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「ZOKEI NEXT50 東京造形大学の教育成果展」 アーツ千代田3331

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アーツ千代田3331・1階メインギャラリー
「ZOKEI NEXT50 東京造形大学の教育成果展」
11/12~11/27



アーツ千代田3331・1階メインギャラリーで開催中の「ZOKEI NEXT50 東京造形大学の教育成果展」を見てきました。

今年、創立50周年を迎えた東京造形大学。それを期しての卒業生によるグループ展です。参加するのは30代から40代を中心とするアーティスト。絵画や彫刻などが展示されています。


はしもとみお「羊のソーヴァ」 2011年

可愛らしいのははしもとみおの木彫です。モチーフはチンパンジーや羊。素材はクスノキでした。毛並みの質感が見事です。くるくると丸まった羊の毛も細かに表現されています。動物らは皆、どこか優しげな表情をしていました。名前も付いています。作者の動物に対する温かい眼差しも感じられるのではないでしょうか。


原田郁 展示風景

絵画と彫刻、さらに映像を合わせたインスタレーションを展開するのは原田郁です。先にコンピューターで架空の風景を描き、その景観の一部を絵画化。さらに彫刻として象っています。複雑に入り組みます。さも3D内の架空の世界に立ち入ったかのようでした。


佐藤翠「Royal blue closet」 2016年

ペインターの佐藤翠は絵画が3点。目立つのはクローゼットでした。中は青です。たくさんのハンガーがかかっています。衣服、あるいは何らかの布地も吊り下がっていました。上の棚にはハイヒールとバックも置かれています。筆触は大胆で荒々しい。本年の新作です。以前よりも幾分、抽象性が増しているようにも思えました。


高橋大輔「37」 2016年

「NEW VISION SAITAMA5」で圧巻の展示を見せた高橋大輔も東京造形大学の出身です。やや小さめの絵画が数点。もちろん厚塗りです。ただしどちらかといえば、絵具の盛りよりも、筆の即興的な動きに関心が向きました。スタイルは同じ地点にとどまりません。


瀬畑亮「セロフラワー オリジナル〜未完の花」 2011年〜

大きな花を模したオブジェがそびえ立ちます。瀬畑亮の「セロフラワー」です。ピンクの花をつけています。素材を知って驚きました。セロテープです。ひたすらにセロテープを巻きつけては立体におこしています。確かに足元に広がる白い地平も細かなセロテープで表していました。


Mrs.Yuki「Footprint」 2016年

ともに東京造形大学を卒業したユニット、Mrs.Yukiの「Footprint」も面白いのではないでしょうか。4面のパネルはいずれも黒い。湯気か煙とも言い難い、揺らぎを伴う線が象られています。素材はモルタルと墨汁でした。独特の質感を見て取れます。


「球体キャンバスドローイング」 *ワークショップにて制作

たくさんの球体が浮遊しています。その名も「球体キャンバスドローイング」です。制作は今年の8月。東京造形大学内で20個の球体のキャンバスにドローイングをするワークショップが行われました。

色もモチーフも様々。抽象に具象と問いません。曲面には描きにくいこともあったでしょう。大学内での展示の様子も映像で見ることが出来ました。


赤石隆明「Waste Park」 2016年

それにしても力作ばかり。出品者は絵画16名(ユニット1組)、彫刻5名です。作品数も多く、思いの外に見応えがありました。


末永史尚「折紙モール」 2015年

入場は無料です。11月27日まで開催されています。

「ZOKEI NEXT50 東京造形大学の教育成果展」 アーツ千代田3331@3331ArtsChiyoda) 1階メインギャラリー
会期:11月12日(土)~11月27日(日)
休館:会期中無休。
時間:12:00~20:00
料金:無料
場所:千代田区外神田6-11-14 アーツ千代田3331 1階
交通:東京メトロ銀座線末広町駅4番出口より徒歩1分、東京メトロ千代田線湯島駅6番出口より徒歩3分、都営大江戸線上野御徒町駅A1番出口より徒歩6分、JR御徒町駅南口より徒歩7分。

「YCC展示プログラム サウンド・アーティスト スズキユウリ」 YCCヨコハマ創造都市センター

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YCCヨコハマ創造都市センター1階ギャラリー
「YCC展示プログラム サウンド・アーティスト スズキユウリ」
11/21〜11/27



音をテーマに作品を制作するアーティスト、スズキユウリのミニ個展が、YCCヨコハマ創造都市センターにて行われています。


「ガーデン・オブ・ルッソロ」 2013年

まず目立つのはホーンのついた「ガーデン・オブ・ルッソロ」です。楽器のようにも見えますが、それ自体は音を出しません。むしろ逆です。音を吹き込む必要があります。ホーンに向かって声を発しましょう。すると音が加工されて返ってきました。ようは音の変換装置です。鑑賞者の働きかけによって音は変化します。時に雑音のようでもあり、またメロディーのようにも聞こえます。一定ではありません。


「オトト」 2013-2014年

バナナやレモン、そしてスプーンが楽器と化しました。「オトト」です。それぞれに電線でシンセサイザーが接続してあります。つまり電気を通すものであれば、何でも簡単に楽器に変えられるわけです。さもピアノの鍵盤を叩くように触れて音を出すことが出来ます。


「AR ミュージック・キット/トレイン・バージョン」 2016年

「オトト」しかり、スマホを装置に利用しているのもポイントです。話題のAR技術を用いたのは「AR ミュージック・キット/トレイン・バージョン」でした。木製の線路の上に積み木の汽車が走っています。汽車にはスマホを搭載。線路の内側にはReやMi、それにDoなどと記されたボードが置かれています。これはレやミ、ド。つまり音符です。その音符に反応してスマホから音楽が奏でられます。スタンドのボードは自由に差し替え可能です。音はユーザーの手に委ねられています。


「AR ミュージック・キット」 2016年

同じARを使った段ボールのギターもありました。原理は先のトレインと同様です。ギターの形を模した段ボールにはEやF、つまりギターコードが付いています。ギターを手にとってスマホに翳してみました。するとコードに対応した音が出ます。スマホのスピーカーながらも音は本格的です。ミュージシャン気分を手軽に味わえました。



出展数は3〜4点と僅かです。カフェ横の小さなスペースでの展示でした。界隈にお出かけの際に立ち寄るのが良いかもしれません。

入場は無料です。11月27日まで開催されています。

「YCC展示プログラム サウンド・アーティスト スズキユウリ」 YCCヨコハマ創造都市センター1階ギャラリー(@yokohama_ycc
会期:11月21日(月)〜11月27日(日)
休館:会期中無休。
時間:11:00~20:00。(最終日は18時まで)
料金:無料。
場所:横浜市中区本町6-50-1
交通:みなとみらい線馬車道駅1b出口、野毛・桜木町口・アイランドタワー連絡口より直結。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩5分。

「時代を映す仮名のかたち」 出光美術館

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出光美術館
「開館50周年記念 時代を映す仮名のかたちー国宝手鑑『見努世友』と古筆の名品」
11/19~12/18



出光美術館で開催中の「時代を映す仮名のかたちー国宝手鑑『見努世友』と古筆の名品」を見てきました。

平安から鎌倉、そして南北朝、室町へと至る時代ともに、仮名のかたちは常に変化しました。

冒頭は平安です。伝紀貫之の「高野切第一首」が出ています。905年に編纂された「古今和歌集」の最古の写本です。まるで星屑が散るような料紙に流麗な筆線が文字を象ります。線は細い。淀みがありません。時に掠れて消えそうになっています。優美かつ情感豊かでした。

10世紀頃から宮廷でも和歌が詠まれるようになったそうです。さらに平安末期には貴族だけでなく、官人層でも和歌活動を行うようになりました。繊細な書体が一般的でしたが、次第に力強さが求められるようになります。


「高野切第三種」(国宝手鑑「見努世友」の内) 伝紀貫之 平安時代 出光美術館

国宝の古筆手鑑「見努世友」は奈良から室町までに書写された歌集の断簡です。手鑑とは古筆切を収納したアルバムを意味します。伝道真による「華厳経」や伝貫之の「古今和歌集」などが収められています。書体が思いの外に多様でした。例えば藤原公任の「堺色紙」は溌剌。筆に勢いがあります。余白も効果的です。文覚上人の「書状切」は自由奔放でした。とらわれる面がありません。

鎌倉時代に入ると和歌の役割が変化します。武力を背景とした武家に対し、王族の権威として和歌が尊ばれるようになります。貴族らは歌会らの晴れの場にて和歌を詠むことが求められました。自詠でかつ自筆の機会が増えたそうです。書体も太く、めりはりのあるものが好まれました。


「広沢切」 伏見天皇 鎌倉時代 出光美術館

伏見天皇による「広沢切」はどうでしょうか。書は特に直線的で鋭い。筆圧も強く、文字は明瞭に浮かび上がります。同じく伏見天皇の「筑後切」にも目を奪われました。伏見院があえて書体に変化をつけて書写したとされる作品です。流麗でありながらも、筆には力強さがあります。料紙も煌びやかです。藍色の帯が上下に広がっています。実のところ書はなかなか読めませんが、料紙自体に美しい作品があったのも嬉しいところでした。

南北朝から室町にかけては継歌と短冊が流行したそうです。武家も歌壇に参入します。連歌や和漢連句の催しも盛んになりました。さらに室町後期には参会を伴わない紙の上だけの歌会も行われます。いわゆる揺り戻しということでしょうか。重厚でかつ豊麗な書も志向されたそうです。

室町後期の後柏原天皇(ほか)による「慈鎮和尚三百年忌和歌短冊帖」が目立っています。素早い筆触です。金と藍が入り混じる紙も雅やかでした。


「熊野懐紙」 後鳥羽天皇 鎌倉時代 京都国立博物館

出展は80点弱。大半は出光美術館のコレクションですが、京都国立博物館や宮内庁書陵部からも作品がやって来ています。


「表制集紙背仮名消息 巻四」 藤原為房妻 平安時代

解説も充実。一部作品はパネルで仮名を起こしています。和歌のスタイルと古筆の関係に着目した構成も特徴的です。素人の私でも見入るものがありました。

仮名を小声で読み上げながら鑑賞している方が多いのも印象的でした。やはり歌は読んでこそ生きるのかもしれません。

「日本の書/別冊太陽/平凡社」

12月18日まで開催されています。

「開館50周年記念 時代を映す仮名のかたちー国宝手鑑『見努世友』と古筆の名品」 出光美術館
会期:11月19日(土)~12月18日(日)
休館:月曜日。但し10月10日は開館。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜日は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。

「柳根澤 召喚される絵画の全量」 多摩美術大学美術館

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多摩美術大学美術館
「柳根澤 召喚される絵画の全量」 
9/25〜12/4



1965年に韓国に生まれた画家、柳根澤(ユグンテク)の回顧展が、多摩美術大学美術館で行われています。

チラシ表紙を飾る「Growing room」からして特異です。場所はおそらくマンションの一室。かなり広いリビングです。中央にはテーブルがあり、母子と思しき人物が食事をとっています。左の扉の奥は寝室かもしれません。ほか扇風機や時計、タンスなども部屋のあちこちに置かれています。日常と言えば日常です。一般的な生活の様子が描かれています。

しかしながら観葉植物の存在が凄まじい。場所を選びません。空間を埋めつくさんとばかりに生い茂っています。シャンデリアの吊り下がる天井にまで至っていました。もはや天地が反転したのでしょうか。家具や調度品に実在感があるのに対し、人の姿はまるで影絵です。リアリティーがありません。幻視という言葉が頭に浮かびました。独特のイリュージョンが広がっています。


柳根澤「Old Giant」 2012年

「Old Giant」も不思議な作品でした。やはり舞台は室内。床に広がるのは布団でしょうか。周囲にはピアノや家具が散乱しています。ただし布団の大きさからすれば小さい。ミニチュアかもしれません。部屋を支配するのは何と言っても象です。とてつもなく大きい。天井に背中をつけています。何故にこの部屋の中にいるのでしょうか。シュールです。現実を突き抜けています。


柳根澤「Your Everlasting Tomorrow」 2014年

奇景と呼べるかもしれません。「Your Everlasting Tomorrow」も面白い。荒々しい岩肌を背に広がるのは湖です。湖面には周囲の山や空の雲が写り込んでいます。と同時に家屋や家具などが浮いていました。ひょっとすると各々は別の空間にあるのかもしれません。異なったイメージが一つの絵画平面に落とし込まれています。


柳根澤「A Dinner」 2008年

「A Dinner」にも目が留まりました。ディナーとあるように夜の食卓でしょう。グレーの木目の床の上に大きなテーブルが一つだけ置かれています。たくさんの皿がセットされ、華やかな料理が盛られていました。何名分あるのでしょうか。ただし椅子はありません。食卓のみが光り輝き、糸のような筋が垂れてもいます。周囲は暗い。人の気配はまるでありません。異界とも呼べるかもしれません。なにやら不穏な気配を感じさせています。


柳根澤「自画像」 1999年 

元々、東洋画に学んだ柳は、制作に際して韓国に伝統的な画材を使用しています。紙は韓国紙です。そこに墨や胡粉、顔料などでモチーフを象っています。初期の筆触は激しく、時に墨を散らしては自画像を描きました。2000年頃から室内や食器、日常などを素材に「現実を凌駕する事物関係と空間性」(解説より)を伴う作品を発表するようになったそうです。

画肌が極めて個性的です。墨は掠れ、時に勢いよく走ったかと思うと、顔料は薄く紙に染み渡っては静謐な画面を作り出します。透明感もありました。一方で近作ではテンペラの技法を導入し、さも油絵かと見間違えるような力強い質感を引き出しています。驚くほどに多彩でした。



出品は新旧作をあわせて60点。近年の試みとしての映像も加わります。

韓国にこのような画家がいたとは初めて知りました。まだ見たことのない絵画世界が確かに存在しています。

12月4日まで開催されています。

「柳根澤 召喚される絵画の全量」 多摩美術大学美術館
会期:9月25日(土)~12月4日(日)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:一般300(200)円、大学・高校生200(100)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:東京都多摩市落合1-33-1
交通:京王相模原線・小田急多摩線・多摩都市モノレール線多摩センター駅から徒歩7分。

「浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術」 千葉市美術館

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千葉市美術館
「文人として生きるー浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術」
11/10~12/18



千葉市美術館で開催中の「文人として生きるー浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術展」を見てきました。

江戸時代の文人画家、浦上玉堂(1745〜1820)。千葉市美術館で玉堂の名を冠した展覧会が開かれるのは約10年ぶりのことです。

出品は計270点。途中に展示替えがありますが、大変なスケールです。また絵画のみならず、所縁の楽器や書簡などの資料も多数。初公開の作品も含みます。玉堂の幅広い業績を知ることが出来ました。


浦上秋琴「山水図(散歩多勝遊)」 明治3(1870)年 岡山県立美術館

さて本展、タイトルにもあるように、何も玉堂単独の回顧展ではありません。春琴、秋琴とは玉堂の子。兄弟です。春琴は中国画にも学び、後に花鳥画などで父を凌ぐほどの人気を得ます。弟の秋琴は主に音楽面で才能を発揮しましたが、晩年なって書画も嗜みました。

この父子の関係にも触れているのがポイントです。しかも春琴の作品が殊更に美しい。春琴の魅力に触れたのも大きな収穫でした。

玉堂の元々の職業は藩士です。岡山の鴨方藩、本姓は紀です。かの紀貫之にも連なる姓として誇りをもっていました。40歳の頃まで藩務に勤しみます。儒学や医学も学びました。その傍で詩作や音楽に打ち込んでいたそうです。50歳で脱藩。琴と筆を手にして、北は会津、南は長崎へと諸国漫遊の旅に出ます。この時、春琴は16歳で秋琴は10歳。ともに父の旅に同行しました。67歳から京都に居を構えます。春琴と同居して制作を続けました。

「七絃琴・琴嚢」は自作の琴です。また書にも精通。特に隷書を得意としていました。額の「心静」も見事です。文字は端麗で美しい。ほかほぼ唯一の画巻という「南山壽巻」も目を引きます。墨に朱を交えて野山を描いています。一部に藍色も混じっているのでしょうか。小さな点で畝を細かに表現していました。


浦上玉堂・秋琴「山水画帖より 浦上秋琴『山水図』」 寛政8(1796)年 個人蔵

「山水画帖」は玉堂、秋琴の合作です。玉堂は6枚を担当。秋琴は1枚を描いています。秋琴はこの時、まだ12歳です。父からも手習いを受けたのでしょう。素朴な筆触で水辺や柳を表していました。

玉堂は作品に自然の趣きをうたった4~5字ほどの詩句を記し、絵画表現に反映させていたそうです。また興味深いのは郭中画です。掛軸の画面を方形や円窓形、あるいは扇面に区切って書画を描いています。「秋色半分図」、「酔雲醒月図」、「隷體章句」、「深山渡橋図」の4幅も元は一枚の作品です。郭中画でした。叙情的な秋の景色が広がっています。


浦上春琴「名華鳥蟲図」 文政4(1821)年 岡山県立美術館

一方で子の春琴はどうでしょうか。「名華鳥蟲図」に目を奪われました。43歳の時の一枚。父を亡くして約1年後の作品です。見るも鮮やかな色彩美です。四季の花々を背景に鳥が飛び、あるいは蝶が舞っています。地面にはカマキリもいました。花は生気に満ちています。まるで楽園です。ほか長崎画に学んだという「花鳥画」をはじめ、光沢のある絹に季節の花を描いた「花卉図巻」も美しい。こうした可憐な花鳥画を前にすれば人気があったというのも納得させられます。


浦上春琴「春秋山水図屏風」(右隻) 文政4(1821)年 ミネアポリス美術館(バークコレクション)

春琴唯一の大作がアメリカのミネアポリス美術館からやって来ました。「春秋山水図屏風」です。右へ左へと連なる大パノラマ。中央には湖が広がっています。辺りを高い山脈が囲んでいました。ほぼ墨ながらも、一部に朱を加えていいる上、水の際などは青く塗っています。それゆえでしょうか。画面に透明感があります。清く明らかな光、ないし空気を感じました。


浦上春琴「蔬果蟲魚帖」 天保5(1834)年 泉屋博古館

「果蔬海客図」も面白い。魚に貝、そして野菜や果物などを写実的に描いています。魚の鱗も丸い筆遣いで描写。茄子のヘタの部分を濃くするなど、質感表現にも抜かりありません。

秋琴は70歳を過ぎてから本格的に書画を初めたこともあり、父、そして兄の作品に比べると多くはありません。まさしく三者三様です。親子はもちろん、同時代の画家との関係にも言及しています。想像以上に見応えがありました。

さて今回の展覧会で久々に強い感銘を受ける作品に出会いました。それが玉堂の「東雲篩雪図」です。川端康成の旧蔵品の国宝です。ただともかく出品会期は短い。公開は僅か6日間のみでした。実際のところ既に展示は終了しています。


国宝 浦上玉堂「東雲篩雪図」 川端康成記念会 *11/22~11/27のみ展示

極感の冬景色です。一面には粉雪が舞い、全てが凍りついています。木々は寒さに打ち震えていました。山に雪が積もり、辺りには黒い雲も迫っています。庵には人の姿も見えますが、険しい自然の恐ろしさばかりが伝わってきます。その緊張感といったら比類がありません。

何たる深淵な世界なのでしょうか。さらに墨の筆触も自在。滲まない墨を駆使しているそうですが、もはや墨自体が魂を得たかのように生動しています。図版ではまるで分かりませんでしたが、このような墨の質感を見たのは初めてでした。


重要文化財 浦上玉堂「煙霞帖のうち『青山紅林図』」 梅澤記念館

図録が重量級です。東博の日本美術の特別展クラスです。資料性も高く、永久保存版となりそうです。

12月18日まで開催されています。まずはおすすめします。

「文人として生きるー浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術」 千葉市美術館@ccma_jp
会期:11月10日(木)~12月18日(日)
休館:9月26日(月)、10月3日(月)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *前売券は千葉都市モノレール千葉みなと駅、千葉駅、都賀駅、千城台駅の窓口、及びローソンチケット、セブンチケットで会期末日まで販売。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。

12月の展覧会・ギャラリー

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早いもので今年もあと一ヶ月です。12月に見たい展覧会を挙げてみました。

展覧会

・「風景との対話 コレクションが誘う場所」 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館(~12/25)
・「拝啓 ルノワール先生ー梅原龍三郎に息づく師の教え」 三菱一号館美術館(~2017/1/9)
・「世界に挑んだ7年 小田野直武と秋田蘭画」 サントリー美術館(~2017/1/9)
・「発信//板橋//2016 江戸ー現代」 板橋区立美術館(2016/12/3~2017/1/9)
・「レオナール・フジタとモデルたち」 DIC川村記念美術館(~2017/1/15)
・「北斎の帰還ー幻の絵巻と名品コレクション」 すみだ北斎美術館(~2017/1/15)
・「デトロイト美術館展~大西洋を渡ったヨーロッパの名画たち」 上野の森美術館(~2017/1/21)
・「国立劇場開場50周年記念 日本の伝統芸能展」 三井記念美術館(~2017/1/28)
・「日本におけるキュビスムーピカソ・インパクト」 埼玉県立近代美術館(~2017/1/29)
・「アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち」 東京都写真美術館(2016/12/13~2017/1/29)
・「セラミックス・ジャパン 陶磁器でたどる日本のモダン」 渋谷区立松濤美術館(2016/12/13~2017/1/29)
・「未来を担う美術家たち 19th DOMANI・明日展」 国立新美術館(2016/12/10~2017/2/5)
・「日本画の教科書 京都編ー栖鳳、松園から竹喬、平八郎へ」 山種美術館(2016/12/10~2017/2/5)
・「endless 山田正亮の絵画」 東京国立近代美術館(2016/12/6~2017/2/12)
・「マリメッコ展ーデザイン、ファブリック、ライフスタイル」 Bunkamura ザ・ミュージアム(2016/12/17~2017/2/12)
・「石川直樹展」 水戸芸術館(2016/12/17~2017/2/26)
・「画と機 山本耀司・朝倉優佳」 東京オペラシティアートギャラリー(2016/12/10~2017/3/12)

ギャラリー

・「山口晃 室町バイブレーション」 ミヅマアートギャラリー(~12/17)
・「伊藤隆介 天王洲洋画劇場」 児玉画廊|天王洲(~12/24)
・「榎本了壱コーカイ記」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(~12/24)
・「鈴木理策 Mirror Portrait」 タカ・イシイギャラリー東京(~12/24)
・「Unclear nuclear」 URANO(~2017/1/7)
・「南隆雄:Difference Between」 オオタファインアーツ(2016/12/6~2017/1/14)
・「トランス/リアルー非実体的美術の可能性 vol.6 文谷有佳里」 ギャラリーαM(2016/12/17~2017/2/4)
・「戸谷成雄 森X」 シュウゴアーツ(2016/12/16~2017/2/5)
・「WASHI 紙のみぞ知る用と美」 リクシルギャラリー (2016/12/8~2017/2/25)
・「曖昧な関係展」 メゾンエルメス(2016/12/21~2017/2/26)

私として今月、最も期待している展覧会です。アピチャッポン・ウィーラセタクンの個展が東京都写真美術館で開催されます。

「アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち」@東京都写真美術館(2016/12/13~2017/1/29)

タイに生まれ、主に映像表現で活躍する作家、アピチャッポン・ウィーラセタクン。カンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した「ブンミおじさんの森」や、今年公開された「光りの墓」などでも知られています。

『光りの墓』予告編


国内では2011年の横浜トリエンナーレにも参加。以降、作品に接する機会がやや減りましたが、最近ではさいたまトリエンナーレや横浜美術館の「BODY/PLAY/POLITICS」にも出展しました。

キーワードは「亡霊=Ghost」。アピチャッポン作品の重要なモチーフでもあります。独特の世界観に触れられる展示となりそうです。

色鮮やかなチラシも目を引くのではないでしょうか。フィンランドのデザインハウス、マリメッコの展示がBunkamura ザ・ミュージアムではじまります。



「マリメッコ展ーデザイン、ファブリック、ライフスタイル」@Bunkamura ザ・ミュージアム(2016/12/17~2017/2/12)

マリメッコは1951年、ヘルシンキで創業したアパレル企業です。衣服だけでなく、生活雑貨など、鮮やかでかつ抽象性のあるデザインで人気を博しています。ヘルシンキにあるデザイン・ミュージアムのコレクションによる国内初の大規模な展覧会となります。

何かと忙しない12月ではありますが、諸々工夫して展覧会を見て回りたいと思います。

それでは今月もよろしくお願い致します。

「あなたが選ぶ展覧会2016」 エントリー集計結果

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皆さんの1年の展覧会を振り返ろうと進行中の「あなたが選ぶ展覧会2016」。多くの方が展覧会をエントリーして下さいました。どうもありがとうございました。



「あなたが選ぶ展覧会2016」
http://arttalk.tokyo/

受付は11月25日に終了。今年は最大で5展ということもあり、昨年よりも多くの展覧会がノミネートされました。全部で50展。実際には同数のエントリーがあったため、計55の展覧会がランクインしました。

ここに発表致します。「あなたが選ぶ展覧会2016」、エントリーの集計結果は以下の通りです。

[あなたが選ぶ展覧会2016 エントリー集計結果]

1.「若冲展」 東京都美術館
2.「カラヴァッジョ展」 国立西洋美術館
3.「鈴木其一 江戸琳派の旗手」 サントリー美術館
4.「ルノワール展」 国立新美術館
5.「ジョルジョ・モランディー終わりなき変奏」 東京ステーションギャラリー
5.「ゴッホとゴーギャン展 」 東京都美術館
7.「ボッティチェリ展」 東京都美術館
7.「村上隆のスーパーフラット・コレクション」 横浜美術館
7.「ダリ展」 国立新美術館、京都市美術館
10.「クラーナハ展ー500年後の誘惑」 国立西洋美術館
11.「俺たちの国芳 わたしの国貞」 Bunkamura ザ・ミュージアム
12.「杉本博司 ロスト・ヒューマン」 東京都写真美術館
12.「没後40年 高島野十郎展」 目黒区美術館
14.「福井移住400年記念 岩佐又兵衛展」 福井県立美術館
14.「速水御舟の全貌ー日本画の破壊と創造」 山種美術館
14.「トーマス・ルフ展」 東京国立近代美術館
17.「ポンピドゥー・センター傑作展」 東京都美術館
18.「原安三郎コレクション 広重ビビッド」 サントリー美術館
18.「アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィアルネサンスの巨匠たち」 国立新美術館
20.「英国の夢 ラファエル前派展」 Bunkamura ザ・ミュージアム
21.「臨済禅師1150年 白隠禅師250年遠諱記念 禅ー心をかたちに」 東京国立博物館
21.「メアリー・カサット展」 横浜美術館
23.「生誕140年 吉田博展」 千葉市美術館
23.「没後100年 宮川香山」 サントリー美術館
23.「木々との対話」 東京都美術館
26.「初期浮世絵ー版の力・筆の力」 千葉市美術館
26.「開館50周年記念 美の祝典」 出光美術館
26.「安田靫彦展」 東京国立近代美術館
29.「黄金のアフガニスタンー守りぬかれたシルクロードの秘宝」 東京国立博物館
29.「ルイ・ヴィトンの真髄を辿る 驚きに満ちた旅」 旅するルイ・ヴィトン展特設会場
29.「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」 埼玉県立近代美術館
29.「いま、被災地からー岩手・宮城・福島の美術と震災復興」 東京藝術大学大学美術館
29.「MIYAKE ISSEY展 三宅一生の仕事」 国立新美術館
29.「古代ギリシャー時空を超えた旅」 東京国立博物館
35.「土木展」 21_21 DESIGN SIGHT
36.「PARIS オートクチュールー世界に一つだけの服」 三菱一号館美術館
36.「奥村土牛ー画業ひとすじ100年のあゆみ」 山種美術館
36.「はじまり、美の饗宴展 すばらしき大原美術館コレクション」 国立新美術館 
36.「円山応挙『写生』を超えて」 根津美術館
36.「デトロイト美術館展」 上野の森美術館
36.「ほほえみの御仏ー二つの半跏思惟像」 東京国立博物館
42.「柳幸典 ワンダリング・ポジション」 BankART Studio NYK
42.「国宝 信貴山縁起絵巻展」 奈良国立博物館
42.「恩地孝四郎展」 東京国立近代美術館
42.「水ー神秘のかたち」 サントリー美術館
42.「Chim↑Pom『また明日も観てくれるかな?』」 歌舞伎町振興組合ビル
42.「世界遺産 ラスコー展」 国立科学博物館
42.「村上隆の五百羅漢図展」 森美術館
42.「生誕150年 黒田清輝ー日本近代絵画の巨匠」 東京国立博物館
42.「大妖怪展ー土偶から妖怪ウォッチまで」 江戸東京博物館
42.「メディチ家の至宝ールネサンスのジュエリーと名画」 東京都庭園美術館
42.「驚きの明治工藝」 東京藝術大学大学美術館
42.「ビアトリクス・ポター生誕150周年 ピーターラビット展」 Bunkamura ザ・ミュージアム
42.「DMM.プラネッツ Art by teamLab」 お台場みんなの夢大陸2016
42.「大仙厓展ー禅の心、ここに集う」 出光美術館

