少なかったのではないでしょうか。

「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」が、11月8日(火)~11月20日(日)のみ両隻揃って展示されます。



「漆芸名品展~うるしで伝える美の世界」@静嘉堂文庫美術館(~12/11)

「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」は漆芸の技法によって作られた屏風絵です。作者不明ながらも重要文化財に指定。このほど修復を経て、約10年ぶりに公開されました。既に「羯鼓催花図」のみ展示中ですが、上記期間に限り、「紅葉賀図」もあわせて出展されます。つまり屏風の全体を一度に見られるのはおおよそ10日間のみです。その会期を狙って出かけるつもりです。

東京国立博物館の「禅」が11月8日から後期展示に入ります。また同じく上野では国立科学博物館で「ラスコー展」も始まりました。こちらは知名度も抜群。ひょっとすると後半は混むやもしれません。早めに見ておきたいところです。

それでは今月もどうぞ宜しくお願い致します。

「月ー夜を彩る清けき光」 渋谷区立松濤美術館

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渋谷区立松濤美術館
「月ー夜を彩る清けき光」 
10/8~11/20



渋谷区立松濤美術館で開催中の「月ー夜を彩る清けき光」を見てきました。

振り返れば日本の絵画や工芸には数多くの「月」が登場します。

そうした月をモチーフとした美術品を集めた展覧会です。例えば冒頭、久隅守景の「瀟湘八景図」にも空に月が照っています。中央には奇岩がそびえ、人の姿も見ることが出来ます。筆は緻密です。細部の表現も抜かりがありません。


歌川広重「名所江戸百景 京橋竹がし」安政3〜6(1856〜59)年 和泉市久保惣記念美術館

広重の「名所江戸百景」からは2点、やはり月の描いた作品が出ていました。うち「京橋竹がし」はどうでしょうか。かつての京橋川に架かっていた橋の上には満月が明るい光を放っています。川面には竹細工を運搬する舟も浮かんでいます。橋上に多くの人が行き交います。しばし立ち止まって月見をする者もいたに違いありません。

かぐや姫でお馴染みの竹取物語も月を題材としています。物語の場面を描いたのが「竹取物語図屏風」です。元は絵巻、それを後に屏風に仕立てました。上下の金砂子も美しい。詞書の筆も優美です。左下に表されたのがかぐや姫が月へと帰っていくシーンでしょうか。雲の上に乗った車が天へと昇っています。


「武蔵野図屏風(右隻)」 江戸時代(18世紀) 東京富士美術館

秋の景色が広がります。「武蔵野図屏風」です。六曲一双の大パノラマ。左が富士山です。そして右隻の草の間には月が沈んでいます。直列に並ぶ秋草はリズミカルです。萩などの花を隠しています。構図は図像的ながらも洗練されています。空の金砂子が効果的でした。きらきらと瞬く様子はまるで星屑のようでもあります。

直接描いていないのにも関わらず、月を意識した作品がありました。司馬江漢の「月下柴門美人図」です。柴門とあるように松の下の門で一人佇む女性の姿を描いています。空を見ても月は出ていません。ではどのように月の存在を示しているのでしょうか。答えは女性の青い着衣でした。ちょうど前の部分、特に足のあたりがうっすらと白く灯っています。月明かりが当たっているのでしょう。江漢らしく西洋の銅版画のような陰影を伴っているのも興味深いところでした。

月と動物や植物を取り合わせた作品も少なくありません。動物ではもちろん兎が主役です。中林竹洞の「清光淡月兎図」や源長常の「月兎漕舟図」も可愛らしいのではないでしょうか。植物では竹、中でも呉春・玉潾の「月竹図」が見事でした。墨画の軸画です。竹の描写が殊更に美しい。墨の擦れや跳ねを生かしては笹を描いています。月は十日夜でしょうか。上弦の月よりもやや膨らんでいます。


「花宴蒔絵硯箱(源氏物語蒔絵箔箱附属品)」 江戸時代(17世紀) 徳川美術館

工芸品にも月は多数登場します。「染付吹墨月兎文皿」は兎と月を染付で表現した小皿です。上に三日月が浮かび、下で兎がどこか楽しげに跳ねています。ほか武具では「黒漆塗頭形兜 伝柴田家武将所用」が目立っていました。かの柴田勝家が賎ヶ岳の戦いで着用したとも伝わる兜です。前立てに月が漆で描かれています。なお兜の一部が凹んでいましたが、これは銃弾を受けた痕なのだそうです。合戦の記録が生々しく残されています。

興味深い鐔を見つけました。「田毎の月図鐔 銘 西垣永久七十歳作之鍔」です。鐔の模様は田んぼです。細かな区画に分かれています。それぞれの田には苗と細い三日月がほぼ一つずつ描かれていました。何故に月が田にあるのでしょうか。写り込みです。空の月が水田に写っているという趣向でした。面白いアイデアではないでしょうか。

工芸では尾形乾山の「定家詠十二ヵ月和歌花鳥図角皿」が全点揃い。これは見入ります。また頴川美術館や和泉市久保惣記念美術館、それに京都国立博物館などの関西のコレクションが多いのも印象に残りました。


岳翁蔵丘「山水図」 室町時代(15〜16世紀) 佐野美術館

出品総数は81件です。ただし武具、工芸以外の大半は前後期で入れ替わります。各会期で50件超の展示です。点数は多くはありません。

「月ー夜を彩る清けき光」出品リスト(PDF)
前期:10月8日(土)~10月30日(日)
後期:11月1日(火)~11月20日(日) 

11月20日まで開催されています。

「月ー夜を彩る清けき光」 渋谷区立松濤美術館
会期:10月8日(土)~11月20日(日)
休館:10月11日(火)、17日(月)、24日(月)、31日(月)、11月4日(金)、7日(月)、14日(月)。
時間:10:00~18:00 
 *毎週金曜日は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学生800(640)円、高校生・65歳以上500(400)円、小中学生100(80)円。
 *( )内は10名以上の団体、及び渋谷区民の入館料。
 *渋谷区民は毎週金曜日が無料。(要各種証明書)
 *土・日曜日、休日は小中学生が無料。
場所:渋谷区松濤2-14-14
交通:京王井の頭線神泉駅から徒歩5分。JR線・東急東横線・東京メトロ銀座線、半蔵門線渋谷駅より徒歩15~20分。

「ピエール・アレシンスキー展」 Bunkamura ザ・ミュージアム

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Bunkamura ザ・ミュージアム
「ピエール・アレシンスキー展」 
10/19~12/8



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「ピエール・アレシンスキー展」を見てきました。

90歳を過ぎても活動を続けるベルギーの現代美術家、ピエール・アレシンスキー(1927~)は、制作に際して日本の書道に大きなインスピレーションを受けたそうです。


ピエール・アレシンスキー「夜」 1952年 大原美術館

例えば「夜」です。画業初期、1952年の時の油彩画です。黒を背景に何やら線、あるいは文字らしき形がひしめきあっています。書と言われれば、確かにそうも受け取れるかもしれません。筆触は即興的なのか素早い。一方で視点を変えれば何やら古代の篆刻のようにも見えなくはありません。

アレシンスキーはこの年、パリの版画学校で日本の前衛書道誌を手に取って書と出会います。よほど強い印象を与えたのでしょう。雑誌を主宰していた書家の森田子龍と文通を始めました。

3年後の1955年には来日も果たします。多くの書家と交流を持った上、「日本の書」というドキュメンタリー映像も撮影しました。書の世界をより深く自らの世界に引きつけていきます。

少し時計を戻しましょう。アレシンスキーは元々、美術学校で本の装丁を学んでいました。1947年、20歳の時に画家のグループに参加。個展を開きます。翌年には「プリミティブで力強く、迫力のある作品を世に送り出した」(チラシより)という芸術家集団の「コブラ」に参画し、戦後ヨーロッパ美術界の中へ身を投じました。

冒頭は美学校時代の版画です。謎めいた有機物のようなモチーフが多数現れています。とはいえ、1950年の「太陽」は、一筆の線で太陽を象っているようにも思えなくはありません。オートマティスムにも感化されたのでしょうか。かなり早い段階からさも書のごとく自由に筆を動かすことを志向しています。

「コブラ」は数年で解散しますが、移り住んだパリで様々な芸術に触れることで、作風をさらに変化させていきます。「新聞雑報」はポロックとの関係を指摘される作品です。アレシンスキーは一時、キャンバスを床に置いて絵具を垂らして描いていましたが、ポロックのスタイルを踏襲したとも言われています。また「ある日トリノにて」にはアンソール風の髑髏が現れています。実際、アレシンスキーはアンソールのを踏まえることで、より表現主義的な傾向を強めていったそうです。

