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「ジョセフ・クーデルカ展」 東京国立近代美術館

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東京国立近代美術館
「ジョセフ・クーデルカ展」 
2013/11/6〜2014/1/13



東京国立近代美術館で開催中の「ジョセフ・クーデルカ展」を見てきました。

1938年にチェコスロヴァキアで生まれ、1968年に起こった「プラハ侵攻」を撮影したことでも知られるジョセフ・クーデルカ。侵攻事件後はイギリスへと移住。以降もヨーロッパを渡り歩きながら多様な写真家活動を行っている。

一昨年には恵比寿の写真美術館でプラハの連作を紹介する展示がありましたが、少なくとも国内において初期作から近作までを一同に展観したことはありませんでした。

アジア初の大規模な回顧展です。クーデルカの全貌を紹介します。

[展覧会構成]
1.初期作品 Beginnings 1958-1961
2.実験 Experiments 1962-1964
3.劇場 Theater 1962-1970
4.ジプシーズ Gypsies 1962-1970
5.侵攻 Invasion 1968
6.エグザイルズ Exiles 1970-1994
7.カオス Chaos 1986-2012

まず冒頭は1961年のデビュー時から。プラハの劇場のロビーで行われた個展です。モチーフは風景や人物と様々ですが、ブレにボケも多用し、時にシュールな作風も展開。また引きのある大胆な構図感などは近作の「カオス」に通じるものもあります。


「実験 Experiments」1962-1964

また同じく60年代に演劇誌の表紙を飾った一連のシリーズが目も引きます。ここではモチーフを大胆にクローズアップし、ハイコントラストの中に落とし込む。舞台で踊るダンサーの目まぐるしい動きも画面に捉えます。クーデルカのこの後の作風からすると異色ですが、彼がこうした実験的な作品を手がけていたとは知りませんでした。

さてクーデルカの真骨頂とは。それは「ジプシーズ」ではないでしょうか。彼が最初に大きなテーマをもって取り組んだ連作群。チェコの各地を廻りながらジプシー、つまりロマの人々の生活を写した作品。これが非常に魅力的なのです。


「ジプシーズ Gypsies」1962-1970

まさに老若男女。被写体は多様です。団らんなのか、おそらくは家族が集う姿。また子どもたちが遊び、ピストルを構えている。一転してこちらをじっと見やる人々のポートレートも。強い意思を持った眼差しです。さらに古びたベットに机に椅子の置かれた無人の空間。まるで静物画のようでもあります。あくまでもクーデルカはドキュメンタリー的にロマの人々を見つめていますが、作品としてはどこか絵画的であったり、またドラマのワンシーンを見ているような印象も与えます。強度のある写真。ビジュアルとして目に焼き付きました。

そして「侵攻」です。言うまでもなく1968年、ワルシャワ条約機構軍がプラハに軍事介入をした時の光景を捉えたもの。翌年にクーデルカが匿名で西側に発表しました。


「侵攻 Invasion」1968

ソビエト軍の戦車に立ち向かう人々。あらぶる兵士に銃口を向けられる男たち。濛々と立ちこめる粉塵。焼けこげた家の前で唖然として立ち尽くす老人。歴史の証言。暴力と理不尽。もう言葉になりません。なお出品は10点ほどです。あくまでも今回は回顧展ということでプラハの占める割合は多くありませんが、さすがに見入るものがありました。

さてクーデルカはこの侵攻後、1970年にチェコスロヴァキアを出国。イギリスへと渡り、言わば亡命生活を送ります。

その亡命者としての彼の視点を伝えるのが「エグザイルズ」です。イギリスやフランスなどのヨーロッパ各地を旅して歩きながら写した作品群。これが何とも言えない深い味わいがあります。


「エグザイルズ Exiles」1970-1994

さながらトマソンの如く佇むベンチや街角のゴミを写していく。また死者や傷を負った人を捉えた作品も目立ちます。人の痛みに対する共感があるのでしょうか。それでいて景色は不思議と殺伐としている。今度はロマの立場に立ったクーデルカ。見知らぬ土地に立った時の孤独感や寂寥感がひしひしと感じられます。


「カオス Chaos」1986-2012

ラストは大きく変容しての「カオス」。パノラマフォーマットのカメラを利用しての大規模な作品です。写されるのは遺跡や海岸線のテトラポットなどのランドスケープ。また祭壇画ともベーコンのトリプティックを連想するような作品も。巨大な人工物と大自然とがせめぎ合い、風景は時に抽象化されていきます。半ば神の視点。スケール感を揺さぶるグルスキー的な展開も見られました。

「Chaos/ Josef Koudelka/Phaidon Press」

それにしても大仰とも言える「カオス」。率直なところ共感出来なかったのも事実です。しかしながら人間から景観へ。地球的規模を捉えようとするクーデルカの関心。舞台、演劇からプラハでの事件、そして流浪を超えて得たものの行方、また現在。近作とはいえ「カオス」は20年以上に渡って撮られ続けられています。その中での変化も一つのキーワードになるかもしれません。

会場の構成がやや変わっていました。基本的には時系列での展示ですが、特に後半は順路がやや錯綜し、異なったシリーズが相対する壁に並んでいることもあります。なお設営に関してはクーデルカ自身の意図だということでした。


ミヒャエル・シュミット「休戦」より 1985-87年

なお本展にあわせて開催中の所蔵作品展(第11〜12室)も充実しています。クーデルカと同年生まれという森山大道の初期作「にっぽん劇場」全100点が、何と18年ぶりに一括で公開中。またその他にもグルスキー、シュトゥルート、シュミットにティルマンスらといった海外の写真家も。中でもベルリンの壁のイメージを取り込んだシュミットの「休戦」に惹かれました。こちらもお見逃しなきようご注意下さい。

図録がリーズナブルです。当然ながら図版の質感はオリジナルに及びませんが、クーデルカに関するテキストを日本語で読むことが出来ます。

2014年1月13日まで開催されています。まずはおすすめします。

「ジョセフ・クーデルカ展」 東京国立近代美術館@MOMAT60th
会期:2013年11月6日(水)〜2014年1月13日(月)
休館:月曜日。但し12/23、1/13は開館。12/24は休館。年末年始(12/28〜1/1)。
時間:10:00〜17:00(毎週金曜日は20時まで)*入館は閉館30分前まで
料金:一般850(600)円、大学生450(250)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *割引引換券あり
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。

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