如何でしょうか。一次集計の段階でのベスト3は若冲、カラヴァッジョ、其一でした。そしてルノワール、モランディ、ゴッホとゴーギャン、ボッティチェリと続きます。現代美術では村上隆のスーパーフラット・コレクションが最も票を集めました。また昨年、ランクインした五百羅漢図展は今年もノミネートされました。

東京都内の展覧会が多い中、上位に福井県立美術館の岩佐又兵衛展が入っているのが目を引きます。また美術館での開催ではない旅するルイヴィトンもランクインしました。西洋、日本、そして現代美術と様々な展覧会が挙がっています。

この55の展覧会の中から皆さんにベスト10を最終投票の形で選んでいただきます。今回はお一人様一票のみです。投票は本日スタート。投票フォームも開設しました。もちろん一次エントリーに参加されていない方の投票も大歓迎です。来年1月の結果発表のWEBイベントの参加如何も問いません。どなたでもハンドルネームでお気軽に投票出来ます。(エントリー段階の票数も最終のWEBイベントで発表します。)

最終投票フォーム:http://arttalk.tokyo/vote/kiyoki_admin.cgi

一次エントリーの段階では多くの方に各展覧会へのコメントを頂戴しました。そちらも出来るだけライブイベントでご紹介したいと思います。

「あなたが選ぶ展覧会2016 イベントスケジュール」

1.エントリー受付
今年観た展覧会で良かったものをまず順位不同で1から5つあげていただきます。
*11月25日の18時に締め切りました。

2.ベスト50展発表
エントリーしていただいた数多くの展覧会の中から、上位50の展覧会を12月1日に発表します。

3.ベスト展覧会投票
50の展覧会の中から、さらにベストの展覧会を選んでいただきます。皆さん投票して「あなたが選ぶ展覧会2016 ベスト展覧会」を決定しましょう。投票は2017年1月1日(日)の6時まで。

4.ベスト展覧会決定
最終的な投票結果や投票で1位となった展覧会の発表は、年明けにライブのwebイベントを開催して発表する予定です。



WEBのライブイベントは1月上旬の土日祝日を予定しております。決まり次第、改めてお知らせします。

最終投票フォーム:http://arttalk.tokyo/vote/kiyoki_admin.cgi

昨年はエントリー段階と最終投票でランクがやや変化しました。一体、どのような展覧会が今年のベストに選ばれるのでしょうか。まずは多くの方の投票をお待ちしております。

[あなたが選ぶ展覧会2016 イベント概要]
開催期間:2016年11月~2017年1月
エントリー受付期限:11月25日(金)18時 *終了しました。
上位50展発表:12月1日(木)
ベスト展覧会投票期間:12月1日(木)~1月1日(日)6:00
最終投票フォーム:http://arttalk.tokyo/vote/kiyoki_admin.cgi
「あなたが選ぶ展覧会2016」発表ライブイベント:2017年1月頃(決まり次第お知らせします)
*ゲストをお呼びし、WEB上のライブで発表します。

「ゴッホとゴーギャン展」 東京都美術館

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東京都美術館
「ゴッホとゴーギャン展」 
10/8~12/18



東京都美術館で開催中の「ゴッホとゴーギャン展」を見てきました。

ともにフランスのポスト印象派の画家であるゴッホとゴーギャンは、1888年、南仏のアルルで約2か月ほどの共同生活を送りました。

その2人の画家の関係に焦点を当てています。出品は68点。ファン・ゴッホ美術館やクレラー=ミュラー美術館などの海外からも作品がやって来ました。

さて展示は何も共同生活だけを捉えているわけではありません。初期から共同生活以降の作品も網羅。両者の画風の変遷を追うことも出来ました。


フィンセント・ファン・ゴッホ「古い教会の塔、ニューネン(農民の墓地)」 1885年5-6月
ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)

冒頭は30代前半のゴッホです。「古い教会の塔、ニューネン」が目にとまりました。時は1885年。画家となる決意をしてから5年後に描いた作品です。ニューネンは両親が住んでいました。教会は古びていて人気がありません。既に廃墟です。空こそグレーに水色が混じるものの、建物の色は暗く、暗鬱な雰囲気を漂わせています。周囲は十字架のある墓地です。空には鳥が舞っています。ゴッホは当初、ミレーやコローらのバルビゾン派に学びました。後の色彩や筆触とは似ても似つきません。


ポール・ゴーギャン「夢を見る子供(習作)」 1881年
オードロップゴー美術館

同じく30代です。ゴーギャンの「夢を見る子供」が微笑ましい。第7回の印象派展に出品。モデルは娘のアリーヌです。子供が白いシーツの寝台の上で眠っています。背を向けていて表情は伺えません。壁紙は鳥です。幾分に装飾的です。筆触は全般的に柔らかい。ゴーギャンも初期にはバルビゾン派の影響を受けましたが、ピサロと出会ったことで、印象派的な表現を選択するに至りました。


フィンセント・ファン・ゴッホ「パイプと麦わら帽子の自画像」 1887年9-10月
ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)

チラシ表紙しかり、とかく自画像のイメージもあるゴッホですが、意外にも1886年にパリの画塾で学ぶまで、一枚も自画像を描きませんでした。パリでは印象派や新印象派に学びます。その一端を伺える作品ではないでしょうか。「パイプと麦らわ帽子の自画像」です。ゴッホがパイプを加えています。服は鮮烈な水色です。そして帽子は黄色く明るい。筆触も大胆です。変容しました。率直なところ、先の「古い教会の塔」と同じ画家とは思えません。


ポール・ゴーギャン「マルティニク島の風景」 1887年6-11月
スコットランド国立美術館

1886年、パリを離れ、ポン=タヴェンに赴いたゴーギャンは、より「野性的」でかつ「原始的」(解説より)な土地を目指すようになります。その一つがカリブ海のマルティニク島です。1887年の6月に滞在。「マルティニク島の風景」を描きました。高くそびえるのはパパイヤの樹です。火山を囲む眼下には青い海が広がっています。木立の色は各々の面に分割されています。ざわめく筆触、ないし色彩感が絶妙です。11月には帰国。そしてゴッホと出会いました。

ゴッホがパリを離れたのは1888年2月。アルルに移住します。かの有名な黄色い家を借り、アトリエを構えました。そして10月からはゴーギャンも合流します。2人の生活が始まりました。


フィンセント・ファン・ゴッホ「収穫」 1888年6月
ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)

美しき田園が広がっています。ゴッホの「収穫」です。元来より種まきや刈入れなど、小麦の栽培をモチーフにしていたゴッホは、アルルにおいても同様に収穫の様子を描きました。水色の明るい空の下、小麦畑が黄金色に染まっています。収穫に勤しむ人々の姿も見えます。パノラマです。雄大でもあります。


ポール・ゴーギャン「ブドウの収穫、人間の悲惨」 1888年11月
オードロップゴー美術館

ゴーギャンも同じく収穫をテーマとした作品を描きました。「ブドウの収穫、人間の悲惨」です。後方にはブドウを収穫する場面が表されています。とはいえ、前景は様子が一変。何やら女性が両手を顔に当てては悲しみに暮れています。ペルーのミイラのポーズだそうです。実景と空想が同一の空間に落とし込まれています。

損保ジャパン日本興亜美術館でお馴染みの「アリスカンの並木道」もお目見えです。(東京会場限定)照明の効果でしょうか。西新宿で見るよりもオレンジ色が遥かに際立って見えました。

性格の不一致、ないし芸術観の違いもあったことでしょう。結果的に共同生活は破綻。ゴッホは例の耳切り事件で入院します。ゴーギャンはパリに帰りました。

生活こそ袂を分かちながらも、二人の間の交流は全て失われたわけではありません。以降も画家のベルナールを加え、書簡を通す形にて交流が続いていきます。


ポール・ゴーギャン「ハム」 1889年後半
フィリップス・コレクション

同じ年に描かれた静物でもまるで表現が異なります。例えば1889年の2枚、ゴッホの「タマネギの皿のある静物」とゴーギャンの「ハム」はどうでしょうか。ゴッホはテーブル上のパイプ、それにタマネギなどを、黄色を基調とした明るいタッチで描いています。一転してのゴーギャンです。赤く、ワイン色に染まったハムがごろり。ジューシー、言い換えれば肉感的な質感も伝わります。やや古典的にも見えました。マネの影響を受けたとも言われています。

療養中のゴッホの作品は時に特異です。タッチがうねるのが「オリーブ園」です。木々もざわめいては揺らぎ、もはや景色全体が歪んでいます。青い幹、黒く濃い輪郭線も不気味な印象を与えないでしょうか。共同生活から僅か1年後、ゴッホは自殺を図り、息を引き取りました。


ポール・ゴーギャン「タヒチの3人」 1899年
スコットランド国立美術館

ラストはゴーギャンのタヒチでの展開です。「タヒチの3人」が象徴的でした。こんがりと焼け、オレンジ色の肌をした人物が3名。後ろ姿は男性です。左の女性は左手に青いリンゴを持っています。禁断の果実を表します。一方で右の女性は花を持っています。背後の色はもはや何を示しているか判然としません。現実と幻想はより大胆な形で表現されました

最後を飾る作品が意外な一枚でした。「肘掛け椅子のひまわり」です。ひまわりといえばゴッホ。しかしゴーギャンの作品です。ゴッホの死から11年経った1901年に描かれました。


ポール・ゴーギャン「肘掛け椅子のひまわり」 1901年
E.G. ビュールレ・コレクション財団

言うまでもなくゴッホへの追憶でしょう。残念ながら今回はゴッホのひまわりの作品は一枚もありません。いつか並べて見る機会があればと思いました。

今回はゴーギャンの作品が殊更に美しく見えたのが印象的でした。画風は洗練されています。ほか、ミレー、ルソー、ベルナール、セリュジエなど、2人にまつわる画家の作品も参照されていました。

11月第4週の日曜の昼過ぎに出かけましたが、会場内は混雑していました。特に初めの展示室は黒山の人だかりです。一部では最前列確保のための行列も発生していました。

会期も残り約半月です。最終盤はさらに多くの人で賑わうのではないでしょうか。公式ツイッターアカウント(@ggten2016)が混雑情報を発信しています。そちらも参考になりそうです。



12月18日まで開催されています。

「ゴッホとゴーギャン展」(@ggten2016) 東京都美術館@tobikan_jp
会期:10月8日(土)~12月18日(日)
時間:9:30~17:30
 *入館は閉館の30分前まで。
 *毎週金曜日、および10月22日(土)、11月2日(水)、11月3日(木)、11月5日(土)は20時まで開館。
休館:月曜日。10月11日(火)。10月10日(月・祝)は開館。
料金:一般1600(1300)円、大学生・専門学校生1300(1100)円、高校生800(600)円、65歳以上1000(800)円。高校生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。

オランジュリー美術館にて「ブリヂストン美術館の名品ー石橋財団コレクション展」が開催されます

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2019年秋のオープンを目指して建替え中のブリヂストン美術館。今だからこそ実現可能な企画かもしれません。石橋財団のコレクションが、パリ・オランジュリー美術館にて公開されます。



ブリヂストン美術館
http://www.bridgestone-museum.gr.jp

会期は来年4月5日から8月21日まで。出品は計76点です。かつてオランジュリー美術館と「ドビュッシー、音楽と美術展」を開催。その縁からフランス側の提案で実現しました。


ピエール=オーギュスト・ルノワール「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」 油彩・カンヴァス 1876年
石橋財団ブリヂストン美術館

ラインナップが充実しています。モネ、ルノワー ル、カイユボット、セザンヌ、マティス、ピカソ、ポロックから白髪一雄など同館の誇る作品がずらり。洋の東西を問いません。特にルノワールの「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」やセザンヌの「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」など、コレクションの中でも殊更に有名な作品も少なくありません。


ポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」 油彩・カンヴァス 1904-06年頃
石橋財団ブリヂストン美術館

今から50年以上前、1962年にも石橋コレクションが海を渡ったことがありました。パリの国立近代美術館で開催された「東京石橋コレクション所蔵 コローからブラックへ至るフランス絵画展」です。言うまでもなく初の海外展。当時の出展数は約50点でした。タイトルが示すように全て西洋絵画のコレクションで占められていました。