初渡米は1961年。作品に即興性を求めたのでしょう。この頃から乾きやすいアクリル絵具を使うようになります。彼にアクリルの使い方を教えたのは、ニューヨークに在住していた中国人画家、ウォレス・ティンでした。さらにアレシンスキーは仙厓の禅画にも大いに共感します。先の森田子龍の例を挙げるまでもなく、アレシンスキーの制作の根底には、東洋の芸術が深く関わっていたと言えるかもしれません。


ピエール・アレシンスキー「写真に対抗して」 1969年 ベルギーINGコレクション

コマ割りのようなフレームで囲った挿画が挿入されるのも面白いところです。「写真に対抗して」では下部にコマがあり、複数のモチーフが描かれています。上は血の如く赤い有機体のような何かが言わば爆発的に膨れ上がっていました。挿画部分は基本的に補足だそうです。具体的に明示されているわけではありませんが、作品に言わば重層性を与えています。


ピエール・アレシンスキー「至る所から」 1982年 ベルギー王立美術館

フレームといえば「至る所から」も同様でした。中央のフレームには目を伴った生き物がいます。周囲は色彩の渦。暴風雨の如く荒れています。フレーム内のモノクロームとは対比的です。それにしても色はもはや空間から溢れ出るように輝かしい。時にステンドグラスを見るかのような色彩もアレシンスキーの魅力と言えるかもしれません。


ピエール・アレシンスキー「ボキャブラリーI-VIII」 1986年 作家蔵

出品中最大なのが「ボキャブラリーI-VIII」。縦は3メートル近くはあるのではないでしょうか。もちろん横幅も広い。パネルが例のフレームで分割されています。ほぼ青と白一色です。色には統一感があります。火山、植物、あるいは生き物、またビルのような建物などのモチーフが描かれていました。世界の諸相を表しているのでしょうか。一時はグッゲンハイム美術館のエレベーターホールを飾っていたそうです。もはや壁画と言っても差し支えありません。

書ならぬ文字への関心は、支持体に文字の記された不要な紙類を採用するにまで至りました。コラージュです。「言葉でもあり、網目であり」は18世紀の手紙。その上にアレシンスキーが色をつけています。「氷の目」はグリーンランドの航空図です。航路を示す文字も記載されています。そこへ新たにモチーフを書き加えています。


ピエール・アレシンスキー「鉱物の横顔」 2015年 作家蔵

四角形のフレームが続くと思いきや、今度は一転、円が現れました。近作での取り組みです。キャンバス自体が円い。それこそ禅の円相の境地でしょうか。モチーフも循環していました。


ピエール・アレシンスキー「デルフトとその郊外」 2008年 作家蔵

出口にアレシンスキーの特集映像が放映されています。自身のインタビューをはじめ、半生、アトリエでの制作風景などが20分弱程度にまとめられています。鑑賞の参考となりました。



日本では初めての本格的な回顧展です。全てが親しみやすいとは言えません。しかしいわば洗練とは無縁の、原初的でかつ土着的で、激しくエネルギーの渦巻く奔放な作品は、確かに稀な個性があります。また一人、記憶に残る画家に出会えました。

12月8日まで開催されています。

「ピエール・アレシンスキー展」 Bunkamura ザ・ミュージアム@Bunkamura_info
会期:10月19日(水)~12月8日(木)
休館:10月24日(月)。
時間:10:00~19:00。
 *毎週金・土は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1400(1200)円、大学・高校生1000(800)円、中学・小学生700(500)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。要事前予約。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。

「クラーナハ展」 国立西洋美術館

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国立西洋美術館
「クラーナハ展ー500年後の誘惑」 
2016/10/15~2017/1/15



国立西洋美術館で開催中の「クラーナハ展ー500年後の誘惑」のプレスプレビューに参加してきました。

ドイツ・ルネサンスを代表する画家のルカス・クラーナハ(1472〜1553)。これまでに国内でも単発的に作品が紹介されてきましたが、画業を俯瞰する回顧展が開かれたことは一度もありませんでした。

日本初のクラーナハ展です。絵画は40点。さらに版画が加わります。またクラーナハに刺激された近現代の美術家の作品も参照しています。


ルカス・クラーナハ(父)「ホロフェルネスの首を持つユディト」 1525/30年頃 ウィーン美術史美術館

タイトルにもある「誘惑」。チラシ表紙を飾る「ホロフェルネスの首を持つユディト」からして明らかでした。言うまでもなく剣を持つのがユディトです。剣は白い。正義を表します。両手で首を抱えています。彼がホロフェルネスです。既に息絶えて土色の顔をしています。口は半開きで目に光もありません。首の断片は生々しい。それこそ斬り立てなのでしょうか。赤い肉と白い骨が覗いています。

一方でユディトの顔色はやや赤い。僅かに興奮しているのかもしれません。目を細めて口をすぼめています。不敵な笑みに見えなくもありません。ブロンドの巻き毛は金の鉄線のように輝いていました。衣服の一部はサテンでしょうか。光沢感があります。まさに見る者を惑わすかのような妖しい魅力に満ちています。ホロフェルネスがやられたのも無理はありません。

なお「ホロフェルネスの首を持つユディト」は約3年間の修復を経ての初公開です。板の裂目の修復のほか、加筆や補彩の除去作業が行われました。


ルカス・クラーナハ(父)「ルクレティア」 1532年 ウィーン造形芸術アカデミー

「ルクレティア」はどうでしょうか。漆黒の闇を背景に浮かび上がる白い裸体。右手で短剣を持ち、胸を突いています。微かに血が滴り落ちていました。表情は明らかに苦しみ悶えています。身体を薄いヴェールで覆っていますが、殆ど透明で、本来の用途をなしていません。それゆえに裸体がより際立って見えます。官能的なまでの美しさをたたえていました。


ルカス・クラーナハ(父)「ヴィーナス」 1532年 シュテーデル美術館、フランクフルト

「ルクレティア」と対の「ヴィーナス」も妖し気です。やはり薄いヴェールが一枚。透明です。アクセサリーを身につけています。裸体は真珠のように白い。右手の指先がやや屈曲しています。笑みはどことなく挑戦的です。ヴィーナスと名付けられなければ、単に匿名の女性の裸を描いた作品にしか見えません。こうした裸体表現もクラーナハ画の魅力の一つと言えそうです。


ルカス・クラーナハ(父)「ザクセン選帝侯フリードリヒ賢明公」 1515年頃 コーブルク城美術コレクション

クラーナハが歴史の表舞台に現れたのは30歳。神聖ローマ帝国の中心であるウィーンでした。そこで人文主義者と交わり、画家として台頭します。1505年、ザクセン選帝侯フリードリヒ賢明公によって宮廷画家としてヴィンテンベルクに招かれました。


ルカス・クラーナハ(父)「聖カタリナの殉教」 1508/09年頃 ラーダイ改革派教会、ブダペスト

その頃の作品が「聖カタリナの殉教」です。もちろん主人公は聖カタリナ。しかし目を引くのは彼女を取り巻く情景描写です。空は裂け、隕石か雷が落ち、車輪は折れて曲がっています。もはや天変地異です。終末を迎えた世界のようにも見えなくありません。逃げ惑う人々は驚き慄き、混乱しています。凄まじい群像表現です。クラーナハはそれまでのドイツ絵画になかった鮮烈な絵画世界を作り上げました。


ルカス・クラーナハ(父)「夫婦の肖像(シュライニッツの夫婦?)」 1526年 ヴァイマール古典期財団

クラーナハが数多く制作し、最も得意としたのが肖像画でした。例えば「夫婦の肖像(シュライニッツの夫婦?)」です。モデルの記録こそありませんが、向き合う夫婦の姿は写実的と言えるのではないでしょうか。特に夫の顔面です。窪んだ目に高い鼻、そしてやや分厚い下唇をはじめ、こけた頬に細かな髭などが実に細かく描かれています。陰影は深い。彫像のような立体感さえあります。

習作ながらも真に迫るのが「フィリップ・フォン・ゾルムス=リッヒ伯の肖像習作」でした。モデルは一人の中年の男です。眉間には皺が重なり、口を強く閉じています。上目遣いで睨んでいます。怒っているのでしょうか。もはや解剖学的にまでにリアルです。対象を極めて克明に写し取っています。


レイラ・パズーキ「ルカス・クラーナハ(父)『正義の寓意』1537年による絵画コンペティション」 2011年 作家蔵

さて一方でクラーナハに絡む現代美術です。興味深いのレイラ・パズーキによる「ルカス・クラーナハ『正義の寓意』1537年による絵画コンペティション」でした。ご覧の通り、壁一面に並ぶのは「正義の寓意」。むろん複製画です。全部で95点。出来不出来に随分と差があります。作家が一人で描いたとは到底思えません。


