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「トーマス・ルフ展」 東京国立近代美術館

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東京国立近代美術館
「トーマス・ルフ展」 
8/30~11/13



東京国立近代美術館で開催中の「トーマス・ルフ展」のプレスプレビューに参加してきました。

ドイツを代表する現代写真家のトーマス・ルフ(1958〜)。日本の美術館における初めての大規模な回顧展です。

作品は全18シリーズ。1980年代の初期作から初公開の新作までを網羅します。


トーマス・ルフ「Portraits (ポートレート)」 東京国立近代美術館
©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

冒頭はルフを半ば代表する「Portraits (ポートレート)」です。ただひたすらに前を向くモデルたち。正面性が強く、まるで証明写真のようです。いずれもルフの友人でした。そして何よりもサイズが大きい。高さは210センチです。つまり等身大よりも大きいポートレートです。さらに驚くべきは質感でした。画質は細かく、当然ながらブレがありません。元は24センチ×18センチのサイズでプリントされたそうです。それをルフは極限にまで引き延ばして提示しました。

ルフはデュッセルドルフの芸術アカデミーにてベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻に写真を学びます。そしてドイツ国内の室内風景を捉えた「Interiors(室内)」や先の「Portraits(ポートレート)」などで注目を浴びました。ほかアンドレアス・グルスキーやトーマス・シュトゥルートらもベッヒャー派の写真家とされています。


トーマス・ルフ「Interiors(室内)」 東京国立近代美術館
©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

「Interiors(室内)」はアカデミー在学中の作品です。「Portraits(ポートレート)」とは異なり小さい。被写体はルフの友人や家族の部屋です。その点ではポートレート同様にルフの身近な存在を捉えています。部屋には一切の手を加えず、ただ有り体に写し出しました。部屋には人の気配が僅かに残っています。とはいえ静寂に包まれていました。部屋の主はいかなる人物なのでしょうか。その辺を空想して見るのも面白いかもしれません。


トーマス・ルフ「Houses(ハウス)」 東京国立近代美術館
©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

ルフの関心の対象は常に拡張します。今度は部屋を飛び出して建築です。「Houses(ハウス)」ではデュッセルドルフ周辺の建物を写しました。一部は「Portraits(ポートレート)」と同様に真正面から捉えています。ベッヒャー派の特徴の一つとして挙げられるのがタイポロジーです。タイポロジーとは「同じタイプの対象を一定の方法で収集し、その上に差異や共通性などを見出す手法」(*)のことです。そして「ハウス」においても建物の「光や距離感がほぼ一定」(*)に保たれています。 *解説より

ちなみに「Houses(ハウス)」、にわかには気がつきませんが、時に2枚のネガをつなげるなど、コンピューターによる加工がなされているそうです。実はルフ、相当数のシリーズにおいて写真を操作しています。さらに近年ではネット上からイメージを取り出して作品へと転化しています。どう写すのではなく、どう見せるのかを強く意識しているのもルフの特徴と言えるのかもしれません。


トーマス・ルフ「nudes(ヌード)」 東京国立近代美術館
©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

そのネット上の画像を使ったのが「nudes(ヌード)」です。ヌードとあるように裸の人物が写し出されています。ただし画面は不明瞭。これもルフの画像処理のゆえのことです。色調も変え、細部も削除し、ヌードの構図、ないし身体の輪郭のみが認識できる程度にまで落とし込んでいます。ヌード自身も不特定です。モデルの名はおろか、そもそも誰が撮影したものかすら分かりません。


トーマス・ルフ「jpeg」 東京国立近代美術館
©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

ルフの加工の一つの極致とも呼べるのが「jpeg」です。よく知られるようにjpegとはデジタル画像の圧縮方式。9.11のテロの光景が写されていますが、これもルフ自身の撮影ではなく、ウェブサイトよりダウンロードしたものです。圧縮率を高め、画素を下げることで、jpegの格子状のパターンが浮かび上がっています。近づけば近づくほどイメージは崩れ、幾何学パターンにしか見えません。一方で少し離れると風景が立ちあがってきます。まるで絵画のようでした。


トーマス・ルフ「Substrate(基層)」 東京国立近代美術館
©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

もはや原型すら止めていないのが「Substrate(基層)」でした。赤や青、それに黄色の色が水面をたゆたうように広がっています。何やらネオンサインのようにも見えます。元はネット上の日本の漫画やアニメの画像です。そこにひたすら加工を繰り返します。イメージは全て解体され、色と光にのみ還元されました。

はるか彼方、天体や宇宙もルフの興味の対象です。そもそもルフは少年時代から宇宙に対してシンパシーを感じていました。幼き頃はカメラより望遠鏡を先に手に入れたそうです。


トーマス・ルフ「cassini(カッシーニ)」 東京国立近代美術館
©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

「cassini(カッシーニ)」はどうでしょうか。いうまでもなく宇宙探査船のカッシーニです。1997年に打ち上げられ、2004年に土星の軌道に到着。衛星や輪の画像を地球に送り続けました。ルフはその際に公開された画像を入手。これもネットから落としたものです。色彩に手を加えることにより、星はより美しく輝いているようにも見えます。土星の輪の断面はまるで何らかのデザインのようでした。


トーマス・ルフ「press++」 東京国立近代美術館
©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

昨年の最新作、「press++」は世界初公開です。素材は古色を帯びた報道写真のアーカイブです。これまたルフが入手。画像面と裏面を同時にスキャンし、一枚の画面に統合しました。文字や数字は本来は裏面にあったものです。画像に関する情報が写真画面上に現れています。


トーマス・ルフ「zycles」 東京国立近代美術館
©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

ほか、マン・レイらが開発したフォトグラムの技法を用いた「photograms(フォトグラム)」や、カンヴァス上にイメージを出力した「zycles」も面白い。ルフといえばとかく特大のポートレートの印象があるやもしれませんが、まさかこれほど多様に制作を続けているとは思いませんでした。

[トーマス・ルフ展 巡回予定]
石川:金沢21世紀美術館 2016年12月10日(土)~2017年3月12日(日)



全ての作品の撮影が可能です。作家、作品、並びに展覧会、美術館名の情報をそれぞれ掲載すると、ネット上でも私的に利用が出来ます。


プレビュー時のトーマス・ルフ

11月3日まで開催されています。

「トーマス・ルフ展」 東京国立近代美術館@MOMAT60th
会期:8月30日(火)~11月13日(日)
休館:月曜日。但し7/18は開館。翌7/19は休館。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜日は20時まで。
 *入館は閉館30分前まで
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生800(500)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *当日に限り「MOMATコレクション」、「奈良美智がえらぶ MOMAT コレクション:近代風景 ~人と景色、そのまにまに~」も観覧可。
住所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。

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