青木繁「海の幸」 油彩・カンヴァス 1904年
石橋財団ブリヂストン美術館

今回はその後に増えた収蔵品も紹介。さらに日本の近現代美術も加わります。中でも重要文化財である青木繁の「海の幸」が海外で公開されるのは初めてのことです。

オランジュリー美術館としても海外のコレクションをまとめて展示するのは珍しいことだそうです。日仏、石橋正二郎とポール・ギヨームらの美術収集家が築き上げたコレクションの邂逅。印象派が日本の美術に与えた影響についても着目します。話題を集めるのではないでしょうか。


(仮称)永坂産業京橋ビル ビル外観イメージ
株式会社日建設計

さて建替え中のブリヂストン美術館ですが、既に旧ビルの解体も終え、今年の6月に着工。2019年7月末の竣工を目指して工事が行われています。


建替え工事の状況(12/4現在)

ビルは全23階、150メートルの高層ビルです。1階から6階にブリヂストン美術館が入居します。また入口は八重洲通り側ではなく、中央通り沿いへと移動します。


新ブリヂストン美術館 外観イメージ

1階がエントランスとカフェ、2階にミュージアムショップ、3階に受付と多目的ホール、4階~6階に展示室が設置されるそうです。


新ブリヂストン美術館 展示室イメージ

延べ床で約6650平方メートル。展示室の面積は2100平方メートルです。旧美術館の約2倍のスペースとなります。

休館中の間もウェブでは様々なコンテンツが進行しています。全7回予定の「学芸員が選ぶ隠れた名作」はNO.5まで公開中。デュビュッフェの「スカーフを巻く エディット・ボワソナス」や川上涼花の「麦秋」など、比較的展示機会の少なかった作品について紹介しています。

恒例のカレンダーも発売されました。2017年のテーマは「海」です。日本と西洋の海に因んだ絵画がピックアップされています。



1月は名作、モネの「黄昏、ヴェネツィア」でした。色彩がヴィネツィアの海と街と空をのみ込みます。2月は青木繁の「わだつみいろこの宮」です。さらに3月はクレーの「島」と続きます。必ずしも海を直接描いた作品だけではなく、神話主題や海を喚起させる抽象画までを取り込んでいるのも面白いところです。



「海 2017 CALENDAR」
http://www.bridgestone-museum.gr.jp/special/calendar/

カレンダーは同館の公式オンラインショップで発売中です。また特設サイトには1月から12月までの全図版と解説も掲載されています。



「ブリヂストン美術館」オンラインストア
http://www.bridgestone-museum.gr.jp/onlinestore/

オープン後の活動も待ち遠しいところですが、休館中の展開にもまた注目したいところです。

「ブリヂストン美術館の名品ー石橋財団コレクション展」はオランジュリー美術館にて2017年4月5日より開催されます。

「Chefs-d’œuvre du Bridgestone Museum of Art de Tokyo, Collection Ishibashi Foundation」(ブリヂストン美術館の名品ー石橋財団コレクション展)
会期:2017年4月5日(水)~8月21日(月)
会場:オランジュリー美術館(パリ)
点数:76点
監修:オランジュリー美術館 学芸員 セシル・ジラルドー/ブリヂストン美術館 学芸課長 新畑泰秀、学芸員 賀川恭子
主催:オルセー美術館、オランジュリー美術館、公益財団法人石橋財団
協力:日本経済新聞社
特別助成:株式会社ブリヂストン
協力:日本航空

「2017年 見逃せない美術展」 日経おとなのOFF

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締めくくりの12月。1年を振り返りながらも、そろそろ来年の展覧会の情報が欲しい時期です。「日経おとなのOFF」の最新号にて「2017年 見逃せない美術展」が特集されています。



「日経おとなのOFF2017年1月号」
http://trendy.nikkeibp.co.jp/off/index.html

巻頭で大きく取り上げられたのは「バベルの塔」です。言うまでもなくブリューゲルの最晩年の傑作。来年4月の「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル バベルの塔」(東京都美術館)で展示されます。(国立国際美術館へ巡回。)期待されている方も多いのではないでしょうか。

続くのは「スラヴ叙事詩」でした。ミュシャがチェコとスラヴの歴史を描いた大作です。最大では6メートル×8メートル。その数、20点です。全て揃って来年3月の「ミュシャ展」(国立新美術館)で公開が予定されています。もちろん初めての来日です。



思いの外に読み物として充実していました。例えば「バベルの塔」では「名画で辿る旧約聖書の創世記」と題し、各物語を絵画とともに紹介。中野京子先生の監修によるギリシャ神話の特集や、スラヴ叙情詩の全場面解説なども読み応えがあります。展覧会の予習にもぴったりでした。

以降は、暁斎、アルチンボルド、雪村、そしてアドルフ・ヴェルフリをピックアップ。いずれも来年、話題となりそうな展覧会ばかりです。



「日本美術鑑賞のツボ」も興味深い。茶碗、仏像、古文書、そして何かと話題の日本刀の見どころをそれぞれ紹介しています。茶碗では樂家当代の樂吉左衛門氏にインタビューしているほか、仏像では運慶・快慶に着目し、東博の学芸部の浅見氏が解説。古文書の「解読術」も専門的です。突っ込んだ内容でした。

「知られざる美術展の舞台裏」では、三菱一号館美術館の高橋明也館長が展覧会の準備についてガイドしています。ほかでは、必ずしも身近とは言えない美術品の修復や搬送などについてのコーナーも目を引きました。



山下裕二先生と山田五郎さんの対談も来年の美術展の展望するのに有用です。そしておまけは3点。美術展名画カレンダーと若冲のクリアファイル、さらに2017年の展覧会を網羅した美術展ハンドブックが付いています。何かと重宝しそうです。



ハンドブックに掲載された展覧会は興味深いものばかりですが、あえて私のセレクトで15展ほどあげてみました。

「特別展 雪村」@東京藝術大学大学美術館(3/28〜5/21) *MIHO MUSEUM(8/1〜9/3)
「草間彌生 わが永遠の魂」@国立新美術館(2/22〜5/22)
「シャセリオー展ー19世紀フランス・ロマン主義の異才」@国立西洋美術館(2/28〜5/28)
「特別展 快慶」@奈良国立博物館(4/8〜6/4)
「特別展 茶の湯」@東京国立博物館(4/11〜6/4)
「ミュシャ展」@国立新美術館(3/8〜6/5)
「大英自然史博物館展」@国立科学博物館(3/18〜6/11)
「ヴォルスー写真、絵画、エッチング」(仮称)@DIC川村記念美術館(4/1〜7/2)
「ブリューゲル バベルの塔展」@東京都美術館(4/18〜7/2) *国立国際美術館(7/18〜10/15)
「怖い絵展」@兵庫県立美術館(7/22〜9/18) *上野の森美術館(10/7〜12/17)
「アルチンボルド展」@国立西洋美術館(6/20〜9/24)
「ボストン美術館 浮世絵名品展 鈴木春信」@千葉市美術館(9/6〜10/23) *名古屋ボストン美術館(11/3〜2018/1/21)ほか巡回。
「長沢芦雪展」@愛知県美術館(10/6〜11/19)
「特別展 運慶」@東京国立博物館(9/26〜11/26)
「特別展覧会 国宝」@京都国立博物館(10/3〜11/26)

いかがでしょうか。おそらく最も注目されるのはミュシャ、そしてバベル、アルチンボルドです。日本美術ではまず快慶と運慶。奈良と東京での2会場での開催です。さらに蘆雪や雪村も控えます。草間彌生の個展も人気を集めそうです。



既にアナウンスがありながら、ハンドブックには載っていないものもありました。以下も私が今から楽しみにしている展覧会です。

「藤森照信展ー自然を生かした建築と路上観察」(仮題)@水戸芸術館(3/11~5/14)
「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」@東京国立近代美術館(3/14~5/21)
「安藤忠雄展ー挑戦」@国立新美術館(9/27~12/18)
「レアンドロ・エルリッヒ展」(仮題)@森美術館(11/18〜2018/4/1)
「石内都 肌理(きめ)と写真」@横浜美術館(12/9~2018/3/4)

この「日経おとなのOFF」と、来年1月発売予定の「美術の窓」(2月号)の「今年の展覧会」特集で、ほぼ一年間の展覧会のスケジュールを把握することが出来ます。まずは書店でお手にとってご覧下さい。

「日経おとなのOFF/2017年絶対に見逃せない美術展」

「日経おとなのOFF2017年1月号」 日経BP社(2016/12/6) 目次一覧(一部)
[2017年絶対に見逃せない美術展]
 ・ブリューゲルの傑作「バベルの塔」がやって来る
 ・ギリシャ神話を知れば名画がもっと楽しくなる
 ・ミュシャ「スラヴ叙事詩」って何だ?
 ・世界ビックリ画家選手権(ボス、暁斎、アルチンボルド、雪村、ヴェルフリ)
 ・江戸時代の人気絵師対決!(京VS江戸)
 ・西洋に浸透した北斎の底力
 ・コレクターたちの草間彌生論
 ・ライバルズ!すごいのはどっち?(レオナルドVSミケランジェロ)ほか
 ・日本美術鑑賞のツボ(茶碗/仏像/日本刀/古文書)
 ・科博は「芸術」を超えたアート館だ(大英自然史博物館VS国立科学博物館)
 ・知られざる美術展の舞台裏(高橋明也三菱一号館美術館館長)
 ・美術展のウラ側
 ・井上涼さんに教わる 目からウロコの美術館賞術
 ・2017年にヒットする美術展はどれだ!(山田五郎×山下裕二)
 ・3大付録(若冲クリアファイル/2017年名画カレンダー/必見の美術展ハンドブック)

「東京・TOKYO 日本の新進作家vol.13」 東京都写真美術館

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東京都写真美術館
「東京・TOKYO 日本の新進作家vol.13」
2016/11/22~2017/1/29



現代の写真家をグループ展の形で紹介する「日本の新進作家」も、今回で13回目を数えるに至りました。

出展は6名。テーマは漠然と東京です。あまりにも巨大な東京を一括りにするのは困難ですが、各写真家は私的な関心、もしくは表現をもって、多層的な東京の断面を切り取っています。

[出展作家]
小島康敬
佐藤信太郎
田代一倫
中藤毅彦
野村恵子
元田敬三


中藤毅彦「STREET RAMBLER」 2015年

街の何気ない風景を素早く捉えました。中藤毅彦です。いずれもモノクローム。「STREET RAMBLER」と名付けられた53点の連作です。喧騒に包まれた交差点をはじめ、古いアーケードの商店街や裏路地などを舞台としています。夜の街に特有の妖しげな雰囲気を感じたのは私だけでしょうか。光と影のコントラストが鮮やかでした。写真の粒子は荒く、ざらりとした感触が伝わってきます。一瞬、森山大道を連想しましたが、また異なった魅力がありました。


佐藤信太郎「2016年5月15日 台東区浅草」 2016年

スカイツリーの景観をモチーフとしたのが佐藤信太郎です。題して「東京|天空樹」です。いわゆる定点観測でしょうか。建設途上のスカイツリーもあります。写真はほぼ遠景です。墨田区や葛飾区などの城東エリアから写しています。いずれもスカイツリーがビルの合間、ないし家屋、そして川の先に突如、ぬっと現れていました。空気が澄み渡っているゆえか、ネオンサインも際立ちます。東京の一つの顔と化したスカイツリーです。とりわけ三社祭で賑わう浅草寺越しのツリーが映えて見えました。


野村恵子「A Day in The Life」 2016年

野村恵子は都市の色彩を写し取りました。出品は「A Day in The Life」シリーズ。35点の連作でした。例えば上の図版です。季節はもちろん春。目黒川の満開の桜並木です。橋の上で女性がポーズを取っています。橋は赤色です。さらにぼんぼりのピンク色、服の花柄の色も介在しています。また夕景を捉えた一枚にも目がとまりました。夜になる僅か一歩手前の時間です。全てが藍に染まっています。マンションや家々から僅かな光が放たれていました。あと数分で黒、ないし闇が支配することでしょう。

私として最も面白かったのが元田敬三でした。2つの連作、「OPEN CITY」と「ツッパルな」を展示しています。


元田敬三「ツッパルな」 2105年

タイトルが殊更に長いのも特徴です。一つには「2011年、新宿、西口デパート前、西陽のスポットライトを浴びてスターになったおじさん。撮影交渉するも断られたのでキヨスクへダッシュ、タバコと缶ビールを持って再度交渉。そして乾杯。」と記されています。実に雄弁です。そして作品を見ると確かにおじさんが写っていました。なにやら得意げで妙にカッコいい。タイトルが情景を物語ることで臨場感がより増すのかもしれません。

被写体との関係は様々です。近しく、親密感があるかと思うと、ただならぬ緊張感が漂っているように思える場面も少なくありません。モデルと全力で対峙しています。東京に行き交い、生きる人々の、生身でかつ剥き出しの意思が滲み出しているかのようでした。

「東京|天空樹/佐藤信太郎/青幻舎」

なお写真美術館ではあわせてコレクション展も開催中です。こちらもテーマが東京です。東京をいかに写し、東京でいかに表現したのでしょうか。写真家の取り組みを知ることが出来ました。

2017年1月29日まで開催されています。*1月2日(月・振休)は無料観覧日。

「東京・TOKYO 日本の新進作家vol.13」 東京都写真美術館@topmuseum
会期:2016年11月22日(火)~2017年1月29日(日)
休館:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日休館。1月3日は開館)。及び年末年始(12/29~1/1)。
時間:10:00~18:00 *毎週木・金曜日は20時まで。(入館は閉館の30分前まで。)2014/1/2/、1/3は11:00~18:00。
料金:一般700円(560円)、学生600円(480円)、中高生・65歳以上500円(400円)
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *第3水曜日は65歳以上無料。
 *1月2日(月・振休)は無料観覧日。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。

「BODY/PLAY/POLITICS」 横浜美術館

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横浜美術館
「BODY/PLAY/POLITICS」 
10/1~12/14