ルカス・クラーナハ(父)「正義の寓意(ユスティティア)」 1537年 個人蔵

答えはワークショップでした。舞台は中国の深圳です。世界の複製画の約半数を生産する芸術村で行われました。100名の画家が参加。あえて個々の差異を強調するために7時間という制限時間が設けられました。そもそも「正義の寓意」には約100点のバリエーションがあります。クラーナハ自身も工房を運営し、分業体制で絵画を制作していました。レイラ・パズーキは絵画の複製や価値について問いかけているわけです。

ちなみに現代美術ではピカソ、デュシャン、それに川田喜久治や森村泰昌などの作品が登場します。クラーナハと現代美術。ともすると難しい組み合わせかもしれませんが、テーマ設定が明快だったこともあり、あまり違和感を覚えませんでした。500年後の現代もクラーナハの芸術は多方面に影響を与えているようです。


ルカス・クラーナハ(父)「メランコリー」 1533年(?) 個人蔵

会場のラストにいささか不思議な印象を与える作品がありました。「メランコリー」です。たくさんの裸の赤ん坊が手足を振り上げては踊っています。笛を吹き、太鼓を叩いている子もいました。右手には女性が一人。デューラーの「メランコリア」の擬人像を借りています。とはいえ、単に市井の若い女性のようにも思えなくはありません。何かに憂いているのでしょうか。ナイフで木を削っています。後方には黒い雲が迫り、たくさんの魔物たちが近づいています。魑魅魍魎としていて恐ろしい。ルターの占星術的発想の影響を受けているそうです。デューラーが憂鬱を芸術家の気質として表現したのに対し、クラーナハはあくまでも打ち払うべき脅威として描きました。

国内初のクラーナハ展。今回ほどのスケールで見られる機会は今後なかなか望めそうもありません。その意味では一期一会の展覧会と言えそうです。

「芸術新潮2016年11月号/クラーナハ特集/新潮社」

改めて11月3日の祝日に見てきましたが、場内は思いの外に空いていました。スムーズです。クラーナハ画の細部の精緻な描写もじっくり味わうことが出来ました。



2017年1月15日まで開催されています。東京展終了後は大阪の国立国際美術館へと巡回(2017/1/28〜4/16)します。

「クラーナハ展ー500年後の誘惑」@tbs_vienna2016) 国立西洋美術館
会期:2016年10月15日(土)~2017年1月15日(日)
休館:月曜日。但し1月2日は開館。年末年始(12月28日~1月1日)。
時間:9:30~17:30 
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。

「ラスコー展」 国立科学博物館

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国立科学博物館
「世界遺産 ラスコー展~クロマニョン人が残した洞窟壁画」
2016/11/1~2017/2/19



国立科学博物館で開催中の「世界遺産 ラスコー展~クロマニョン人が残した洞窟壁画」を見てきました。

フランス南西部、ヴェゼール渓谷のラスコー洞窟に残された壁画の精密な復元壁画が、上野の国立科学博物館へとやってきました。



展示はおおむね3部構成です。はじめにラスコーの壁画の発見の経緯、ないし洞窟自体を紹介しています。洞窟に壁画が制作されたのは今から2万年前。後期旧石器時代にヨーロッパに住んでいたクロマニョン人の手によって描かれました。

存在が確認されたのは20世紀です。1940年、洞窟近くで遊んでいた子供たちによって発見されました。その後、洞窟は一度公開されますが、見学客が押し寄せたために、壁画の状態が悪化。1963年に保全のために閉鎖されました。つまり今、ラスコーの現地へ出かけても壁画の本物は見られません。



よりラスコーを世界へ知らしめたのは再現壁画です。1983年、「ラスコー2」と呼ばれる最初の再現壁画の洞窟が作られました。完成まで約10年。大変な労力があったことでしょう。現場を整備、測量した後に洞窟を制作。天然の顔料にて壁画が丹念に模写されました。



洞窟模型がラスコーの全体像を教えてくれます。スケールは10分の1。思いの外に複雑です。実際の全長は200メートル。地下に長く伸びては枝分かれしていました。



有名なのは「身廊」です。長さ20メートル、高さ7メートルの大空間。ラスコーで唯一、彩色と線刻の両方の技術を用いた絵が描かれています。



クロマニョン人は洞窟の入口付近の天井の穴から中へ入ったと考えられています。入口の浅い部分を生活の一部に使っていました。8000年前には岩石が堆積。洞窟は自然に封鎖されます。それが結果的に功を奏したのでしょう。壁画は極めて良い状態で発見されたそうです。



最も深い位置にあるのが「井戸状の空間」です。壁にはトリ人間らしき奇妙なモチーフが表されています。意味するところは今も明らかではありません。また地面からはランプやトナカイの角の槍先なども見つかりました。



最奥部は「ネコ科の部屋」です。ラスコー洞窟でただこの空間だけにネコ科の動物が描かれています。狭くて長い。途中で這わなくては潜り込めません。



ハイライトは実寸大壁画の再現展示です。名付けて「ラスコー3」。フランス政府公認の移動可能な立体壁画です。レーザー測量技術により1ミリ以下の精度で壁画が作製されました。



「ラスコー3」は全部で5つ。「身廊」と「井戸状の空間」にある壁画です。写真では分かりにくいかもしれませんが、ともかく臨場感が凄い。迫力があります。まるで本物の洞窟に迷い込んだかのようでした。



壁画も極めて精巧です。「身廊」の「黒い牝ウシ」も堂々としたもの。色鮮やかなのは「背中合わせのバイソン」でした。また例の「トリ人間」も奇妙です。バイソンの前で倒れる人物の頭が何故かトリになっています。ちなみに洞窟で発見された動物の骨の90%はトナカイだったものの、トナカイは1頭しか描かれていないそうです。どういうわけなのでしょうか。



しばらくすると照明が切り替わります。すると「身廊」の線刻がライトで浮かび上がってきました。壁画と線を交互に見せる仕掛けです。



5点ということで、量こそ多くはありません。とはいえ、これほどに緻密であれば、複製でも十分に見応えがあります。撮影も可能です。何度も行き来しては楽しみました。

ラストは壁画を描いたクロマニョン人に関する展示でした。名付けて「芸術のはじまり」です。そもそもヨーロッパではクロマニョン人以前の文化に芸術的要素が殆ど見当たりません。

「体をなめるバイソン」や「ヴィーナスと呼ばれる小立像」をはじめ、「ネコ科の動物が彫られた投槍器」など貴重な品々が集結。フランス国立考古学博物館から相当数の資料が出展されています。日本初公開も少なくありません。

また順は前後しますが、洞窟から発掘された「ラスコーのランプ」も要注目ではないでしょうか。人類が火を使ったのは100万年前以上に遡りましたが、灯りとして炎を持ち込んだのはクロマニョン人が最初といわれています。このランプで使って壁画を描いたのかもしれません。皿のくぼんだ部分に動物の脂を垂らして火をつけたそうです。ランプ自体はほかの洞窟でも多く見つかっていますが、これほど形状が美しいものはないそうです。



さらに洞窟から出土した顔料や線刻に使ったとされる石器なども展示。クロマニョン人を等身大で復元した人形も良く出来ていました。



最後に会場内の情報です。11月3日の祝日に観覧して来ましたが、賑わっていたものの、特に列もなく、総じてゆっくり見られました。

ただ何かと知名度のあるラスコーのことです。会期末に向けて混雑も予想されます。お出かけの際には公式アカウント(@lascaux2016)、ないしは科博WEBサイトの「混雑状況」の情報などを参照ください。



2017年2月19日まで開催されています。

「世界遺産 ラスコー展~クロマニョン人が残した洞窟壁画」@lascaux2016) 国立科学博物館
会期:2016年11月1日(火)~2017年2月19日(日)
休館:月曜日。但し12月26日(月)、1月2日(月)、1月9日(月)、2月13日(月)は開館。年末年始(12月28日~1月1日)。
時間:9:00~17:00。
 *金曜日は20時まで開館。
 *土曜日、及び11月2日(水)、3日(木)は特別展のみ17時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般・大学生1600(1400)円、小・中・高校生600(500)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *金曜限定ペア得ナイト券2000円。(2名同時入場。17時以降。)
住所:台東区上野公園7-20
交通:JR線上野駅公園口徒歩5分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成線京成上野駅徒歩10分。