身体の生み出すイメージをテーマとした、国内外の6名の現代美術家による展覧会が横浜美術館で行われています。

「椿姫」のヴィオレッタのアリアが鳴り響いていました。インカ・ショニバレMBEの「さようなら、過ぎ去った日々よ」です。同オペラでもとりわけ有名な一曲を黒人の歌手が歌っています。しかしながらアリアはワンフレーズのみ。劇は遅々として進みません。


手前:インカ・ショニバレMBE「蝶を駆るイベジ(双子の神)」 2015年
奥:インカ・ショニバレMBE「さようなら、過ぎ去った日々よ」 2011年

歌手の衣装はアフリカのドレスでした。作家自身もロンドンに生まれ、ナイジェリアで生活。アフリカ更紗はアイデンティティの象徴ながらも、多くをヨーロッパからの輸入品に頼っているそうです。「椿姫」には5つの歴史的絵画の引用がありました。また宙に浮くオブジェ、「蝶を駆るイベジ」はナイジェリアに因んだモチーフです。ヨーロッパとアフリカの文化や歴史の複雑な関係を表現しています。

東南アジアの女性の幽霊であるポンティアナックがモチーフにしていました。イー・イランの「ポンティアナックを思いながら」です。映像は約23分。いずれも長い髪で顔を隠した女性が並んでいます。


イー・イラン「ポンティアナックを思いながら:曇り空でも私の心は晴れ模様」 2016年

モデルは20~30代のマレーシア人です。台本はなし。自由に会話させたそうです。夫との関係や出産ないし、性の話題などが赤裸々に語られます。但し個は特定されません。東南アジアの女性の抱える様々な問題が浮き上がってきます。


アピチャッポン・ウィーラセタクン「炎(扇風機)」 2016年

神々しいまでの迫力でした。アピチャッポン・ウィーラセタクンです。タイトルは「炎(扇風機)」。大きなスクリーンに扇風機が数台、回転しながら燃える様子が映し出されています。バチバチ、あるいはゴウゴウと音を立てては、黄色く眩しい炎をあげていました。その光景自体も美しい。扇風機の風でさらに炎が勢いを増したかと思えば、一方で消えてしまいそうになることもあります。松明を連想しました。扇風機という器械を用いながらも、古代の儀式を前にしているような気にさせられます。


ウダム・チャン・グエン「ヘビの尻尾」 2015年

バイクがホーチミン市内を駆け抜けます。ウダム・チャン・グエンの「ヘビの尻尾」です。集団で力強く走るバイクの編隊。ベトナムでは一般的な原付バイクです。いずれも排気口にカラフルなビニールチューブがついています。走り出すとさも龍のごとくに尾を振り回しました。ダンサーも加わります。街にさらなる色、動き、ないし血が通いました。どこか祝典的です。賑やかな祭りのようでした。


石川竜一「portraits 2013-2016」 2013-2016年

石川竜一は「portraits 2013-2016」において初めて沖縄を含めた日本各地の人々を撮影しました。一人、あるいは二人、何気ない街角でポーズを取る人たち。奇抜なファッションをしていたと思えば、ごく一般的な格好をしている人もいます。舞台はほぼ都市です。しかも雑踏が多い。それぞれにおいてありのままの日常、そして個々の身体そのものが切り取られています。

その奥の2点の連作が秀逸でした。(撮影不可)ともにポートレートです。舞台は石川の出身地である沖縄。より被写体に近しい。コミュニケーションも密です。それゆえでしょうか。何かを訴えかけるような心の内面が滲み出していました。

ラストは田村友一郎です。舞台は横浜。必ずしも全てが現代ではありません。戦中、ないし終戦後の占領下の横浜です。GHQの管轄に入り、アメリカ人がやって来ました。


田村友一郎「裏切りの海」 2016年

中央には3台のビリヤードがあります。アメリカ兵が持ち込んだものかもしれません。うち2台には横浜の地図が記されていました。また港町のバーを模したソファやクリスマスツリーなども置かれています。終戦後の横浜の雰囲気を引き寄せています。


田村友一郎「裏切りの海」 2016年

そこへ三島由紀夫の小説「午後の曳航」や、米兵の肉体に魅せられたという少年の回想、さらには近年に横浜で起きた殺人事件などを交差させています。横浜の肉体を巡る物語。ただし全ての情報は断片的です。それが緩やかに関連し合います。振り返れば世界は「小さな断片」(解説より)ないし出来事で繋がっているということなのかもしれません。


林保次郎「MM21ミレニアム」 2000年

企画展に続くコレクション展が充実していました。かなりの横浜しばりです。名付けて「描かれた横浜」。文字通り、横浜を描いた作品ばかりが展示されています。


石渡江逸「(横浜)柳橋の月」 1931年

中でも石渡江逸の木版が美しい。戦前の横浜の風情を今に伝えています。


手前:熊井恭子「叢生99」 1999年
奥:下村観山「小倉山」 1909年

熊井恭子の「叢生99」越しに見る下村観山の「小倉山」もより映えて見えました。近年に収蔵された作品も少なくありません。

会場内は一部の作品を除いて撮影が可能でした。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの規約の元、SNSなどでも私的に利用が出来ます。

12月14日まで開催されています。

「BODY/PLAY/POLITICS」 横浜美術館@yokobi_tweet
会期:10月1日(土)~12月14日(水)
休館:木曜日。但し8月11日(木・祝)は開館。
時間:10:00~18:00
 *10月28日(金)は20:30まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1400)円、大学・高校生1000(900)円、中学生600(500)円。小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体。要事前予約。
 *毎週土曜日は高校生以下無料。
 *当日に限り、横浜美術館コレクション展も観覧可。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口から徒歩5分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩約10分。

「デトロイト美術館展」 上野の森美術館

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上野の森美術館
「デトロイト美術館展」
2016/10/7~2017/1/21



アメリカの公立美術館で初めて公開されたゴッホの作品は、チラシの表紙を飾る「自画像」でした。

デトロイト美術館の誇る西洋絵画コレクションがやって来ました。出品は52点。上野の森のスペースは満たしていますが、点数自体は必ずしも多くありません。うち15点は日本初公開でした。

月曜、ないし火曜日は全ての作品の撮影が出来ます。(但し、一部はSNSヘの掲載が禁止されています。)


ピエール・オーギュスト・ルノワール「座る浴女」 1903-1906年

ルノワールの3点がいずれも優品です。目立つのは「座る浴女」でした。画家の得意とする裸婦像です。足を組んでは、左手でブロンドの髪をたくし上げています。豊満な肉体を余すことなく見せています。うっすらピンク色を帯びた肌も美しい。顔は赤らんでいます。モチーフこそヴィーナス、あるいはニンフを思い起こさせますが、あくまでも健康的な女性を表現しています。


ピエール・オーギュスト・ルノワール「肘掛け椅子の女性」 1874年

「肘掛け椅子の女性」も魅力的でした。女性が一人、腕を組みながらソファーに腰をかけています。白い肌は眩しい。強い光を感じました。タッチは一見、大胆ですが、腕や頬の部分の色は細かく変化しています。ニュアンスに富んでいました。


エドガー・ドガ「女性の肖像」 1877年

印象派で最も多いのはドガの4点です。「女性の肖像」はどうでしょうか。黒いドレスに身を包んだ夫人が座っています。モデルはオペラ座の踊り子のマロとも言われているそうです。とすれば若い女性のはずです。何故に年齢を上げて描いたのでしょうか。解説に「物思い」とありましたが、私には何かを達観したような表情にも見えました。貫禄は十分です。色の構成が巧みです。ドレスの黒、そして背後のエメラルドグリーン、さらには花の紫や白などがせめぎあっています。

続くのはポスト印象派です。セザンヌが多くを占めていますが、ここは何と言っても目玉のゴッホでしょう。例の「自画像」、ないし日本初公開となる「オーワズ川の岸辺、オーヴェールにて」が展示されています。


フィンセント・ファン・ゴッホ「自画像」 1887年

「自画像」はアルルへ移る1年前に描かれた作品です。黄色い麦わら帽子をかぶるゴッホ。顔は赤らみ、血色が良い。水色の服を着ています。暗い色調を脱した明るい色彩です。一見するところ不穏な気配はありません。

ただしばらく見ていると、右目しかり、眼窩の奥から覗き込む目、言い換えれば強い視線に、どことなく狂気的なものを感じてなりませんでした。しかも右の耳が際立って赤い。もちろん関係はありませんが、いかんせん耳切り事件を連想してしまいます。


フィンセント・ファン・ゴッホ「オワーズ川の岸辺、オーヴェールにて」 1890年

自殺の数ヶ月前に制作されたのが「オーワズ川の岸辺、オーヴェールにて」です。極めて厚塗りです。水面は青でモザイク状に塗り固められ、背後の木立もまるで苦しむかのようにうねっています。これぞ最晩年のゴッホです。光こそ満ちていますが、景色は大きく歪んでいました。


モーリス・ドニ「トゥールーズ速報」 1892年

ドニの「トゥールーズ速報」が力作です。広告ポスターを絵画に表現しました。主役は赤い花柄のドレスを着た女性です。これ見よがしに新聞を広げています。構図自体は幾分装飾的です。髪型は古代ギリシア神話のヘルメスを模しています。いわば神々の伝令ならぬ、情報の伝達係でしょうか。そこへ人々が群がります。手を振り上げて新聞を欲していました。都市の喧騒、ないし熱気も伝わってくるのではないでしょうか。

さてチラシはゴッホ、またサブタイトルにもモネ、ルノワールなどとあるように、ともすると印象派推しの展覧会のようにも思いがちですが、実際のところ点数で最も多いのはピカソです。そして何よりも20世紀のドイツ絵画が充実していました。

例えばカンディンスキー、ノルデ、キルヒナー、ベックマンにココシュカ。主に1910年前後から30年頃の作品です。全部で12点でした。


エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー「月下の冬景色」 1919年

キルヒナーの「月下の冬景色」が鮮烈です。雪に覆われた青い山脈が連なり、赤い木が空を突いています。月は太陽のように明るい。黄色です。オレンジ色の空が広がっています。よく見ると家屋もあります。山肌は切り子状に裂かれています。稜線は刺々しくもありました。筆触、色遣いともに激しい。画家は不眠症に悩まされていたそうです。アトリエからの光景とのことですが、もはや奇景と言って良いかもしれません。画家の心象を反映しているのではないでしょうか。


エミール・ノルデ「ヒマワリ」 1932年

同じく心象といえばノルデの「ヒマワリ」も忘れられません。やや首を傾げた向日葵が2輪。枯れる間際かもしれません。黄色い花びらの部分よりも、黒、ないしこげ茶に染まった種の方がより際立っています。背後もやや暗い。この頃、ノルデは深刻な病に侵されていたそうです。生命力はあまり感じられません。

ほか、ココシュカの「エルベ川、ドレスデン近郊」やデックスの「自画像」、それにカール・シュミット=ロットロフの「雨雲、ガルダ湖」などにも惹かれました。ちなみに一連のドイツ絵画は、ドイツ人の美術史家で、1924年にデトロイト美術館の館長に就任したヴィルヘルム・R・ヴァレンティナーが直接指揮して購入したものです。ノルデにキルヒナーやココシュカはナチスに退廃芸術の烙印を押された画家です。破壊された作品も少なくありません。しかしデトロイトでは難を逃れます。今でも「アメリカで最良」(解説より)のドイツ表現主義美術コレクションとして評価されているそうです。

実際に私として最も発見が多かったのがドイツ絵画のセクションでした。一つのハイライトと言っても差し支えありません。

ラストはフランス絵画です。ピカソの1点を除けば、全てが20世紀初頭です。マティス、モディリアーニ、スーティンらの作品が並んでいます。


アンリ・マティス「ケシの花」 1919年頃

マティスの2点が殊更に魅惑的でした。1点は「ケシの花」です。白と青い花器に飾られたケシの花。黄色いグラジオラスとともに生けられています。背後は屏風です。花の絵のようにも見えます。ケシはとても大きくて瑞々しい。色彩は華やいでいました。


アンリ・マティス「窓」 1916年

「窓」キュビズムの影響下の作品です。アトリエの室内風景を描いています。窓の線やテーブル、椅子の線が交差します。ラジエーターの輪郭線と椅子の線が重なります。空間は右奥の窓の外へとのびています。床のジグザグ模様もリズミカルでした。全体をねずみ色の色調で覆っています。アメリカで初めて公共美術館に収蔵されたマティス画だそうです。


ディエゴ・リベラ「デトロイトの産業」(複製) 1932-1933年

入り口外にはディエゴ・リベラの「デトロイトの産業」の複製が掲げられていました。デトロイト美術館の中庭の壁画です。大きさは複製よりも大きく、高さ5メートル超、幅は13メートルにも及びます。デトロイトの自動車製造がモチーフです。多くの労働者らが機械を前に忙しなく働いています。ダイナミックです。

2013年のデトロイト市の財政破綻により美術館は一時、存続の危機を迎えました。一時はコレクションの売却という話もあったそうです。その後、各方面からの援助により存続。今も美術館としての機能を果たしています。

「デトロイトの産業」は現地でなければ目に出来ません。一度は実物を見る機会があればと思いました。

月曜の午後に観覧してきましたが、撮影可能日ということで、会場の至る所でスマホのシャッター音が鳴っていました。撮影に興味がない、あるいは音が気になるという方は、水曜から日曜の間に出かけるのが良さそうです。


ワシリー・カンディンスキー「白いフォルムのある習作」 1913年

年末年始を含み、以降の休館日はありません。2017年1月21日まで開催されています。

「デトロイト美術館展」@DIA_JPN) 上野の森美術館
会期:2016年10月7日(金)~2017年1月21日(土)
休館:10月21日(金)。
時間:9:30~16:30
 *毎週金曜日、及び10月22日(土) は20時まで開館。
  *入場は閉館30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学・高校生1200(1000)円、小学・中学生600(500)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅徒歩5分。京成線京成上野駅徒歩5分。

「マリー・アントワネット展」 森アーツセンターギャラリー

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森アーツセンターギャラリー
「ヴェルサイユ宮殿《監修》 マリー・アントワネット展ー美術品が語るフランス王妃の真実」
2016/10/25~2017/2/26



「マリー・アントワネット展の集大成」とのコピーに誇張はありません。森アーツセンターギャラリーで開催中の「マリー・アントワネット展ー美術品が語るフランス王妃の真実」を見てきました。

ヴェルサイユ宮殿の監修だからでしょうか。考証、構成ともに綿密です。出展も多数。全200件です。絵画、工芸、装身具ほか、彫像、さらに手紙など、マリー・アントワネットに因んだ、ありとあらゆる資料がフランスからやって来ています。

絵画の大半は肖像画です。マルティン・ファン・マイテンス(子) の「1755年の皇帝一家の肖像」にいたのは、まだ赤ん坊のマリー・アントワネットでした。中央の揺りかごにいるのがアントワネット。たくさんの子どもたちが集っています。アントワネットは神聖ローマ皇帝フランツ1世とマリア=テレジアの11番目の子として生まれました。


フランツ・クサーヴァー・ヴァーゲンシェーン「チェンバロを弾くオーストリア皇女マリー・アントワネット」 1770年以前
ウィーン美術史美術館

幼い頃から音楽の才能を発揮します。師はオペラ改革で知られる古典派の音楽家、グルックでした。フランツ・クサーヴァー・ヴァーゲンシェーンは「チェンバロを弾くオーストリア皇女マリー・アントワネット」にてチェンバロへ向き合うアントワネットを描きました。場所は宮殿の一室です。たくさんの絵画が飾られています。アントワネットは明るい水色のドレスを着ています。譜面に手を添えていました。実に優雅です。どこか得意気にポーズを取っているようにも見えました。

アントワネットは14歳でルイ15世の孫の王太子、後のルイ16世と結婚しました。「王太子の結婚祝いのテーブル飾り」は文字通り、結婚の祝いのための飾りです。王立セーヴル磁器製作所が制作しました。長さは3メートルです。祝宴の夜に行われたヴェルサイユ宮のオペラ劇場の落成式で披露されました。白い素焼きの陶器です。トルコブルーの大理石がはめ込まれています。まさしく豪華の一言です。後に商人に売却。一度、分解されましたが、19世紀末に幾つかのパーツを用いて作り直されました。


王立セーヴル磁器製作所「ルイ=シモン・ボワゾに基づく『王家の祭壇』」 1775年頃
ヴェルサイユ宮殿美術館

夫のルイ16世が即位したのは1775年。時にルイ16世は20歳、アントワネットは19歳でした。その年に作られたのが「ルイ=シモン・ボワゾに基づく王家の祭壇」です。国王夫妻はともに王冠をかぶっています。衣装はフランク風。古いフランスを称揚するためです。表情は朗らかで屈託がありません。自信に満ち溢れています。

肖像で目立つのはエリザベト=ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブランの作品でした。言わずと知れたアントワネットのお抱えの画家です。王室の信頼は厚く、アントワネットだけでなく王族や家族の肖像画を数多く描きました。


エリザベト=ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブラン「フランス王妃 マリー・アントワネット」 1785年
ヴェルサイユ宮殿美術館

うち最大級なのが「フランス王妃マリー・アントワネット」でした。高さは2メートル70センチ超。アントワネットがサテンのドレスをこれ見よがしに広げています。堂々たる姿です。手には花を持っていました。なお本作はル・ブラン作とされるものの、王室の模写画家が共同で制作に参加したと考えられています。それでも大変な力作です。出来栄えにはアントワネット自身も満足したのではないでしょうか。


エリザベト=ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブラン「ゴール・ドレスを着たマリー・アントワネット」 1783年頃
ワシントン・ナショナル・ギャラリー

同じくルブランの「ゴール・ドレスを着たマリー・アントワネット」も美しい。ドレスは一転してシンプル。装身具もありません。「女羊飼い風」と呼ばれたそうです。しかしながら当時、下着姿を描かせたとの悪評が広がります。そのためにサロンから運び出されてしまいます。結果的に同じポーズによる新たな肖像画が描かれました。


ルイ・オーギュスト・ブラン、通称ブラン・ド・ヴェルソワ「狩猟をするマリー・アントワネット」 1783年頃
ヴェルサイユ宮殿美術館

アントワネットは乗馬も得意としていました。その様子を表しているのがルイ・オーギュスト・ブランの「狩猟をするマリー・アントワネット」です。舞台は野山。狩猟の一場面です。猟犬を従えながら馬に横乗りしています。軽やかで颯爽と駆けています。アントワネットの側にいる人物は小姓です。王妃の日傘を手にしています。後景には一人の騎士の姿も垣間見えます。ルイ16世と考えられているようです。

王妃に関する装飾品の展示も充実しています。そもそもアントワネット自身、宮殿の装飾に強い関心を持っていました。よって数多くの高級家具などを注文。かなりの金額を注ぎ込みます。それも結果的に国家財政を危機に陥らせる一つの要因となりました。

流行を踏まえて趣味も変化していきます。当初はトルコ趣味と中国趣味、つまりシノワズリーに染まります。ついで新古典趣味にも惹かれていきました。花と真珠のモチーフを特に好んだそうです。

日本の漆器も収集しています。全70点、うち一部が会場で紹介されていました。元は母のマリア=テレジアの死に際し、50点の漆器が遺贈されたことに由来します。その飾り棚の制作をお気に入りの職人、ジャン=アンリ・リズネーに依頼します。愛でて楽しんだのでしょうか。私室で大切に保管していたそうです。


王立セーヴル磁器製作所「豪華な色彩と金彩の」食器セット 1784年
ヴェルサイユ宮殿美術館

ほか工芸ではアントワネットのセーヴル磁器の食器セットも華麗でした。さらに細かな金の装飾の付いた置時計なども艶やかです。アントワネットのゴージャスな生活の一端が伺えました。


「プチ・アルトマン再現展示」(居室)

ハイライトは「プチ・アパルトマン」の再現展示です。場所はベルサイユ宮殿の中央棟の1階です。ルイ16世の叔母、マダム・ソフィーの没後、空室となっていたスペースに、浴室、図書室、居室の3室からなるプライベートなアパルトマンを構えました。もちろん家具も同時に発注。一度、納品されるも、気にいらなかったため、再び新たな家具を注文します。相当に熱が入っています。


「プチ・アルトマン再現展示」(居室)

「王妃の肘掛け椅子」は当時、実際に使われた椅子です。装飾はエトルリア風。流行していた古代趣味を踏まえています。ほかシャンデリア、整理ダンス、寝台も全てアントワネットが作らせたオリジナルでした。(居室のみ撮影が可能です。)

白を基調としたのが浴室です。室内装飾も精巧に再現しています。かの時代の空気を感じられるのではないでしょうか。なお図書室のみ、映像制作やプロジェクションマッピングで知られるNAKEDによるバーチャルリアリティでした。

後半は革命へのプロセスです。アントワネットに浪費家というイメージを定着させた首飾り事件にはじまり、1789年のバスティーユ襲撃やヴェルサイユ行進へと至ります。ルイ16世一家はヴェルサイユを離れ、チュイルリー宮殿へと移住。パリ市民の管理下に置かれました。その後の1791年、ルイ16世一家は逃亡を企てます。しかし失敗。タンプル塔に投獄され、囚われの身と化します。さらに翌年にはチュイルリー宮も襲撃されます。君主政は終わりを告げました。


ウィリアム・ハミルトン「1793年10月16日、死刑に処されるマリー・アントワネット」 1794年
ヴィジル、フランス革命美術館

ラストは処刑、すなわちギロチンです。死刑台へ向かうアントワネットを捉えたのがウィリアム・ハミルトンです。題して「1793年10月16日、死刑に処されるマリー・アントワネット」。白い部屋着を着たアントワネットが後ろ手を縛られています。全てを諦めたのか天を仰いでいました。殺気立つのは群集です。兵士たちが何とか制止しています。まさに最後の瞬間を捉えた一枚です。劇的ではないでしょうか。


アレクサンドル・クシャルスキ「タンプル塔のマリー・アントワネット」
ヴェルサイユ宮殿美術館

アントワネット死後についても言及があります。例えばアレクサンドル・クシャルスキの「タンプル塔のマリー・アントワネット」です。白いヴェールの喪服姿。ルイ16世の死を悼んでいます。温和な表情をしていました。元は未完のパステル画に着想を得ているそうです。その後、一時制作が中断するも、習作を元に再開。クシャルスキの手によって描かれました。この肖像は数多くの模写が残っているそうです。というのも、歴史の揺れ戻し、つまり王政復古後は、アントワネットが君主制の殉教者として崇拝の対象となったからです。イコンのように扱われたのかもしれません。

全12章。森アーツのスペースを細かに区切っています。そのためか全般的に流れが良くなく、人が滞留せざるをえない箇所もありました。作品数を鑑みると、会場が狭かったかもしれません。

場内は大変に盛況でした。ひょっとすると会期後半は入場規制がかかるかもしれません。

会期中のお休みはありません。2017年2月26日まで開催されています。

「ヴェルサイユ宮殿《監修》 マリー・アントワネット展ー美術品が語るフランス王妃の真実」@marie_ntv) 森アーツセンターギャラリー
会期:2016年10月25日(火)~2017年2月26日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~20:00
 *但し火曜日および10月27日(木)は17時まで。
 *入館は閉館時間の30分前まで。
料金:一般1800(1600)円、高校・大学生1200(1000)円、小学・中学生600(400)円。未就学児は無料。
 *( )内は15名以上の団体料金
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。

自由に選べる「2017年国立美術館オリジナルカレンダー」

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今年も残すところあと3週間ほど。そろそろ来年のカレンダーを購入する方も多いかもしれません。



「国立美術館オリジナルカレンダー」
https://www.comody.jp/nma/

各美術館も趣向を凝らしたカレンダーを発売していますが、図柄を自由に選べるものは殆どありません。そこで嬉しいのが国立美術館オリジナルカレンダーです。国立美術館のコレクションのうち140点から好きな作品を選んでカレンダーを作ることが出来ます。



「独立行政法人国立美術館」
http://www.artmuseums.go.jp

国立美術館とは、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館、国立新美術館の計5館。作家も国内外を問いません。また絵画だけでなく、写真や工芸、さらには美術館の内観や外観の写真も網羅しています。

カレンダーは昨年から発売されましたが、今年は選べる作品がさらに増えました。特に世界遺産を記念し、国立西洋美術館の写真が多く加わったようです。

 

注文は簡単です。まずは国立美術館オリジナルカレンダーの販売サイトにアクセス。壁掛けと卓上の2種類です。また壁掛けは各月12点を選ぶものと、2ヶ月ずつ6点選ぶタイプがあります。



私は12作品を選ぶ壁掛けタイプをセレクト。その後はWEB上でサムネイルを参照しながら、12点を決定する流れです。サムネイルは拡大可能。また先に画像を選び、ドラック&ドロップで12月分を並べ替えることも出来ます。サイト自体の使い勝手は良く、スムーズに選ぶことができました。



さてオリジナルのカレンダーです。一人で選ぶのも良いかもしれませんが、色々あれこれ言いながら複数で決めるのも面白いのではないでしょうか。今回はリビングに飾るつもりだったので、いつもお世話になっている妻と一緒に選ぶことにしました。

まずは私が選んだ作品です。



1月 上村松園《舞仕度》 1914年 京都国立近代美術館
1年のはじまりは華やいだモチーフを。まさにハレの日。菊模様の振袖で舞を披露する。座敷を包む和やかな雰囲気にも惹かれました。

2月 ピエト・モンドリアン《コンポジション》 1929年 京都国立近代美術館
気がつくといつの間にか終わってしまう2月。モンドリアンの緊張感のある色面で色々と気を引き締めたい。

3月 竹内栖鳳《春雪》 1942年 京都国立近代美術館
春の気配を感じさせるとはいえ、まだまだ寒い日々も続く3月。ここはあえて冬を惜しむべく雪の舞う栖鳳画を選びました。

4月 小林古径《極楽井》 1912年 東京国立近代美術館
一転の春爛漫の4月。井戸から湧き水をすくう少女たち。着物の柄も花の美しさに負けません。

5月 パウル・クレー《花ひらく木をめぐる抽象》 1925年 東京国立近代美術館
闇からモザイク状に広がる色とりどりの花々。不思議とネオンサインのようにも見えなくはない。花も街も活気付く5月にふさわしい一枚かと思いました。

6月 クロード・モネ《睡蓮》 1916年 国立西洋美術館
モネの代名詞睡蓮。涼しげな水面に咲き誇る。蒸し暑い日が続く6月こそ見つめていたい。

7月 古賀春江《海》 1929年 東京国立近代美術館
海。海水浴。日差し。夏を強烈にイメージさせる一枚。

8月 ジョゼフ・ヴェルネ 《夏の夕べ、イタリア風景》 1773年 国立西洋美術館
夏の長い1日の夕暮れ、晩夏を思わせるような夕焼けが目に染み込みます。時空を超えた理想風景。どことなく郷愁も覚えました。

9月 ニコラ・ド・スタール 《アグリジェントの丘》 1954年 国立国際美術館
見るたびに惹かれるスタール。馴染み深いのは東京国立近代美術館の「コンポジション(湿った土)」ですが、なかったのでこちらをセレクト。輝かしい色彩美。冴えるような水色の空はまだ夏色でした。

10月 下村観山《木の間の秋》 1907年 東京国立近代美術館
観山の代表作。雑木林が広がる中に秋草が絡み合います。いつのながらに抱一の夏秋草を連想。僅かに黄金色を帯びた光が木立を満たします。これぞ日本の秋の風景。

11月 ヴィルヘルム・ハンマースホイ《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》 1910年 国立西洋美術館
うなじを見つめた画家ハンマースホイ。寒々とした室内空間にひんやりした冷気を感じます。

12月 クロード・モネ《雪のアルジャントゥイユ》 1875年 国立西洋美術館
一年の締めくくりの12月。とぼとぼと歩く人の後ろ姿が寂しげ。サーモンピンクに染まる雪色が美しい。

ついで妻が選んでくれた図柄です。コメントももらいました。



1月 ピーテル・ブリューゲル(子)《鳥罠のある冬景色》 国立西洋美術館
大寒、一年でいちばん寒い時期。氷が張り、中世のあの寒さを思い起こせるかも。鳥の罠から、一年の始めだからこそ、気を引き締めて罠にかからないように、願いをこめて。

2月 ダンテ・ガブリエル・ロセッティ 《愛の杯》 1867年 国立西洋美術館
バレンタインデーゆえに、愛の杯を交わしてみては。なんだか色々と初々しい記憶を思い出しました。

3月 パウル・クレー《花ひらく木をめぐる抽象》 1925年 東京国立近代美術館
花開く時期にはふさわしい、素敵な春の宵を思い起こさせる絵画。御舟の(山種)桜をモザイクにしたような??