「宮川香山展ー驚異の明治陶芸」 増上寺宝物展示室

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増上寺宝物展示室
「宮川香山展ー驚異の明治陶芸」 
9/10~12/25



増上寺宝物展示室で開催中の「宮川香山展ー驚異の明治陶芸」を見てきました。

京都から横浜に移って窯を構えた陶芸家の宮川香山(1842〜1916)。その横浜の地に香山の焼物を蒐集したミュージアムがあります。

名は「宮川香山 眞葛ミュージアム」。眞葛とは香山の開いた眞葛窯に由来します。実業家の山本博士氏が近年、海外から里帰りさせた作品がおさめられています。

その眞葛ミュージアムのコレクションが増上寺へとやって来ました。出品数は約40点。高浮彫から釉下彩を網羅します。

まずは超絶技巧の高浮彫。「猫ニ花細工花瓶」です。ピンク色の薔薇の下で猫が毛並みを整えています。表情はリアル。薄い舌までが精巧に再現されています。薔薇の花弁も見事です。一枚一枚、丁寧に象られていました。


宮川香山「鷹ガ巣細工花瓶」

「鷹ガ巣細工花瓶」も鮮烈です。花瓶の下方、穴が開いているのは鷹の巣です。三匹の雛が餌を待っては口をあけています。そこに親鷹が飛んで来ました。巣には粉雪が混じっているのでしょうか。うっすらと白色に染まっています。鷹の羽も生々しい。デコラティブです。これぞ高浮彫の極致とも言えるかもしれません。

「武者二物ノ怪花瓶」も楽しい。手前側に武人が二人、何やら背後を気にしながら、抜き足で恐る恐る歩いているようにも見えます。何故でしょうか。答えは裏側にありました。と言うのも、ちょうど反対側に血の入った桶を担いだ鬼がいるのです。つまり鬼から逃げる武人を表現しています。

ちなみに展示台の制約上、いずれの作品も360度の方向から見ることは叶いません。ただ背後に鏡が設置されていました。それで焼物の裏手も鑑賞することが出来ます。

「蛙が囃子細工花瓶」の蛙は暁斎に影響されたと言われています。とするのも蛙は擬人化。扇を持ってはしゃいでいます。こうしたモチーフは暁斎の得意としたところでもありました。



宮川香山「七宝筒形灯籠鳩細工桜」

「七宝筒形灯籠鳩細工桜」も凝っています。大きな灯籠に止まるのは一羽の鳩。精巧です。灯籠の窓の部分が赤く染まっています。灯りを表すためでしょう。ここが七宝です。香山は焼物に七宝や金工も積極的に取り入れました。


宮川香山「磁製鯉図鉢」

後半は一転しての釉下彩が続きます。釉下彩とは香山が新たに釉薬を研究して得た磁器の作品です。後年に高浮彫から作風を変えて制作しました。

「青華菖蒲画花瓶」は黄色い地に青い菖蒲を描いた花瓶です。形も構図もシンプル。高浮彫の香山とは全く違った世界を切り開いています。

「磁製蕎麦釉古代紋花瓶」のモチーフは古代中国の青銅器です。一面に線刻が広がっています。色は確かに蕎麦の色です。見慣れません。一体どのように開発したのでしょうか。明治37年の日本美術協会美術展覧会で一等を受賞。明治天皇の旧蔵品でもありました。


宮川香山「氷窟ニ鴛鴦花瓶」

最後に一風変わった作品に目が留まりました。「氷窟二鴛鴦花瓶」です。白い氷の洞窟の中に鴛鴦がいます。氷柱は垂直。鴛鴦は互いに別の方向を見やり、視線はあっていません。若冲画との関連も指摘されているそうです。

「世界に愛されたやきものー眞葛焼 初代宮川香山作品集/神奈川新聞社」

香山といえば、今年の春前にもサントリー美術館で大規模な展覧会がありました。かの展示は150点。もちろんスケールとしては及びません。とはいえ、思いの外に優品が多い。幅広く見入りました。



「宮川香山 眞葛ミュージアム」
http://kozan-makuzu.com

なお香山に加え、増上寺の所蔵する狩野一信の「五百羅漢図」も一部展示中です。11月9日の後期からは第91幅から100幅までの10幅が公開されています。



12月25日まで開催されています。

「宮川香山展ー驚異の明治陶芸」 増上寺宝物展示室
会期:9月10日(土)~12月25日(日)
休館:火曜日。但し火曜日が祝日の場合は開館。
時間:10:00~17:00
料金:一般700円。
 *徳川将軍家墓所拝観共通券1000円。
場所:港区芝公園4-7-35
交通:JR線、東京モノレール浜松町駅から徒歩10分。都営三田線御成門駅、芝公園駅から徒歩3分。都営浅草線、大江戸線大門駅から徒歩5分。

「un-printed material」 クリエイションギャラリーG8

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クリエイションギャラリーG8
「un-printed material」
10/12~11/17



クリエイションギャラリーG8で開催中の「un-printed material」を見てきました。

デザイナーの佐藤オオキが代表するオフィス「nendo」(ネンド)が、紙をテーマにした新作を展示しています。



しかしながら紙とはいえ、実際ところ一般的な用途を満たす紙ではありません。そもそもご覧のように輪郭のみ。しかも素材自体も紙ではありません。3Dプリントの技術により再現された「紙」です。つまり紙を使わないで紙の輪郭を表現しています。



宙吊りになった輪郭。ポスターです。もちろん中身は一切ありません。余白、言い換えれば空間です。タイトルの「un-printed material」が示すように、印刷をしていない物質のみを提示しています。

ポスターの中には丸まって歪んでいたり、剥がれて落ちてしまっているものもありました。もちろんこれらも意図しての表現です。ほかにも破いたり折ったりして変化を付けています。紙に特有のクセ、ないし紙らしさも巧みに表していました。



遠目からでは紐のように見えるのではないでしょうか。太さは3ミリと1ミリ。ただ限りなく近づき、断面のギザギザなどを目にすると、とても精巧に紙を再現していることが分かります。微細なニュアンスも抜かりありません。



輪郭は変幻自在です。ノートでしょうか。曲線を描きながら一枚一枚とめくられています。また丸まったロールを引き延ばしたような輪郭もありました。まるでパラパラ漫画を前にしているかのようです。



奥の小部屋では輪郭が半ばオブジェとして展開しています。輪郭の折り鶴にバック、そしてコーヒーカップとアイデアは尽きません。



シンプルな展示ですが、紙ならぬ紙の輪郭が喚起するイメージを自由に想像することが出来ました。

11月17日まで開催されています。

「un-printed material」 クリエイションギャラリーG8@g8gallery
会期:10月12日(水)~11月17日(木)
休館:日・祝日。
時間:11:00~19:00。
料金:無料。
住所:中央区銀座8-4-17 リクルートGINZA8ビル1F
交通:JR線新橋駅銀座口、東京メトロ銀座線新橋駅5番出口より徒歩3分。

「SENSE OF MOTION あたらしい動きの展覧会」 スパイラルガーデン

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スパイラルガーデン
「SENSE OF MOTION あたらしい動きの展覧会」 
11/9~11/20



スパイラルガーデンで開催中の「SENSE OF MOTION あたらしい動きの展覧会」を見てきました。

様々な動きには「回転または往復運動する軸を支える機械部品」(goo辞書より)ことベアリングが欠かせません。


エマニュエル・ムホー「混色 色が回る。色が混ざる。心が動く。」

スパイラル一の大空間を飾るのはエマニュエル・ムホーです。タイトルは「混色」。モチーフは花です。6メートルの高さから釣り下がります。その数は全部で25270個というから驚かされます。混色とあるように色も様々です。右からオレンジ、赤、緑、青、紫とグラデーションを描いています。計100色でした。花のカーテン、ないし滝の姿はとても美しい。僅かに回転しています。まるで風に吹かれているようでした。


エマニュエル・ムホー「混色 色が回る。色が混ざる。心が動く。」

その花を回転させているのがベアリングです。主催するのは日本精工株式会社。国内のベアリング業界の最王手です。世界シェアでも3位。今年で創立100周年を迎えました。ベアリングは社会のありとあらゆるシーンで用いられています。そこへ今回、新たな動きの可能性を探るべく6組のクリエーターと協働。「SENSE OF MOTION」と題した展覧会を開きました。


ライゾマティクスリサーチ「Slide」

ライゾマティクスリサーチは人の動きをボールねじで表現する彫刻作品を展示。ちなみにボールねじとはねじ軸、ナット、ボールから構成される機械部品のことです。日本精工が世界一の生産量を誇ります。


Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)「ルーフトップ・メリーゴーランド NSK ver.」

メリーゴーランドを制作したのは、中崎透、山城大督、野田智子の3名によるNadegata Instant Partyです。模型サイズです。横のバーを押すと回ります。回転の中心はもちろんベアリングです。そして面白いのは中にもたくさんの機械部品が入れられていることです。これを都市に見立てます。


Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)「ルーフトップ・メリーゴーランド NSK ver.」

さらに内部にはカメラがあり、メリーゴーランドの動きと連動していました。映像は作品横のモニターに映し出されます。つまりメリーゴーランドを回すと機械都市の光景も動くというわけです。


石黒猛「Soft Metal Structure Ball」

数千個ものベアリングやスプリングを使用したのが石黒猛です。作ったのはボール。直径1.5メートルです。パーツは複雑に組み合わさっています。重量感がありました。しかしスプリングの効果なのでしょう。触れるとゴムボールのように緩やかに沈みます。独特の弾力感です。金属らしからぬ質感を味わうことが出来ました。


AR三兄弟「箱男」

安部公房の小説「箱男」に着想を得ています。開発ユニットのAR三兄弟です。「箱男」とは段ボールをかぶり、覗き窓から街を歩いたという男の物語です。それを具現化させようとしたのでしょうか。段ボールを用意。実際にかぶって覗き穴から外を見ることが出来ます。



仕掛けはAR、つまり拡張現実でした。とあるモチーフを装置にかざすと、対応した映像が箱の中に投影されます。現実と虚構を彷徨う試みです。モチーフは3種。私の時は機器の不良のため、1つしか見られませんでした。ただしそれでも段ボールをかぶって映像を見やるという体験はなかなか出来ません。


スズキユウリ+SLOW LABEL「Tutti in C」

スズキユウリとSLOW LABELは巨大なピンホールマシンを制作しました。球は金属です。打つ返すフリッパーも日本精工の製品でした。もちろん実際に球を打ち上げて遊ぶことも出来ます。フリッパーの動作装置は側面にもあります。参加人数は最大で6名まで可能だそうです。

とはいえ、何も単なるピンホールマシンというわけではありません。実は楽器でした。というのも白く円い部品に球を当てるとオルガンの音が出るのです。球を打ち合えば打ち合うほど色々な音が鳴ります。複数で体験した方が面白いかもしれません。



入場は無料です。11月20日まで開催されています。

「SENSE OF MOTION あたらしい動きの展覧会」 スパイラルガーデン(@SPIRAL_jp
会期:11月9日(水)~11月20日(日)
休館:会期中無休
時間:11:00~20:00
料金:無料
住所:港区南青山5-6-23
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅B1出口すぐ。

「webイベント あなたが選ぶ展覧会2016」を開催します

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1年間の展覧会を振り返ろうと、昨年、お馴染みの青い日記帳@taktwiさんと初めて行った「あなたが選ぶ展覧会」。皆さんの「ベスト展覧会」のエントリーと投票を募り、集計した上、WEBのライブイベントにて結果を発表しました。

「あなたが選ぶ展覧会2015」最終投票結果発表(はろるど)

1位に選ばれたのは国立西洋美術館の「グエルチーノ展」でした。またライブイベントではチバヒデトシさんや藤原えりみさんをお迎えし、2015年の展覧会について語っていたただきました。投票にも多くの方が参加してくださいました。本当にありがとうございました。

あれから1年。今年も残り2ヶ月弱です。「あなたが選ぶ展覧会2016」を開催します。



「あなたが選ぶ展覧会2016」
http://arttalk.tokyo/

基本的な流れは昨年と同じです。まずは皆さんにとって印象深かった展覧会を5つ挙げていただきます。それを1度集計して発表。最大で50展に絞ります。さらにその中から投票により「ベスト10」を選定致します。エントリー、投票の2回です。最終結果は年明けにWEB上のライブイベントで発表する予定です。

「あなたが選ぶ展覧会2016 受付フォーム」→http://arttalk.tokyo/form/form.cgi

昨年のエントリー数は3つでしたが、より多くの展覧会をピックアップするため、5つに増やしました。なお今年は一次エントリーの集計結果時のライブイベントを行いません。WEB上で結果のみをお伝えします。

「あなたが選ぶ展覧会2016 イベントスケジュール」

1.エントリー受付
今年観た展覧会で良かったものをまず順位不同で1から5つあげていただきます。
http://arttalk.tokyo/form/form.cgi
*11月25日18時締め切り

2.ベスト50展発表
エントリーしていただいた数多くの展覧会の中から、上位50の展覧会を12月1日に発表します。

3.ベスト展覧会投票
50の展覧会の中から、さらにベストの展覧会を選んでいただきます。皆さん投票して「あなたが選ぶ展覧会2016 ベスト展覧会」を決定しましょう。投票は12月1日(予定)から。

4.ベスト展覧会決定
最終的な投票結果や投票で1位となった展覧会の発表は、年明けにライブのwebイベントを開催して発表する予定です。

最初のエントリーの受付期限は11月25日の18時までです。最終のライブイベントの参加如何に関わらず、受付フォームから自由に挙げていただくことが可能です。エントリーは最大で5つですが、1つでも構いません。お名前(ハンドルネーム可)、メールアドレスのみで気軽にエントリー出来ます。



発表を年明けにすることで、昨年よりも投票期間が長くなりました。少しでも多くの方にご参加いただければ幸いです。

[あなたが選ぶ展覧会2016 イベント概要]
開催期間:2016年11月~2017年1月
エントリー受付期限:11月25日(金)18時
受付フォーム:http://arttalk.tokyo/form/form.cgi
上位50展発表:12月1日(木)
ベスト展覧会投票期間:12月1日(木)~12月26日(月)頃
「あなたが選ぶ展覧会2016」発表ライブイベント:2017年1月頃(決まり次第お知らせします)
*ゲストをお呼びし、WEB上のライブで発表します。

「Les Parfums Japonaisー香りの意匠、100年の歩み」 資生堂ギャラリー

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資生堂ギャラリー
「Les Parfums Japonaisー香りの意匠、100年の歩み」 
11/2~12/25



資生堂ギャラリーで開催中の「Les Parfums Japonaisー香りの意匠、100年の歩み」を見てきました。

資生堂の初代社長の福原信三は、化粧品製造にあたり、「商品の芸術化」という理念を掲げていたそうです。

まさしく「香りの芸術」です。新旧に様々な香水瓶が会場を美しく彩っています。



最も古い香水瓶は1901年。パリの老舗化粧品メーカーのピヴェールの「アズレア」でした。さらにガレの「蝉」と続きます。福原は1913年、アメリカ留学の後、ヨーロッパに立ち寄りました。とりわけパリの芸術文化に感化されたそうです。全盛期を過ぎたとはいえ、アール・ヌーヴォーのスタイルは街の随所に見られたことでしょう。そうしたパリでの滞在経験が化粧品デザインのヒントになりました。



福原が銀座に化粧品店を開店したのは1916年のことです。翌年、資生堂初の香水である「花椿」を発売しました。形状やレーベルのデザインには同時代のパリの香水瓶の特徴を見ることが出来ます。ヨーロッパの本格的な香水の品質に近づくべく努力を重ねました。



もちろん単に西洋の模倣に留まっていたわけではありません。「藤」や「菊」、そして「銀座」といった日本的なモチーフも積極的に発信。資生堂ならではのオリジナルな香水を制作します。

戦後、資生堂は日本風の香水「禅」を海外向けに発表しました。瓶のデザインは日本の漆芸の蒔絵です。さらに「琴」や「舞」も販売。瓶には書をあしらっています。「商品の芸術化」の理念は時代を超えても変わらずに受け継がれました。



最新の香水は今年制作された「マツダ Soul of Motion」でした。自動車メーカーのマツダと協働。同社の次世代商品群のデザインコンセプトである「魂動」を香水瓶のデザインとして表現しています。



それにしても何ともスタイリッシュな展示ではないでしょうか。ひたすらに美しい。会場の演出はインタラクティブ・アートのグループ「plaplax(プラプラックス)」とコラボレーションです。什器は植物、ケースは雫を表しています。また香水のネーミングに着目したインタラクティブな仕掛けもありました。



12月25日まで開催されています。

「Les Parfums Japonaisー香りの意匠、100年の歩み」 資生堂ギャラリー@ShiseidoGallery
会期:11月2日(水)~12月25日(日)
休廊:毎週月曜日
料金:無料
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。

「漆芸名品展」 静嘉堂文庫美術館

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静嘉堂文庫美術館
「漆芸名品展ーうるしで伝える美の世界」 
10/8〜12/11



静嘉堂文庫美術館で開催中の「漆芸名品展ーうるしで伝える美の世界」を見てきました。

「謎のうるしの屏風」(ちらし表紙より)と呼ばれる「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」が、修復を経て10年ぶりに公開されています。

謎とするのは作者、ないし制作背景が分かっていないからです。作られたのはおそらく桃山から江戸時代の初期。杉板に黒漆を塗り、蒔絵や金貝に螺鈿のほか、密陀絵と呼ばれる技法を用いて描いています。


「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」(右隻) 桃山〜江戸時代初期(17世紀)

右隻が源氏絵です。舞台は紅葉賀。青海波を舞う場面です。庇の前で舞うのが光源氏と頭中将です。やや腰を屈め、前に首を突き出しています。後方には紅葉が広がり、手前には菊が咲いていました。秋の景色です。それにしても極めて技巧的な作品です。例えば壇上の人物です。黒い服を着ている男がいますが、よく見ると凹凸の柄の文様が付いています。密陀絵は漆絵では出せない白を得るために使われたそうです。絵を囲む螺鈿も一際、輝いて見えました。


「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」(左隻) 桃山〜江戸時代初期(17世紀)

左隻の主人公は唐の玄宗皇帝です。楼台に座るのが玄宗と楊貴妃。帝自ら鼓を打っています。妃の着物の精緻な模様といったら比類がありません。季節は春。右隻の秋とは対比的です。玄宗が曲を作り、披露したところ、花が一斉に咲き出したという故事にならっています。楼台の周囲は赤や白、そしてピンクの花で彩られていました。奥の建物の獅子、手前の楽人たちも大変に細かい。これほど大規模でかつ緻密な漆絵を初めて見ました。幸いなことに薄いガラスケースに収められています。やや写り込みがあるものの、肉眼でも細部まで確認することが出来ました。

さて本展、見どころは「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」だけにとどまりません。静嘉堂の誇る日本、中国、朝鮮、そして琉球の漆芸品がずらり。約100点です。(一部に展示替えあり。)いずれも優品ばかりでした。


尾形光琳「住之江蒔絵硯箱」 江戸時代(18世紀)

まずは日本。光琳の「住之江蒔絵硯箱」が見事です。意匠は古今和歌集。藤原敏行の恋歌によっています。せり上がった蓋の造形はまさしく光悦風です。波は荒れ狂うかのように岸の間をうねっています。岸の部分は鉛です。歌の文字が随所に散っていますが、波と岸は絵そのもので示されています。


柴田是真「柳流水青海波塗重箱」 江戸末期=明治時代(19世紀)

是真は2点。「柳流水青海波塗重箱」は5色に塗り分けられた重箱です。川の部分を是真が得意とした青海波塗の技法で表現しています。また「変塗絵替丼蓋」も面白い。古伊万里の丼の蓋が10枚、全て異なった塗りで作っています。目地はまるで本物の木目のようです。言わなければ漆絵とは気がつかないかもしれません。


原羊遊斎 酒井抱一(下絵)「秋草虫蒔絵象嵌印籠」 江戸時代(18〜19世紀)

原羊遊斎の印籠も見逃せません。「秋草虫蒔絵象嵌印籠」は下絵を抱一が担当しています。流麗な線で秋草を可憐に表現していました。かげろうもいます。「雪華蒔絵印籠」も美しい。模様はすべて雪の結晶です。大変にモダン。何とも魅惑的ではないでしょうか。

印籠ではもう1点、技巧を凝らした「龍雷神螺鈿印籠」にも目を奪われました。極限にまで小さく砕かれた青貝がモザイク画を描くかのようにちりばめられています。ほぼ点描と言っても良いかもしれません。驚くほどに細かい。高い技術に裏打ちされた作品に違いありません。


「曜変天目」(付属:黒漆天目台) 南宋時代(12〜13世紀)

唐物では何と言っても曜変天目です。静嘉堂の誇る名品中の名品。今回は天目台にのせた形で展示されています。やや明るめの展示室内でも際立つ斑紋。小宇宙とも称されますが、まさしく星屑が瞬いているかのようでした。


「人魚箔絵挽家」 東南アジア(16世紀)

「人魚箔絵挽家」も珍しいのではないでしょうか。挽家とは茶入を収納する容器ですが、蓋の部分に2つの尾を持つ人魚が描かれています。ほかにも女神や羽人がいました。異国趣味といったところかもしれません。可愛らしい姿に思わずにやりとさせられました。


「雲龍堆朱盒 大明宣徳年製(銘)」 明時代・宣徳年代(1426〜35)

中国の漆芸も充実しています。「山水人物堆朱盒」は楼閣や人物、それに鶴などを象った作品です。官営の工房で制作されたと言われています。また「七宝繋填漆櫃」は全面に七宝の繋文が表されていました。均一な文様で揺らぎがありません。洗練されています。


「蓮華唐草螺鈿玳瑁箱」 朝鮮時代(16〜17世紀)

朝鮮の漆芸の中心は黒漆地の螺鈿にあるそうです。「蓮華唐草螺鈿玳瑁箱」が華やかです。玳瑁、すなわちタイマイとはウミガメの一種です。螺鈿を円状に連ね、蓮の花を象っています。箱全体が飴色に染まります。かつての三菱財閥の総帥、岩崎小彌太が熱海の別邸で文房具箱として使用していたそうです。


「清明節図螺鈿座屏」 琉球(18〜19世紀)

琉球に優れた螺鈿の漆器がありました。「清明節図螺鈿座屏」です。高さは78センチ。かなり大きい。人々が橋を渡りながら出かけています。解説によればピクニックだそうです。4月の清明節には墓参を兼ねて踏青、つまりピクニックに行く場面を表しています。17世紀初頭まで王府の漆器制作を担っていた「貝摺奉行所」にて制作されました。

高蒔絵、針描、切金など、実際の作品を参照しながら、蒔絵技法の解説を付した展示もあります。鑑賞の参考になりました。

一美術館だけとは思えないコレクションです。「名品展」のタイトルに偽りはありません。



「羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風」の左隻、右隻の双方が揃って出るのは11/8から11/20の間だけです。(11/20以降は紅葉賀図のみ展示。)両隻展示期間中での観覧をおすすめします。

12月11日まで開催されています。

「漆芸名品展ーうるしで伝える美の世界」 静嘉堂文庫美術館
会期:10月8日(土)〜12月11日(日)
休館:月曜日。但し10月10日は開館。翌11日(火)は休館。
時間:10:00~16:30 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、大学・高校生700円、中学生以下無料。
 *一般・大高生は20名以上の団体割引あり。
場所:世田谷区岡本2-23-1
交通:二子玉川駅4番のりばより東急コーチバス「玉31・32系統」で「静嘉堂文庫」下車、徒歩5分。成城学園前駅南口バスのりばより二子玉川駅行きバスにて「吉沢」下車。大蔵通りを北東方向に徒歩約10分。

「ロバート・フランク展」 東京藝術大学大学美術館・陳列館

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東京藝術大学大学美術館・陳列館
「ロバート・フランク Books and Films 1947-2016 東京」
11/11-11/24



東京藝術大学大学美術館・陳列館で開催中の「ロバート・フランク Books and Films 1947-2016 東京」を見てきました。

今年、92歳を迎え、アメリカを代表する写真家として知られるロバート・フランク。オリジナルのプリントは高価でかつ貴重なため、公開される機会は殆どありません。

そこで考え出されたのが今回の展覧会です。アイデアは明快。安価な新聞用紙に印刷した作品を展示しています。フランクの新旧作を年代を追って見ることが出来ました。



会場も自由な造りになっていました。プランを練ったのはゲルハルト・シュタイデル。ドイツで出版社「Steidl」を経営するデザイナーです。プリントはいずれもゲティンゲンにあるSteidl社で行っています。手書きの文字もシュタイデルが手掛けました。



シュタイデルは展示に教育的な要素を取り込みました。什器を制作したのは芸大の学生です。かなり簡易的です。フレームはメタル。磁石で作品をくっ付けています。ドイツにいるシュタイデルとやり取りしつつ、ワークショップなどで意思疎通をしながら完成させたそうです。



陳列棚のフロアは2つ。1階は2009年に制作された「セブンストーリーズ」です。どことなくプライベートな空間が捉えられています。なお映像が新聞用紙の裏側から映されていますが、これも学生のアイデアによります。写真と映像が交錯します。まるで迷路のようでした。

2階にもフランクの撮影した各シリーズが並んでいました。「Paris」が制作されたのは1951年。フランクにとってアメリカ移住後、2度目のヨーロッパ帰還でした。「新世界を体験」(キャプションより)した彼の眼差しは、何気ないパリの街角の雑踏に向きます。壁の新聞を覗き込むように読み、忙しそうに車に乗り込んでは、肩を落として行き交う人々が写し出されていました。