4月 ピエール・ボナール《坐る娘と兎》 1891年 国立西洋美術館
イースターだから、かわいいうさぎさんと、女の子。(うさぎも、たぶん女の子も多産のシンボル?)素敵なものをたくさんクリエイトできますように。

5月 フィンセント・ファン・ゴッホ《ばら》 1889年 国立西洋美術館
五月の薔薇は、ヨーロッパでいちばん美しいとされる女性の表現。それをゴッホが描いている、なんとも悩める乙女っぽくて。素敵なピンク。

6月 小茂田青樹《虫魚画巻》(部分) 1931年 東京国立近代美術館
大好きなお魚で、夏至のお祭りを。夏のシンボル(?)の金魚さんと、暑苦しい時期を快適に過ごそう。

7月 ポール・シニャック《サン=トロぺの港》 1901-02年 国立西洋美術館
大好きな作品。夏、海、夕暮れ。

8月 岸田劉生《道路と土手と塀(切通之写生)》 1915年 東京国立近代美術館
くっきりとした影が、晩夏の青空の下に落ちている。抒情的。日本の八月はもう、秋だよね。

9月 ヴァシリー・カンディンスキー《絵の中の絵》 1929年 国立国際美術館
秋の港。中原中也の詩「港市の秋」を思い出しながら、暖色系に彩られた港を秋と見る。

10月 板谷波山《朝陽磁鶴首花瓶》 1942年 東京国立近代美術館工芸館
赤い、紅葉のいろの、シャープな花瓶には、きっと細い細いはなびらが幾重にも重なり、こぼれおちそうな、シャープな菊の花が似合うかと。想像力が重要。

11月 福田平八郎《雨》 1953年 東京国立近代美術館
冷たい秋の雨。中学生のころから、11月の雨にはいろいろと思うことがある。

12月 アルフレッド・スティーグリッツ《ターミナル》 1892年 京都国立近代美術館
忙しそうな雪の駅。忙しい師走にこそ似つかわしい。

いかがでしょうか。クレーの「花ひらく木をめぐる抽象」以外は見事に全て違う作品があがりました。ほぼ不一致です。なかなか一筋縄ではいきません。

クレー作はさておき、ほかはさらに話し合いの上、各々がいわば仲良く6点ずつ、計12枚の作品を決めることにしました。最終的に決まったのは以下の通りです。



1月 上村松園《舞仕度》 1914年 京都国立近代美術館
2月 ダンテ・ガブリエル・ロセッティ 《愛の杯》 1867年 国立西洋美術館
3月 パウル・クレー《花ひらく木をめぐる抽象》1925年 東京国立近代美術館
4月 小林古径《極楽井》 1912年 東京国立近代美術館 1912年 東京国立近代美術館
5月 フィンセント・ファン・ゴッホ《ばら》 1889年 国立西洋美術館
6月 小茂田青樹《虫魚画巻》(部分) 1931年 東京国立近代美術館
7月 ポール・シニャック《サン=トロぺの港》 1901-02年 国立西洋美術館
8月 ジョゼフ・ヴェルネ 《夏の夕べ、イタリア風景》 1773年 国立西洋美術館
9月 ニコラ・ド・スタール 《アグリジェントの丘》 1954年 国立国際美術館
10月 下村観山《木の間の秋》 1907年 東京国立近代美術館
11月 ヴィルヘルム・ハンマースホイ《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》 1910年 国立西洋美術館
12月 アルフレッド・スティーグリッツ《ターミナル》 1892年 京都国立近代美術館

この内容で注文。価格は壁掛けタイプで2900円(税別)です。ただし送料が一律750円かかります。そして待つこと一週間。カレンダーが自宅に届きました。



大きさA3サイズ。表紙は国立西洋美術館です。思いの外に作りは頑丈。特に紙がしっかりしています。もちろん作品の図版の質も上々でした。なおカレンダーは一部、手作りで製作されるそうです。



注文は24時間で受付中です。ただし年内に受け取るには12月18日(日)までに注文する必要があります。ご注意ください。



国立美術館オリジナルカレンダー。まさしく千差万別。おそらく一つとして同じカレンダーは出来ません。一人で選んでも、家族と選んでも楽しい。試してみてはいかがでしょうか。

「国立美術館オリジナルカレンダー」
https://www.comody.jp/nma/

「発信//板橋//2016」 板橋区立美術館

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板橋区立美術館
「発信//板橋//2016 江戸ー現代」
2016/12/3~2017/1/9



2011年にスタートした板橋発、現代美術を紹介する「発信//板橋」シリーズも、今年で3回目を数えるに至りました。

テーマは「江戸ー現代」です。区内在住の彫刻家、深井隆を監修に迎え、平面3名、立体4名の作家が作品を展示しています。


奥畑実奈「華爪2016」 2016年

江戸時代にも盛んな蒔絵の技法をネイルに取り込みました。奥畑実奈です。図版の「華爪2016」は文字通りのネイルです。紅葉の紋様を漆で表現しています。螺鈿を用いたネイルもありました。伝統に立脚しながらもスタイリッシュです。まさに江戸と現代の感性を行き来しているのではないでしょうか。


白石顕子「板橋」 2011年

白石顕子は狩野派の屏風絵の余白に板橋の風景を重ねました。いずれも油彩画です。高島平団地でしょうか。とりわけ団地の建物を連ねた風景に目がとまりました。ひたすら静寂に包まれています。画肌が独特です。やや凹凸があります。独特の温もりを感じました。


深井隆「月の庭ー星が降りた日」 2011年

禅寺の枯山水から着想を得たのが深井隆です。タイトルは「月の庭」。モチーフは木彫のペガサスです。床には球、ないし半円のオブジェが転がっています。銀箔なのか鈍い光を放っていました。空間は暗室です。まるで宇宙をペガサスが駆けているかのようでした。

木彫家として活動しながら、根付にも取り組んでいるのが人見元基・狛です。根付は江戸時代の発祥。人見は本名、狛は根付作家としての名です。面白いのは過去の木彫を根付に表現していることでした。大から小への展開です。道化や動物たちがユーモラスに象られています。


山口晃「新東都名所 芝の大塔」 2014年 ミヅマアートギャラリー

人気の山口晃は7点を出展。目立つのは「Tokyo山水(東京圖2012)」です。山手線内の東京のパノラマに江戸の建物が混在します。ほかは日本橋三越などの百貨店圖が3点。意外にも新作がありました。「オービタルランドルト環」です。環、リングをモチーフにした一枚です。煙のようになびく水墨の環の中に都市が浮かび上がっています。余白の靄には小舟の姿も垣間見えました。



会場外、美術館の前に大きな石が転がっています。川島大幸です。この実物の石を導入に、会場内では枯山水に火星のイメージを重ねあわせています。思わぬ光景が広がっていました。



こじんまりとした展覧会ではありましたが、現代へ江戸を呼び込んだ様々な表現を知ることが出来ました。

2017年1月9日まで開催されています。

「発信//板橋//2016 江戸ー現代」 板橋区立美術館@edo_itabashi
会期:2016年12月3日(土)~2017年1月9日(月・祝)
休館:月曜日。年末年始(12/29~1/3)。
時間:9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般400円、高・大生200円、小・中学生無料。
 *毎週土曜日は高校生以下無料。
住所:板橋区赤塚5-34-27
交通:都営地下鉄三田線西高島平駅下車徒歩13分。東武東上線・東京メトロ有楽町線成増駅北口2番のりばより増17系統「高島平操車場」行き、「区立美術館」下車。

「戦国時代展」 江戸東京博物館

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江戸東京博物館
「戦国時代展ーA Century of Dreams」 
2016/11/23~2017/1/29



江戸東京博物館で開催中の「戦国時代展ーA Century of Dreams」を見てきました。

15世紀末から16世紀末にかけ、多くの武将たちが覇権を求めて争った戦国の世。まさに群雄割拠です。好きな武将、ないし大名の一人や二人を挙げるのはそう難しいことでもありません。

その戦国時代に関する資料や美術工芸品が江戸東京博物館へとやって来ました。

構成がややユニークです。大まかな時間軸こそ踏まえていますが、必ずしも通史的ではありません。「合戦」、「群雄」、「権威」、「列島」といったテーマの元、戦国時代の様々な諸相を明らかにしています。


「米沢本 川中島合戦図屏風 左隻」(部分) 米沢市上杉博物館 *前期(11月23日~12月25日)展示

始まりは合戦、一際大きいのが「川中島合戦図屏風 米沢本」でした。かの時代でも特に有名な一戦。屏風は最も激戦であった第4次合戦を描いています。言わずと知れた信玄と謙信の一騎打ちです。舞台は左隻の中央、川の浅瀬でした。謙信が振り下ろした太刀を信玄が軍配で受け止めています。右へ左へと広がる武将らの描写も緻密です。まるで騎馬の掛ける音が聞こえるかのようでした。


「姉川合戦図屏風」 天保8(1837)年 福井県立歴史博物館 *11月23日~12月11日展示

屏風絵ではもう1点、「姉川合戦図屏風」も力作ではないでしょうか。ほかおそらく実際の戦場で使われた軍配や法螺、指物なども展示。かの時代を臨場感のある形で知ることが出来ました。


「織田信長像」 17世紀頃 京都・大雲院 *前期(11月23日~12月25日)展示

「群雄」では武将の肖像画が目立ちます。足利義政、三好長慶、浅井長政、上杉謙信、そして織田信長などです。信長の肖像は有名な永徳画ではなく、嫡子信忠ゆかりの大雲院に伝わる作品でした。衣冠束帯の姿です。切れ長の目を開いては取り澄ました様で座っています。

古文書展と思うほどに古文書類が充実しています。特に重要なのが国宝の「上杉家文書」です。これは米沢藩主の上杉家に代々伝わる文書のことで、武家文書として初めて国宝に指定されました。内訳は書状や起請文です。今川氏真、北条氏綱、徳川家康らの書が収められています。かなりの数がありました。また1通ずつに口語訳も付いていてわかり易い。一つのハイライトと言っても差し支えありません。


「色々威腹巻 兜・大袖付」 室町時代 島根・佐太神社 *前期(11月23日~12月25日)展示

反面、群雄らの所用した太刀と甲冑の点数は多くありません。刀は3~4点ほど、甲冑も数点に過ぎません。もちろん梶の葉の鍬形が面白い「色々威腹巻 兜・大袖付」など貴重な品ばかりでしたが、刀や甲冑に数を求めると、いささか物足りなさを覚えたのも事実でした。


「北野天神縁起」(部分) 土佐光信 文亀3(1503)年 京都・北野天満宮

美術工芸品で目を引いたのが「瀟湘八景図」でした。元は大徳寺の襖絵です。16面のうち2面、掛軸に改装されています。湿潤な空気を漂わせながら山水の雄大な景色が広がります。また「北野天神縁起絵巻」もお出ましです。絵は土佐光信、詞を三条西実隆が記しました。ただ開いている部分は僅かです。もう少し見られればとは思いました。

戦国は全国的に人の往来が盛んな時代でもありました。また取引に際し、金銭も流通します。「一括出土銭」が強烈です。多数の銭。全部で5万枚もあるそうです。さらに外国との交易品として三彩釉の壺なども展示されていました。

ラストを飾るのは戦国の覇者、家康の「東照大権現像」でした。100年にも及ぶ乱世。各種資料を通して網羅的に見ることが出来ました。

最後に展示替えの情報です。会期中、前後期で大半の作品が入れ替わります。

「戦国時代展(東京会場)出品リスト」(PDF)
前期:11/23~12/25
後期:1/2~1/29

前期は主に西国、後期は東国の大名に因む作品が出展されるそうです。ほぼ2つで1つの展覧会と言っても差し支えありません。


「黒塗紺糸威具足」 天文5(1536)年 秋田市佐竹史料館 *後期(1月2日~1月29日)展示

会場内は思いの外に賑わっていました。入場時の待機列こそありませんでしたが、刀のコーナーのみ、最前列で鑑賞するための列が出来ています。ただし2列目からであれば待つことなく見ることが可能です。



2017年1月29日まで開催されています。東京展終了後、京都文化博物館(2017/2/25~4/16)、米沢市博物館(2017/4/29~6/18)へと巡回します。

「戦国時代展ーA Century of Dreams」@sengokuperiod) 江戸東京博物館@edohakugibochan
会期:2016年11月23日(水)~2017年1月29日(日)
時間:9:30~17:30
 *毎週土曜は19:30まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し2017年1月2日、9日、16日は開館。年末年始(12/26~1/1)。
料金:一般1350(1080)円、大学・専門学生1080(860)円、小・中・高校生・65歳以上680(540)円。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *常設展との共通券あり
 *毎月第3水曜日(シルバーデー)は65歳以上が無料。
住所:墨田区横網1-4-1
交通:JR総武線両国駅西口徒歩3分、都営地下鉄大江戸線両国駅A4出口徒歩1分。

「柳幸典 ワンダリング・ポジション」 BankArt Studio NYK

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BankArt Studio NYK
「柳幸典 ワンダリング・ポジション」 
2016/10/14~2017/1/7