ほぼ同じ頃に撮影したのが「London」です。フランクはロンドンの裕福な銀行家やビジネスマンとともに、ウェールズの炭鉱労働者の家族を写しました。階級や格差について切りこもうとしたのでしょうか。2階建てのバスがたくさん走るロンドンの喧騒と、どこか荒涼としたウェールズの大地。背の高い坑夫が立っています。得意げにポーズをとる子どもの笑顔も印象的でした。



「The American」は1959年、フランクがグッゲンハイムの奨学金を得て、アメリカを横断する旅行に出た時の作品です。撮影数は何と27000点。うち83点が写真集として発表されました。ここでも彼は差別を受ける人々に関心を寄せています。いわば黄金期を迎えながらも、根深く横たわるアメリカの様々な問題を抉ろうとしたのかもしれません。



破壊された街に目がとまりました。「Come Again」です。舞台は1991年のレバノン。フランクは長き内戦で壊滅したベイルートの市中を撮影します。翌年に大半の作品を発表しましたが、彼はそれを再考し、新たなノートとして「Come Again」を作り上げます。コラージュなどの実験的な取り組みも少なくありません。



ほかフランクの手紙や試し刷りなどの資料も展示。彼の言葉も随所にあり、作品だけでなく、制作に対するスタンスの一端も伺うことが出来ました。



印刷された作品は展示終了後、全て捨てられるそうです。もちろん一概には言えませんが、何かと高額に取り引きされる市場への批判の意味も込められているのかもしれません。写真の展示の在り方にも一石を投じる企画とも言えそうです。



カタログにも工夫がありました。今回、紙を提供した南ドイツ新聞のタブロイドです。価格も500円とリーズナブルでした。



世界50会場を巡る巡回展です。東京展は11会場目です。

「The Americans/Robert Frank/Steidl」

入場は無料です。11月24日まで開催されています。おすすめします。

「ロバート・フランク Books and Films 1947-2016 東京」 東京藝術大学大学美術館・陳列館
会期:11月11日(金) ~11月24日(木)
休館:会期中無休。
時間:10:00~18:00 *入館は17時半まで。
料金:無料。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。

「円山応挙 『写生』を超えて」 根津美術館

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根津美術館
「円山応挙 『写生』を超えて」
11/3~12/18



根津美術館で開催中の「円山応挙 『写生』を超えて」を見てきました。

単に写生といえども、応挙の手にかかると実に多様な技術、ないし表現に裏打ちされていることがよく分かりました。


円山応挙「雪松図屏風」(左隻) 天明6(1786)年頃 三井記念美術館

まず「雪松図屏風」です。言わずと知れた国宝の名品です。金地の大画面に立つのは三本の松。吹雪いていたのかもしれません。雪は松の葉や枝の各所に積もっています。パウダースノーのように柔らかい質感が伝わります。背後の金泥は光です。朝の日差しでしょうか。金の砂子は陽に反射して光輝いています。右隻の松は大見得を切る役者のようです。枝を左右に振っています。一方で左隻の空間には奥行きが伴います。松は左右だけでなく、前後にも枝を広げていました。

一見するところリアルな松ですが、近づくと表情が一変しました。というのも、松葉の描写は思いの外に荒々しい。素早い筆触で墨線を引いています。また余白も効果的でした。そこだけ切り取れば葉に見えません。ただそれでも作品から2歩、3歩下がると、ぴたりとピントがあうように松が実在感を伴って浮かび上がります。「近見」と「遠見」で景色が変わりました。これが応挙の目指した写生を超えた表現なのかもしれません。


円山応挙「藤花図屏風」(左隻) 安永5(1776)年 根津美術館

「藤花図屏風」も同様です。金地を背景に藤が広がります。幹は輪郭線を使わない付立ての技法です。筆は掠れながらも、大胆で力強い。一気呵成で動きがあります。一転しての花房は緻密でした。解説に「印象派」との指摘がありました。丁寧に写生を行ったのでしょう。白と青の花弁が細かに重なります。僅かに暖色系の色が混じっているようにも見えました。だらりと垂れた花房には重みも感じられます。葉は明るい緑です。薄塗りです。仄かに葉脈が浮かび上がります。幹、葉、花の表情は異なります。応挙の多彩な画技を知ることが出来ました。

さて今回の応挙展、こうした有名作だけでなく、個人蔵にも優品が多いのが特徴です。

例えば「雪中小禽図」です。水辺に水禽が7羽。冬の景色です。水面の一部は凍っています。松の木は内側を白く塗り残して雪を表現していました。針葉は「雪松図屏風」を彷彿させるかもしれません。水はうっすらと青く、鴨が首を中に突っ込んでいます。鳥の羽の描写が殊更に細かい。応挙の高い観察眼が伺えます。

観察眼といえば「筍図」も負けてはいません。こちらも個人蔵です。大小3本の筍が横たわっています。さも捥いだばかりの筍を描いたと思いきや、実は写生図に基づいているというから興味深い。筍の柔らかい皮や繊維の質感までが細かに表現されています。


円山応挙「写生図巻」 明和7〜安永元(1770〜72)年 株式会社千總

その元になる「写生図巻」、ないし「写生図帖」も見逃せません。図帖は数点あり、一部は応挙作ではないという指摘もあるそうですが、いずれも精緻極まりない描写で動植物を表しています。中でも「写生図巻」には感心しました。椎茸や栗、楓から鼠に兎などを巧みに写し取っています。図鑑を見るかのようでした。

「四条河原夕涼図」も面白いのではないでしょうか。鴨川を挟んだ情景。季節は夏です。見世物小屋が並び、大勢の人で賑わっています。幟が空高くに靡きます。空はまだ青い。一転して岸は夜の闇に包まれています。人の姿の多くは判然とせず、シルエットで表されていました。眼鏡絵とは西洋の遠近法を用いて描かれた作品です。レンズで覗き込めばよりパノラマ的に浮き上がってくるのかもしれません。

ハイライトは「七難七福図巻」でした。「難福図巻」とも呼ばれています。難は上中巻。うち上巻が天災です。地震に洪水に火災と続きます。家屋が倒壊して、人々は恐れおののきながら逃げまどっていました。洪水は人も建物も飲みこみます。波間で手を上げている人は助けを求めているのでしょうか。痛ましい。火災では火炎の描写が鮮烈です。さもバチバチを音を立てるかのように燃え盛っています。すでに焼かれてしまっている者もいました。


円山応挙「七難七福図巻」(部分) 明和5(1768)年 相国寺 

中巻は人災です。盗賊に追剝ぎ、そして情死。首から血が吹き出る様は恐ろしい。血みどろです。思わず目を背けてしまいます。幼い子供が井戸に放り込まれていました。建物の内部がリアルです。畳に屏風、そして襖などの建具の描写が細かい。構図に歪みがありません。

下巻が福でした。祝宴に飲食、そして花見でしょうか。凄惨な上中巻とは一転、日常の平穏な光景が示されています。人々の様子も皆、楽しそうです。応挙は本作にあたり、六道絵や鳥獣戯画、さらに信貴山縁起絵巻などの古画を参照したそうです。制作期間はおおよそ3年。よほど熱心に取り組んだのでしょう。人間と自然を問わず、この世の様々な事象を見事なまでに描き尽くしました。


円山応挙「牡丹孔雀図」 安永5(1776)年 宮内庁三の丸尚蔵館

出点数は全47点。但し一部の作品に展示替えがあります。

「円山応挙 『写生』を超えて」出品リスト(PDF)
前期:11月3日~11月27日
後期:11月29日~12月1日

国宝の「雪松図屏風」は前期のみの公開です。また「七難七福図巻」は前後期で巻き替えがあります。ご注意下さい。



会期第1週の日曜日に出かけましたが、館内は盛況でした。後半はさらに混み合うかもしれません。



都内では6年ぶりの応挙展です。12月18日まで開催されています。まずはおすすめします。

「円山応挙 『写生』を超えて」 根津美術館@nezumuseum
会期:11月3日(木・祝)~12月18日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、学生1000円、中学生以下無料。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。

「禅ー心をかたちに」 東京国立博物館

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東京国立博物館・平成館
「臨済禅師1150年・白隠禅師250年遠諱記念 特別展 禅ー心をかたちに」
10/18~11/27