現代美術家の柳幸典が、新旧作を交え、BankArtの空間を最大限に活用した個展を行っています。


「Project Red White and Blue」

冒頭は旧作、「Red White and Blue」のプロジェクトでした。90年代初頭のドローイングが並んでいるほか、パフォーマンスなどが映像で示されています。


「Project Article 9」

川俣正のステージを舞台にした「Article 9」からして鮮烈です。LEDを使ったインスタレーション。床へたくさんのLEDが散乱しています。一体、何個あるのでしょうか。いずれも赤い光で文字を灯しています。


「Project Article 9」

article、すなわち条項ないし個条です。テーマは憲法第9条でした。「永久に」や「陸海空軍」、それに「国際紛争」などの9条の条文が記されています。「誠実に希求し」は文字が逆さになっていました。全ては乱雑に分断されています。憲法が解体されているということなのでしょうか。とは言え、必ずしも柳の意図は明らかではありません。

BankArtは3層構造です。次ぐ会場は2階です。そこでは柳の制作で最も知られる「Ant Farm」のシリーズが展開していました。


「Ant Farm Project」

一面にずらりと並ぶのは世界各国の国旗です。しかしながら素材は布ではありません。砂です。透明なプラスチックボックスに入っています。そして一部のボックスは互いに細いチューブで繋がっていました。


「Ant Farm Project」

国旗に近づいてみれば一目瞭然、所々が割れていることが分かります。原因は蟻です。つまり柳は砂で国旗をデザイン。その後に蟻を放ちます。すると蟻は自由自在、もちろん国旗の存在を意図する間もなく、歩きまわり、穴を掘っては、砂を崩していきます。その結果、国旗の形も変容するわけです。中にはズタズタに引きちぎられているものもありました。


「Ant Farm Project」

柳は蟻を移民に準えているのかもしれません。さらに紙幣にも這わせて引き裂いています。資本主義経済への警鐘の意味もあるのではないでしょうか。

ちなみに柳は一連の「Ant Farm」を1993年のヴェネチア・ビエンナーレに出品。アペルト部門を受賞します。世界で柳の名を一躍有名にしました。


「Hinomaru Project」

日の丸をモチーフとした「Hinomaru」も興味深い。やはり旗に蟻を放っています。また別の日の丸にも目がとまりました。無数の小さな粒が連なります。近づいて驚きました。何と印鑑です。たくさんの印鑑を押しては日の丸に象っています。さらに床では赤い戦車が円を描いていました。様々な形で日の丸を表現しています。


「INUJIMA Project」

3階では近年、柳が精力的に手がけている犬島プロジェクトについても紹介。パネルや模型などが展示されていました。

さて本展、この3階こそがハイライトです。驚くべき作品が待ち構えていました。


「ICARUS CELL」

まずは「ICARUS CELL」です。鉄製の大きな構造物。壁のように遮っているため、行き先が見通せません。開口部に「こちらからお入りください」との案内があります。恐る恐る、足を踏み入れました。


「ICARUS CELL」

入口付近は朱色に光る太陽が映されています。進む先は鏡の迷路です。曲がり角が幾つもあります。文字が刻まれていました。引用は三島由紀夫の随筆、「太陽と鉄」です。通路の先には終始、白い光が見えます。後ろは常に太陽。いくら曲がっても追いかけてきます。光に導かれ、陽に追われ、さらに先へと進みました。


「ICARUS CELL」

ラストの鏡は上に向き、外の光が取り込まれています。「私が飛び翔とうとした罪の懲罰に?」との一節がありました。実は本作、犬島プロジェクトのコンセプトモデルです。ICARUS、つまりギリシア神話のイカルスは、自在に飛ぶ力を得るも、太陽に近づきすぎ、羽を落として墜落してしまいます。科学や人間の傲慢さへの戒めです。そのエピソードを踏まえた作品なのかもしれません。


「ABSOLUTE DUO」

「ICARUS CELL」を過ぎると、何と爆弾が吊り下がっていました。モチーフはリトルボーイ。広島に落とされた原爆です。しかも実寸大です。イカルスの見た太陽を原爆の炸裂した光に置き換えていたとしたら恐ろしい。有無を言わせない存在感があります。


「Project God-Zilla」

さらに凄まじいのが「God-Zilla」です。つまりゴジラ。ただし身体は瓦礫です。無数の角材が積み上がり、中にはベットや布団、それにソファに椅子、はたまた自転車や車までがひっくり返っています。


「Project God-Zilla」

中には「遮」と記された黒い袋もありました。放射性廃棄物でしょうか。とすれば否応なしに3.11の大津波、はたまた福島の原子力災害を連想させます。振り返ればゴジラも放射能、ビキニ環礁の核実験で生まれました。


「Project God-Zilla」

ぎょろりと光るのがゴジラの目です。中は映像でした。よく見ると日本の戦後に起きた事件が映されています。中には三島由紀夫の演説もありました。


「Project God-Zilla」

それにしても目は凶暴。言い換えれば暴力的です。この暗がりに雌伏していたゴジラは、かの事故を踏まえ、また息を吹きかえそうとしているのでしょうか。思わず後ずさりしてしてしまいました。


「Pacific Project」

30年に及ぶ柳の表現の集大成とも呼べる展示ではないでしょうか。作品はもとより、黙示的とも受け止められるメッセージも強烈です。圧巻の一言でした。

柳幸典「ワンダリング・ポジション」会期延長のお知らせ

当初の会期が延長されました。2017年1月7日まで開催されています。おすすめします。

「柳幸典 ワンダリング・ポジション」 BankArt Studio NYK
会期:2016年10月14日(金)~2017年1月7日(土)
休館:会期中無休。
時間:11:00~19:00
料金:一般1200円、大学・専門学校生・横浜市民/在住900円、高校生・65歳以上600円。
住所:横浜市中区海岸通3-9
交通:横浜みなとみらい線馬車道駅6出口(赤レンガ倉庫口)より徒歩5分。

「北参道オルタナティブ」  北参道オルタナティブ会場

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北参道オルタナティブ会場
「北参道オルタナティブ」
12/10~12/26



北参道駅近くの空き家にて現代美術家らによるグループ展が行われています。


椛田有理「空知らぬ星 No.0」 2013年

出展は11名。絵画や立体、それにインスタレーションを問いません。まず目立つのは今回の展示を企画した椛田有理の「空知らぬ星 No.0」でした。透明のアクリルでしょうか。何枚か吊り下げては黒い斑点を前後に浮き上がらせています。まるで木立の茂みを見るかのようでした。


角文平「Nursery Plant」 2016年

木立といえば、角文平の彫刻もモチーフは植物です。タイトルは「Nursery Plant」。樹木を象っています。素材は鉄にスポンジです。さらに面白いのは人工芝を使っていることでした。部屋いっぱいです。はみ出さんばかりに枝を伸ばしています。


桑山彰彦「metro map 2016」 2016年

東京の路線図を思わぬ形で表記したのが桑山彰彦です。ずばり「metro map 2016」。例の見慣れた路線図が表されています。初めは単に英語表記の路線図かと思いました。もちろん実際は違います。例えば池袋は「Pond Bag」。池に袋です。そして新木場は「New Tree Place」、上野は「Upper Field」とあります。日本語の意味に着目したのでしょうか。


桑山彰彦「Horizontal practice」 2016年

その桑山が鉄を素材にした大型の作品を出展しています。「Horizontal practice」です。数メートルはある鉄の板が上下左右、部屋の中に吊られています。所々は折り曲がっています。一部は格子や階段状に連なっていました。彫刻がまるで触手のように空間を侵食しています。


ヒグラシユウイチ「SALT ARMS M16A2 Carbine」 2016年

ヒグラシユウイチはモデルガンを制作。ただし素材は岩塩です。人を傷つける武器を、逆に身体にとって必要不可欠な塩で象りました。


原田郁 展示風景

さらに原田郁は観葉植物と古材を用いたインスタレーションを展開。さほど広いスペースではありませんが、思いの外に大掛かりな作品も少なくありません。


北参道オルタナティブ 展示風景

幾つかの小さなギャラリーが集まったような展示です。空き家というスペースへうまく落とし込んでいました。



一部作品にプライスリストがついていました。販売も行われているようです。

入場は無料です。12月26日まで開催されています。

「北参道オルタナティブ」  北参道オルタナティブ会場
会期:12月10日(土)~12月26日(月)
時間:11:00~19:00
休館:火曜日、水曜日。
料金:無料。
住所:渋谷区千駄ヶ谷3-1-4
交通:東京メトロ副都心線北参道駅から徒歩3分。JR線原宿駅から徒歩6分。東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅から徒歩10分。

「日本におけるキュビスムーピカソ・インパクト」 埼玉県立近代美術館

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埼玉県立近代美術館
「日本におけるキュビスムーピカソ・インパクト」
2016/11/23~2017/1/29



20世紀初頭、ピカソとブラックにより始まったキュビスムは、日本の芸術家にも大きく影響を与えました。

そうした日本におけるキュビスムの受容、ないし変容を俯瞰する展覧会です。出品数は全160点。(一部に展示替えあり。)かなりのボリュームがありました。

出発点は1907年。ピカソが「アビニヨンの娘たち」を描いたことに由来します。1911年にはパリのアンデパンダン展でキュビスムが大きく注目を浴びます。その芸術革命は程なくして日本の画家に伝えられました。


萬鐵五郎「もたれて立つ人」 1917年 東京国立近代美術館

冒頭は1910年から1920年代の展開です。中心となるのは渡欧していた画家でした。パリへ留学していた東郷青児を筆頭に、田中保、久米民十郎のほか、いち早く潮流を受け取った萬鉄五郎などの作品が展示されています。


東郷青児「帽子をかむった男(歩く女)」 1922年 名古屋市美術館

日本で初めてキュビスムとして紹介されたのが東郷青児の「コントラバスを弾く」でした。キュビスム画に頻出する楽器がモチーフです。対象を一度、解体し、無数の線を組み上げては、コントラバス奏者を描いています。さいたまに生まれた田中保も一時、キュビスムを受容しました。「キュビストA」では色面を分割して人の姿を捉えています。


尾形亀之助「化粧」 1922年 個人蔵

キュビスムの内実は多様です。いわゆる総合的と分析的、そして日本の画家に特に影響を与えた古典的と呼ばれるキュビスムもあります。さらに同時代の未来派や構成主義なども入り混じりました。一筋縄ではいきません。

森田恒友の「城址」はブラックとの関係を指摘される一枚です。しかしながら画家がセザンヌに関心があったから、どこかセザンヌの風景画を思わせる面も否めなくありません。一方で岡本唐貴はレジェに関心を寄せます。分析的キュビスムの手法で作品を制作しました。

河辺昌久の「メカニズム」が特異です。何やら金属の配管が交差する空間を背に、人体の頭部が一つ、太い血管の切断面を露わにして横たわっています。手首も皮膚がはがれ、内部が露出。切断面には歯車が付いていました。キュビスムというよりもシュルレアリスム的とも捉えられるかもしれません。

飯田操朗は「作品」で人物を大きく変形させています。まるでダリのようです。また横井礼以は「庭」において絵具に砂を混ぜました。これはブラックに倣ったそうです。とはいえ、垣根や庭の土の色がせめぎ合う姿に緊張感はあまり見られません。どちらかといえば日本画の空間を連想しました。

結果的に1910年から1920年代のキュビスムは、「実験期を終えると、日本の画家によって深められることはなかった」(解説より引用)そうです。その後、再びキュビスムが隆盛するには、かの大戦の後、1950年代の到来を待つことになります。


池田龍雄「十字街」 1952年 練馬区立美術館

切っ掛けは1951年のピカソ展でした。東京と大阪で開催。これが大変な反響を呼びます。またピカソの「ゲルニカ」が、当時の反戦機運に連動します。そのイメージが多いに流行しました。ゲルニカ風の作品が数多く生み出されたそうです。

その一例と言えるのではないでしょうか。鶴岡政男の「夜の群像」です。頭部のない人体が群れています。背景は闇です。体はいずれも屈曲しています。痛々しい。抑圧された状況下にあるのでしょうか。ゲルニカのモチーフを思い起こさせます。

さらにゲルニカ的なのが山本敬輔の「ヒロシマ」でした。右上にはキノコ雲、かの原爆の惨状でしょう。デフォルメした身体はもはやゲルニカから飛び出してきたかのようです。実際に発表当時、あまりにもゲルニカ的に過ぎると評されました。

村上善男の「区分(内灘にて)」も興味深い作品です。たくさんの手が有刺鉄線の前に突き出ています。いずれも赤い。手の部分がデフォルメされ、いわばキュビスム的な表現が取られています。モチーフは米軍基地の反対闘争です。手は抗議の意思を示しています。


島多訥郎「森と兎」 1957年 栃木県立美術館

1950年代のキュビスムは広範囲に影響を与えます。何も洋画だけではありません。日本画や彫刻においてもキュビスムの手法が取り入れられます。例えば高山辰雄の「道」です。抽象度が高く、キュビスム的とも見えなくはありません。

ほかにはまるでホラー映画の一場面のような河原温の「肉屋の内儀」などもキュビスムの文脈で捉えています。1910年と1950年代の動向。そもそも2つの時代で影響を見るのも1つの仮説との断りがありました。何をもってキュビスム的とするかについては議論あるやもしれません。ただそれでも広義にキュビスムを見定めては、丹念に影響関係を検証しています。大変に見応えがありました。



これほど網羅的に日本のキュビスムを追う展示は滅多にないのではないでしょうか。なお出展の大半は日本人画家の作品です。一部にブラックとピカソの作品もありました。



2017年1月29日まで開催されています。これはおすすめします。

「日本におけるキュビスムーピカソ・インパクト」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:2016年11月23日 (水・祝) ~ 2017年1月29日 (日)
休館:月曜日。但し1月9日は開館。年末年始(12月26日~1月3日)。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大高生880(710)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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