東京国立博物館・平成館で開催中の「特別展 禅ー心をかたちに」の特別内覧会に参加してきました。


「達磨像」 白隠慧鶴筆 江戸時代・18世紀 大分・萬壽寺

冒頭から大変な迫力です。白隠の「達磨像」が待ち構えています。高さは約2メートル。ぎょろりとした目で上の方を凝視しています。衣の線は自由でかつ太い。輪郭線は即興的です。堂々たる姿ながら、親しみやすくもあります。達磨はもちろん禅の初祖です。これほどシンボリック描いた達磨をほかに知りません。


国宝「慧可断臂図」 雪舟等楊筆 室町時代・明応5(1496)年  愛知・齊年寺

禅に因む絵画も名品揃いでした。雪舟の「慧可断臂図」(えかだんぴず)はどうでしょうか。岩窟の中で座禅を組むのが達磨。顔面の表現はリアルです。ただし表情は伺えません。手前の僧は神光、のちの慧可です。参禅が許されず、決意を示すために左腕を切り落としたというエピソードを描いています。確かに血塗られた腕を右手で抱えていました。苦悶しているようにも見えなくはありません。両者の間の距離は近いようで遠い。張り詰めた空気を感じました。

日本に禅宗が導入されたのは鎌倉時代のことです。南北朝時代の末には、現在の臨済宗の本山、全14寺が出揃いました。そうした臨済宗の開山や本山の寺宝の展示も充実。各寺が所蔵する肖像や墨跡などが紹介されています。


重要文化財「蘭渓道隆坐像」 鎌倉時代・13世紀 神奈川・建長寺

例えば建長寺の開山である蘭渓道隆です。由来の「蘭渓道隆坐像」は眼光が鋭い。瞳の部分のみに水晶板がはめ込まれています。裏には金泥の線も用いられているそうです。やや突き出た下唇をはじめ、こけた頬、ないし筋肉の表現も写実的です。迫真的とも呼べるかもしれません。


重要文化財「夢窓疎石像」 自賛 無等周位 南北朝時代・14世紀 京都・妙智院

夢窓疎石も知られているのではないでしょうか。天龍寺の開山です。物静かに佇む僧を細かな線で写しとっています。像主の特徴をありのままに捉えた優品として評価されているそうです。


重要文化財「九条袈裟」 無関普門所用 中国 元時代・13~14世紀 京都・天授庵

無関普門所用の「九条袈裟」も興味深い資料です。また臨済宗大徳寺派の一休宗純に関する展示も目を引きました。禅の歴史の一端を追うことも出来ます。

時代を進めましょう。戦国、江戸時代です。戦国の武将も禅に帰依。多くの禅僧と交流を持ちました。いわゆるブレーンとして参謀役を務めた僧も少なくありません。禅宗寺院も各大名の庇護を受けて繁栄しました。


「織田信長像」 伝狩野永徳筆 安土桃山時代・16世紀 京都・総見院

伝永徳の「織田信長像」がお出ましです。天正10年の信長葬の際に掛けられたとも言われています。大徳寺の真筆ほどの凄みはありません。ただそれでも眉間の細かな皺や切れ長の目から、深い思慮、ないし神経質な性格を伺えるのではないでしょうか。



各武将と禅僧の関係を示す解説パネルも有用でした。ともかく禅展には数多くの人物が登場しますが、パネルなりで一度、整理してから見ると理解も深まるかもしれません。


左:「乞食大燈像」 白隠慧鶴筆 江戸時代・18世紀 東京・永青文庫

白隠と仙厓に着目したコーナーがありました。ともに膨大な禅画を描き、時に各地を渡り歩いては、庶民にわかりやすい形で布教した名僧です。白隠では「達磨像」、「乞食大燈像」、さらに「円相図」と続きます。また仙厓の「花見図」も賑やかです。たくさんの人が宴を楽しんでいます。誰一人、花を見ている者がいません。賛は「楽しみハ花の下より鼻の下」とありました。「花より団子」は今も昔も変わりません。


「十大弟子立像」 鎌倉時代・13世紀 京都・鹿王院

禅宗寺院の仏像や仏画も各地からやって来ました。鹿王院の「十大弟子立像」が真に迫ります。老若の弟子たち。所作はもちろん、表情にも同じものがありません。何かを訴えかけるように立っています。幸いにも露出での展示でした。ぐるりと一周、360度の角度から鑑賞することが可能です。


重要文化財「達磨・蝦蟇・鉄拐図」 吉山明兆 室町時代・15世紀 京都・東福寺

吉山明兆の「達磨・蝦蟇・鉄拐図」も見応えがあります。達磨に道教の仙人の2名を組み合わせた3幅対の作品です。所蔵は東福寺。作者の明兆は同時で活動した禅僧でした。中央の達磨の存在感が際立ちます。達磨図としては日本最大でもあるそうです。


国宝「油滴天目」 中国 南宋時代・12~13世紀 大阪市立東洋陶磁美術館

禅は人々に思想だけでなく、絵画や喫茶においても様々な影響を与えました。禅宗の喫茶において重宝されたのは唐物です。国宝の「油滴天目」が展示されていました。銀色の細かな斑紋が器の内側に広がっています。やや強めの照明です。器の輝きを引き出しています。


国宝「瓢鮎図」 大岳周崇等三十一僧賛 大巧如拙筆 室町時代・15世紀 京都・退蔵院

伝牧谿の「芙蓉図」も美しい。水墨の微妙なニュアンスが花の生気を表現しています。大巧如拙の「瓢鮎図」も出展中です。水中で泳ぐのは鮎。それを男は瓢箪で捕まえようとしています。竹は僅かに風に吹かれているのでしょうか。実に流麗です。湿潤な空気が画面を満たします。山の稜線は霞んでいました。


重要文化財「呂洞賓図」 雪村周継筆 室町時代・16世紀 奈良・大和文華館

雪村の「呂洞賓図」も面白いのではないでしょうか。龍の頭の上に立つのが呂洞賓。右手に瓶を持っています。上にはもう一体の龍が空を駆けています。瓶の中から飛び出しました。力漲る一枚です。一瞬の動きを画面に封じています。まるでアニメーションを見ているかのようでした。


重要文化財「龍虎図屛風」 狩野山楽筆 安土桃山〜江戸時代・17世紀 京都・妙心寺

ラストは禅寺に伝わる障壁画です。うちとりわけ見事なのは妙心寺に伝わる狩野山楽の「龍虎図屏風」でした。東博で展示されるのは2009年の「妙心寺展」以来のことかもしれません。

右隻に颯爽と姿を現れたのが龍。大風が吹き荒れています。対峙するのが左隻の虎です。雌雄で2頭います。雄の虎は龍に向かって吠えたてて威嚇しています。牙もむき出しです。竹が大きくしなっていました。一方で雌の虎は何やら物静かな様で様子を伺っています。これほど迫力のある龍虎図はほかに見当たりません。


左:「鷲図」 伊藤若冲筆 江戸時代・寛政10(1798)年 エツコ&ジョー・プライスコレクション
右:「旭日雄鶏図」 伊藤若冲筆 江戸時代・18世紀 エツコ&ジョー・プライスコレクション

後期からは特別出品として若冲の作品が2点加わりました。「旭日雄鶏図」 と「鷲図」です。ともにプライスコレクション。若冲自身も禅と深く関わっていたことは良く知られています。かの傑作、「動植綵絵」を寄進したのも臨済宗の相国寺でした。


チームラボ「円相 無限相」の前に立つチームラボ代表猪子寿之氏

なおこの日は禅の「円相」をテーマとしたチームラボの新作の発表もありました。場所は平成館の1階のロビーです。書の筆跡が円を描いては消えていきます。同じ形は2度と現れません。

特別内覧会時に加え、再度、11月20日(日)の午後に観覧してきました。


座禅体験撮影コーナー

すると館内は盛況。最初の展示室は最前列確保のための僅かな列も発生していました。ただ全般的に流れはスムーズです。ほかは特に待つこともなく、じっくり見ることが出来ました。

早くも会期末です。最終盤はひょっとすると混み合うことがあるかもしれません。



50年に1度のスケールだそうです。展示替えも多く、巡回前の京都会場とも作品がかなり異なりますが、今回ほど大規模な禅の展覧会は当分望めそうもありません。

時間に余裕をもってお出かけください。11月27日まで開催されています。

臨済禅師1150年・白隠禅師250年遠諱記念 特別展 禅ー心をかたちに」 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:10月18日(火) ~11月27日(日)
時間:9:30~17:00。
 *会期中の金曜日および10月22日(土)、11月3日(木・祝)、5日(土)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し7月18日(月・祝)、8月15日(月)、9月19日(月・祝)は開館。7月19日(火)は休館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生900(700)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。

注)写真は特別内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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